灰野敬二/Pan Sonic 「Shall I Download A Blackhole And Offer It To You」(2009)

 灰野へ敬意を払いつつ控えない。芳醇なインプロが詰まったパン・ソニックとのライブ盤。

 邦題は「ブラックホールをダウンロードして君にあげようか」。
 07年11月15日にベルリンで行われたパン・ソニックとして灰野とライブで初共演した音源。2年後にリリースへ至った。共演のパン・ソニックは97年に結成のフィンランドのエレクトロニカ・ユニット。2010年に解散へ至る。

 Wikiによればパン・ソニックが07年2月来日の際に、メンバーのイルボ・ヴァイサネンが体調不良で来日がずれ、山口でのライブはもう一人のメンバーミカ・ヴァイニオが灰野デュオ。これが厳密には初共演と言えるそう。
  この9ヶ月後、本盤へ至る前にドイツでパン・ソニックと灰野はスタジオに入る。それがLP2枚分の音源"In The Studio"(2010)。
 その数日後、のステージが本盤となる。当時のライブ映像の断片がYoutubeにあった。


 本盤はタイトルなし、10個のトラックが切られている。大まかな場面の変化でトラックを打っており、特段の編集や加工はなさそう。断片と加工を施した"In The Studio"と対照的だ。

 長尺一本の音源は、場面ごとを簡単に楽しみづらいため、本盤のような配慮は嬉しい。マスタリングはDenis Blackhamが担当、灰野は演奏のみで本盤の製作には深くかかわっていないかも。
 全体的にべったりと固まってマスタリングされ、オーディエンス録音みたいな感じだ。今一つ音に迫力がない。かなりボリュームを上げないと。

 静かな響きから灰野のシャウトへ。つんざくハーシュノイズに轟音ギターが加わる。
 灰野を紹介するような場面から、パン・ソニックの目立つブロック。そして灰野が暴れパン・ソニックがリズムやハーシュをばらまいた。
 即興的にパン・ソニック側も音を出しており、有機的なセッションの醍醐味は味わえる。

 灰野は好調な波で、叫びとギターの他に笛や三味線のような楽器も使い分け、77分位の短い間で、がらがらと場面転換を行う。パン・ソニックへ見せ場も作りながら。この辺はむしろ、エンターテイナーなつかみを心得てる。
 長尺の酩酊感より、異国の観客相手にバッと空気を変える鮮やかさを選んだ。こういう柔軟性はさすがのキャリアであり、場を読む力に長けている。しかも自分の持ち味や個性を全く崩してない。

 灰野の声も甲高い叫びから、極低音の蠢きまでフルレンジを繰り出す。笛でオリエンタルな酩酊さをふるまい、ギターで漆黒の緊張を描いた。
 ドラムの叩き方も灰野っぽい揺らぎあるが、もしかして叩いてもいる?

 パン・ソニック側もビートに頼らず、ノーリズムで電子音をばらまくなどバリエーションを持たせた。もちろん、ハイテンポで打ち出すBPMを出し、エレキギターで灰野が応える展開もあり。

 しかも轟音一辺倒ではない。ぐっとボリュームを下げ、密やかに電子音がきらめく場面も作った。多彩だな。
 灰野はサンプリング・ディレイを駆使し、自分の音をその場でループさせながら音を足す。パン・ソニックもそれをわきまえて、むやみに音を出し続けない。だからかなりスッキリと見通し良いアレンジになった。

 つまりさまざまな要素が目まぐるしく現れ、緊張感を保ったままバラエティある豪華な空間を作ってる。
 パン・ソニックの瞬発力と構成力、灰野の多彩さとサービス精神が見事に絡まり、すごく聴きごたえある取っつきやすい一枚に仕上がってる。 

 なお灰野とパン・ソニックは2010年にもライブを行った。短い動画だが、ライブの様子がYoutubeにあり。
  

Track listing:
1 Untitled 5:40
2 Untitled 8:52
3 Untitled 9:28
4 Untitled 5:37
5 Untitled 8:16
6 Untitled 10:42
7 Untitled 8:15
8 Untitled 6:09
9 Untitled 6:08
10 Untitled 8:18

Music By 灰野敬二,Ilpo Vaisanen, Mika Vainio

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