TZ 7014:Li Chin Sung "Past"(1996)

 激しすぎないエレクトリック・ノイズ作品を収めた。

 現在は大友良英との共演で名高い香港のノイジシャンなディクソン・ディー(Dickson Dee)が、本名のLi Chin Sung名義で、20代前半の活動初期に発表した一枚。ジョン・ゾーンの目利きぶりがよくわかる。
  

 本盤は92~95年の作品集で、特に発表を意識せず録音した音源集だそう。ミックスはディクソン・ディー名義で、自らで行っている。宅録みたいなものか。

 並んだ曲は時系列でなく、それぞれの作った年の音源が混ぜこぜに続き、ひとつながりで聴ける作品として編集された。数十秒から数分まで、短い作品が23曲並ぶ。
 ミニマルなエレクトリック、ハーシュっぽいざわめきと実音のサンプリングっぽい響き。

 シーケンサーで音源を流しつつノイズを加えたり、サンプリングを組み立ててサウンドを作ってるように聴こえる。方法論は明確でなく、特段の統一性はない。そのため若干散漫にも聴こえてしまう。轟音ノイズの炸裂やカタルシスを目的としていないためだ。
 どちらかというと現代音楽の理知性を元に、抽象的な音の連なりとミニマリズムを根底に置いた。
 激しい音色や音程にこだわらない音も、麗しい音楽のアンチテーゼとしてのノイズではない。かといっていわゆる音響派に準ずる、音色そのものにこだわったアプローチまで、コンセプトは収斂していない。

 非日常の音楽を追求しつつ、個性を立てるまでに至らない。頭でっかちなノイズ、かもしれない。そもそも発表を前提として無い、スケッチな音源に対していうセリフじゃないか。
 そう、これは素描集だ。個々のアイディアを煮詰め、発展させる前に思いつくまま録音したもの。だが一過性のハプニングではなく、繰り返しを元にした作品化への意思は感じられる。

 曲中で、Grandfatherと名付けられた作品が4曲ある。92年に3曲、95年に1曲を作成。本盤ではバラバラに収録されているが、これを繋げて聴くことで本盤にて彼が進化していくさまを聴き取れないか。

 "1"の(1)は金物を叩く音の背後で、子供の遊ぶ声。フィールド・レコーディングか。"2"の(23)も同じ、何かを砕く音。妙にリズミカルで、サンプリング・ループらしきところも。鳥の鳴き声などをまぜ、屋外録音の雰囲気は生かした。"3"の(18)は叩く音は背後に配置され、街頭の雑踏がもっと前にミックス。より日常性を強調しつつ、雑駁なノイズの無機質を強調してる。

 これら破裂音とSEの混合が、"4"の(21)では低音のうねりとSEや言葉のコラージュへ進展して、より物語性を持つ。破裂音も打音はぐっと背後に配置され、不穏に響く低音の旋律感が、サントラみたいな作品性を増した。
 この構成力の進化が、本盤で彼の進歩と言える。
 
 単にヘンテコな音や音列を作って録音ではない。即興的だとしても、無作為に時間を切り取った録音ではない。
 作品として価値を封じ込めようと、意図的に音像を作って組み立てている。それが断片にとどまって、無秩序な風景のSE集みたいではあるが。

 その意味で本盤は、粗削りな才能だった時代のスナップ集、として聴くべきか。

Track listing:
1 Grandfather 1 (Tin Ma Mountain)
2 Garden
3 Point Of Death
4 Dream On
5 Give Up
6 Known
7 Treasure
8 Speed Game
9 Buddha
10 Mad Birds
11 East, West
12 D The Blue (Renew)
13 Silence
14 Suffocation
15 Shame
16 Wake Up And Death
17 Jump
18 Grandfather 3 (Peace Of Mine)
19 Run
20 Ear Games
21 Grandfather 4 (See Off)
22 Yin 1
23 Grandfather 2 (Driver Away The Thief)
24 Muzzy

Personnel:
Percussion, Guitar, Sounds [Cd], Synthesizer, Voice, Tape – Li Chin Sung
Voice – Ah Chuen

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