Abdullah Ibrahim 「Senzo:先祖」(2008)

 74歳、老境の円熟した一枚。激しさは控え、穏やかにピアノ・ソロへ没入した。興が乗るまま短く世界を渡り歩く。

 イブラヒムがサイドメンをつけず、じっくりピアノで語り掛ける。見栄も飾りも排して、考えが巡るままに指を遊ばせた。傍若無人だが泰然としてベテランならではの余裕と自信にあふれてる。
 タイトルはそのまま、日本語の"先祖"。奥さんが日本人とかで、日本語に親しいらしい。

 本盤は一時間弱のピアノ・ソロ。ライブでなくドイツのスタジオで08年4月に吹き込まれた。と言っても、たぶん一発録り。編集やテープのつなぎはしてないと思う。
 収録は22曲、が示すようにどんどんと曲は変わっていく。5分以上の演奏は5曲のみ。あとは数分、ものによっては一分足らずで終わってしまう。

 もちろん演奏はひとつながり、曲のインデックスは進むが演奏に切れ目は無い。(7)の冒頭でちょっと一息ついた。これはテープ編集のあと?

 メドレーとか、軽いソロを挟んでとか計算めいた構造ではない。たぶん思いつくままに次々と曲を演奏しただけ、だろう。その肩の力の抜けっぷりが穏やかでいい。キャリアを重ねた者が持つ、重厚な味わいだ。

 基本は自作曲。(21)のみエリントンの曲を取り上げた。
 (11)が始まり、数曲挟んで(14)が来るなど、奔放で形式には縛られない。
 だがインプロに向かわず楽曲にとどまったのはこだわりか。それとも即興へあとからタイトルを付けたのか。そのへんは分からない。(6)や(18)(20)のように明確に曲も演奏してる。
 でもアドリブが基調だからな。あまり楽曲演奏に集中ってわけでもない。

 プロデューサーにJoachim Becker, Lucas Schmidの二人が名を連ねる。Lucas Schmidは本盤発売のWDR、西ドイツ放送ビッグバンドのディレクターだからわからないでもない。
 だがJoachim Beckerは何をプロデュースしたのだろう。この二人は、Randy Brecker/Michael Brecker"Some Skunk Funk"(2005)やMaceo Parker"Roots & Grooves"(2007)でもコンビで名を連ねており、一緒に仕事してる仲のようだが。

 本盤には他の人の意思は、感じられない。イブラヒムのピアノだけが、淡々と力強く鳴っている。

 イブラヒムの盤を初めて聴く人なら、この盤は薦めない。奔放すぎるので。それならば、まさに名盤と名高い"African Piano"(1970)や、個人的に大好きな"African Dawn"(1983)を推す。だがあれこれと彼の盤を聴いたあとに本盤へ触れると、まさにしみじみと円熟したツヤを本盤から味わえるだろう。
  
Track listing:
1 Ocean & The River 2:45
2 In The Evening 3:06
3 Blues For Bea 0:53
4 Prelude 'For Coltrane' 0:55
5 Aspen 1:13
6 Blues For A Hip King 6:03
7 Third Line Samba 2:10
8 Tookah 1:26
9 Pula 1:32
10 For Coltrane 5:07
11 Dust 1:05
12 Corridors Radiant 1:18
13 Jabulani 1:05
14 Dust (Reprise) 5:13
15 Nisa 6:15
16 'Senzo' - Contours And Time 2:29
17 Meditation/Mummy 2:17
18 Banyana, Children Of Africa 0:52
19 Mamma 1:05
20 Blue Bolero 6:07
21 In A Sentimental Mood 3:01
22 Ocean & The River 1:27

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