Don't Steal My Coat (2009:No Music Records)

 ドラムやシンセといったアナログ質感をハーシュノイズとあれこれ混ぜた一枚。

Recorded and Mixed at Munemi House, Tokyo Oct - Nov 2008.
Music By Masami Akita

 "Goat"はスペルミスで実際は"Coat"。動物愛護がテーマだが、ヤギではなく羊毛の刈り取りに不満を示した作品だそう。1000枚限定で、ロシアのレーベルから発売された。

 ラップトップ・ノイズのデジタルから脱却を図り、ドラム演奏を筆頭にアナログ回帰を示し始めた月刊"日本の鳥"シリーズと同時期の録音。ちょうど"Suzume: 13 Japanese Birds Pt. 1"(2009)と同じ時期の音源だ。(1)はその盤のアウトテイクかもしれない。

 本盤の特徴は曲ごとにアプローチが微妙に違うところ。楽器編成やアイディアを「ドラム+ハーシュ」に留めない。ある種、オムニバスのようにこの時代のメルツバウを封じ込めた。
 意外とこの時期のメルツバウを概況できる一枚、にちょうどいい。

<全曲感想>

1. Part 1 22:20

 しょっぱなから強力に立ち上がり、ドラムとハーシュのせめぎあいにシンセのノイズがからまる。ハイテンション力押しのフリージャズ・セッションのよう。実際はすべて秋田の多重録音だが。
 重厚かつとげとげしい痛快なノイズが炸裂だ。ヘッドフォンで聴くと個々の音が、さらにきれいに聴き分けられる。周波数帯域を上手く分けて、細かく丁寧な音像に仕上げた。音の壁や団子ではなく、編み上げられた繊細でざらついた世界。

 ドラムはフリーなテンポを保つ。ハーシュ・ノイズが一定で少し速めなミドル・テンポを促し、ドラムは譜割やテンポを変えながらもあまりサウンドを牽引しない。むしろ構造の一要素としてせめぎ合った。

 音像の構成は常に変わっている。総力戦ではなく変化を続けるメルツバウらしいドラマ性を秘めた作品。ただしストーリー性は読み取りづらい。次々にアイディアを詰め込んだ咆哮の方向か。
 中盤ではドラムが主体に立ち、ノイズと掛け合いみたいな場面も現れる。

2. Part 2 (Bloody Sea Of Taiji) 12:18

 タイトルから言うと、羊毛でなく「胎児の血の海」と違う動物愛護のテーマともとれるが、詳細はわからない。
 ドラムは使わず、インダストリアルなデジタル・ノイズが噴出した。工場の機械めいたビートが冒頭に提示され、ハーシュと途中からアナログ・シンセのいななきが存在感を示した。
 
 この曲も常に場面が変わり続ける、メルツバウらしい一曲。音圧はみっちり詰め込みながら、立体的な奥行きもあり。

 強烈なハーシュのざわめきが途中でビートを飲み込み、幾本もの噴出がそそり立つ。けれども冒頭のビート感はリズムが無いのにテンポを漂わせ続けた。

 そして4分位でシンセの明滅がビートをジワッと加速させる。いっぽうでハーシュはぎゅうっと締め付ける。せめぎあいがスリリング。
 互いに音が滲み、構成要素は入れ代わり続ける。だが溶融せず分離するミックスが特徴だ。
 スピーカーよりヘッドフォンのほうが味わいが細かい。 

3. Part 3 14:38

 クリアなドラムの音とアナログ・シンセの組み合わせ。デジタルも使ってるかな?金属質なノイズも加わり、空虚で膨らみある空間が描かれた。
 ドラムのリズムと、シンセの震え、持続するノイズと三者三様の時間がポリリズミックに進む。
 
 迫りくるドラムも、途中でテンポ・ダウン。前後して半透明の分厚く細かい金属質の網が置かれた。ドラムは暴れる。だが網は強固でびくともしない。シンセが粘っこく絡み広げようとする。しかし涼しい顔で金属ノイズはそそり立つ。新たな硬質の紐を巻き付けるように。

 (1)と構成音源は似ているが、こちらのほうがずっとクール。(1)が接写なら(3)はちょっと俯瞰してる印象を受けた。

4. Part 4 (DON #2) 16:53

 #1がリリース済みか、DONとは何かはよくわからない。冒頭から野太いアナログ・シンセの脈動に、重圧のデジタル・ハーシュがまとわりつく。こちらは(2)と似た編成だが、もっとアナログ的な色合いも漂う。
 構成はデジタルで微細なノイズの変化が続く一方で、音の出入りやぐいぐい揺れるダイナミズムのせいか。

 ざらついた、つんざくノイズの基本はデジタルの波形編集っぽい。リアルタイムにみるみる音色は表情を変えていく。脈動が4拍子を提示してテンポを明示したうえで、ハーシュ側は全くとらわれず自由に暴れる。この多層的な構造がメルツバウらしくてカッコよく素敵だ。

 ぶよんと広がる大胆さ、隙間を埋める緻密さ。音要素を変えながら世界が濃密に続いた。
 終盤でギター・ソロめいたノイズの震えが派手に動いた。炸裂しながらもどこか冷静に。くっきりと上下をぶった切り、むしろ細めの存在感で。

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