TZ 7123:Anthony Coleman "The Abysmal Richness Of The Infinite Proximity Of The Same"(1998)

 静かなインプロ主体なジャズ。重く寂しい空気が漂うが、美しさは保っている。

 セッションというよりもアンソニー・コールマンの内省的な世界をコンボ編成で描いた。ラディカル・ジューイッシュのカテゴリーでリリースだが、コンポーザーのカテゴリーのほうが似合う。
 全10トラックだが冒頭8トラックは1曲を組曲的に分断しており、実質は全3曲。40分強のボリュームで、音楽自体も起伏無く控えめにあっさり進むため、しごくあっさりした盤に感じる。

 コールマンはジョン・ゾーンとほぼ同世代のNYダウンタウンシーンでくくられるジャズ・ピアニスト。
 あまり派手な活動は無いが、コブラやゾーンの初期代表作("The Big Gundown"(1985), "Spillane"(1987)"Kristallnacht"(1993))のセッションにも参加した。

 自らのバンドではSephardic TingeとSelfhatersの二つがあり、後者の名義で本盤を製作してる。Selfhatersとしての音盤は、他に"Selfhaters"(1996)が唯一のようだ。
 なおSephardic Tinge名義では"Sephardic Tinge"(1995),"Morenica"(1998)"Our Beautiful Garden Is Open"(2002)の2枚がリリースあり。いずれもTZADIKより。
    
 本盤は1~8と10を97年の2月13日と4月の18日。さらに9を翌98年2月16日に録音と、断続的に一年かけて製作された。
 1~8はメリハリ無く、すごく淡々と重苦しく切ない空気が充満した。メロディと、断続的な打楽器がしめやかに続く。即興っぽいが、大まかな部分はかなりコールマンの指定がありそう。曲のムードは全くぶれない。ねっとりと空気が揺れて、ゆったりしたテンポで中心の掴みづらい音楽だ。

 9も同様。ソロ演奏で、パーカッシブな響きやファルセットの声が飾る。音楽はピアノの静かな爪弾き。プリペアード・ピアノや内部奏法とコールマン自身の声らしい。

 10も再びコンボ編成に戻るが、基調は変わらない。p,per,cello,sax,clと変則的な木管と弦のアンサンブルはむしろ現代音楽のノリに近い。
 譜面を元にコールマンの世界観から逸脱せず、じわじわと地を這っていく。退廃さとは違う。内省や耽美とも違う。なんて言うんだろう、瞑想のような音楽だ。
 けれども音列は持続しない。ひんぱんに入れ代わり立ち代わりで、緊張を保つ。寛ぎや不動心を許さない。

 一曲選ぶなら10かな。特にチェロのメロディが現れる、4分以降のたゆたう音像が美しい。

 全体として美学は崩れない。むやみな不協和音は無く、きれいな音色だ。
 けれどもしたたる湿ったねっとりの空気と、抽象的な無秩序さ、震える緩やかなテンポが冷たい孤高さを表現した。
 親しみやすくはない。だが聴きごたえはある。

Track listing:
1.~8. The Abysmal Richness of the Infinite Proximity of the Same
9. His Masquerade
10. Fifty-Seven Something

Personnel:
Selfhaters
Anthony Coleman: Voice, Trombone, Organ, Piano
Michael Attias: Baritone Saxophone, Alto Saxophone
Fred Lonberg-Holm: Cello
Jim Pugliese: Trumpet, Percussion
Doug Wieselman: Bass Harmonica, E-flat Clarinet

Tracks 1 to 8 and 10 recorded Feb. 13 and Apr. 18, 1997 at The Studio, NYC.
Track 9 recorded Feb. 16, 1998 at Avatar, NYC.

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