Van Morrison 「Keep Me Singing」(2016)

 現役感を滲ませて、幻想的なストリングスとアメリカ音楽へ憧憬を穏やかにまとめた。
 

 元気で動いてるだけでいい。本来、ベテラン組はそういう存在のはずだ。だが抱える人間が多すぎて、未だに現役バリバリな活動を強いられるのがロックの第一世代。ストーンズやポールを筆頭に、70歳を過ぎてなお活発に稼ぎ続けてるとは。ロックは若者の音楽じゃなかったのか。

 ヴァンも71歳だが、いまだに隠居せず。でも正直、新しさを求めない。自己の再生産でも過去の遺産食いつぶしでもいい。だが今回、新曲いっぱいのオリジナル・アルバムまで出してくれた。元気だ。来年がソロ・デビュー50周年という。なんかしみじみ時の流れを感じる。今の若いのは追いかけられるだろうか。追わなくてもいいか。ぼく自身も80年代からの後追い組。ついてこれる人だけ、聴けばいい。ロックはいつの間にか、複数の世代がそれぞれの対象を追う音楽ジャンルになってしまった。

 ヴァンは大きなブランクなくほぼ毎年、コンスタントにレコードを発表してきた。本盤は新曲としては" Born to Sing: No Plan B"(2012)ぶり。オリジナル・アルバムって意味なら、過去作のリメイクでデュエット集な"Duets: Re-Working the Catalogue"(2015)以来。
 リリースって観点だと"IT'S TOO LATE TO STOP"が今年6月にボートラ付きでリイシューに続く。
 そして本盤が9月にリリースだ。
   
 
 ヴァンはもはや過去のリメイクでも、未発表ライブの発掘でも構わない。それだけの功績は既に残してきた。
 とはいえいまだに元気だ。依然としてアルバムごとに違う試みを行ってるが、新鮮さとは違う伝統芸みたいないぶし銀の持ち味が漂ってる。違っても通底する持ち味は変わらない。それがヴァンの魅力だ。
 喉の衰えはいかんともしがたい。だが枯れながらも脂っこさは残す、しぶとさが凄い。

 さて、本盤。アイリッシュなルーツを踏まえつつ、アメリカ音楽へ傾倒した70年代初頭の世界観を改めて試みた感じ。闇雲さや猛烈な歌声を抑え、弦をたっぷりかぶせて甘さとブルーズの苦さを両立させた。
 13曲中12曲がオリジナルの新曲で、(8)は1964年ボビー・ブランドのカバー。アレサもカバーした。
 
 全体的にジャズ、カントリー、ブルーズを十分に咀嚼し、ヴァンのフィルターをじっくり通して歌にした。アルバム前半にメロウな曲を並べ、後半はのびのびとアメリカ音楽を楽しんでるような構成だ。

 ヴァンはギターの他に(4)(5)(12)ではドラム、(8)(10)(13)ではサックスも披露。ピアノも(13)で弾いてみせた。
 新曲を作るだけでなく、歌うだけでなく、演奏まであれこれ試すあたりが枯れてない。

 大胆にストリングスを導入しながら、ノスタルジーに陥らずロックな躍動感を漂わす点が凄い。弦のアレンジはFiachra Trench。鍵盤でも本盤に参加してる。ダブリン生まれでヴァンより数歳年上、ポーグスなどとも仕事してきたベテランだ。
 ブルーズを演奏した曲より、弦が溢れる曲こそが本盤の魅力と思う。

 カスれてはいないが、ヴァンの歌声もずいぶん弱まった。でもまだ、渋く伸ばすことはできている。無理せず寛いだムードが本盤を温かくまとめてる。

 ヴァンを聴く人へ真っ先に本盤は薦めない。やはり70年代、80年代の現役バリバリな盤を聴いて欲しい。とはいえずっと聴き進めてきたら、本盤も楽しめるはず。
 まだまだ老醜をさらしてない。若ぶらないがヨボヨボでもない、しぶといヴァンを穏やかに楽しみたい。

 

Track listing:
1. Let It Rhyme 3:53
2. Every Time I See a River 4:43
3. Keep Me Singing 3:39
4. Out In the Cold Again 7:06
5. Memory Lane 4:08
6. The Pen Is Mightier Than the Sword 3:51
7. Holy Guardian Angel 6:18
8. Share Your Love with Me 4:11
9. In Tiburon 5:18
10. Look Behind the Hill 2:28
11. Going Down to Bangor 5:18
12. Too Late 2:48
13. Caledonia Swing 2:52

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