灰野敬二 「まずは 色を無くそうか!!」(2002)

 エレキギターと声による、静かな広がりあるサイケデリック。

 PSFでのワンテーマ/ワンアルバムなシリーズの一枚。轟音やシャウトは控え、密やかな幻想性を前面に出した。複数のギターが漂い灰野の声が残響をたっぷりまとって音に埋もれた。

 耳の具合かな。倍音の嵐に鼓膜がぶいぶいと震えた。数本のギターは低音から高音まで、特に構成されていない。それぞれがてんでなラインを紡ぐ。繰り返しのフレーズが多いけれど、サンプリング・ループだろうか。だとしても、持ち替えや最初の一回を弾くタイミングがつかみづらい。
 もしかしたら数台のディレイを使い、次々にループさせながら声を載せてるのかも。ならばかなりせわしない操作を感じさせず、優美に美しく描いた。

 本盤には残響と爪弾きの酩酊感が充満する。全8トラック、30分弱の(6)、10分の(2)と(7)、あとは2~5分程度の作品が並ぶ。個々の楽曲は関連性無く、曲中でも激しい場面展開なところもあり。
 だが曲名はゆるやかなストーリー性を持たせた。「色を無くし、戸惑い探りながら、次に消すものを考える」という物語っぽさを。
 その中で本盤の数年前、98年にアルバムを出した灰野のバンド、哀秘謡を曲名に施したのが象徴的だ。

 哀秘謡は既存の歌謡曲やロックを灰野流にカバーするコンセプトと解釈している。それがこの即興を基本とした世界観で現れる。解釈は省略するが、灰野の中でつながりを敢えて表現したのだろう。

 柔らかさはやさしさではない。激しさこそないが、本盤は緊張に満ちている。テンション高く残響と余韻を鮮やかに描いた。響いて消えるサスティンと、ざっぷり膨らむリバーブ、するり切り落とされる瞬間。さまざまな音が空気に溶けていくさまを、存分に味わえた。

 録音のときに音色はまだしも音量はかなり大きいかったのかも。曲の始まりなどで、アンプが唸る音がじわっと轟いた。
 灰野の声はエコーに包まれて言葉は断片的に響く。むわっと膨らむ音たち。エレキギターの轟音と絶叫は皆無なのに、同じように音の構成が溶ける場面がしばしば。
 淡々とした音像の連なりをモノトーンと読んではつまらない。濃淡が滲み奥行きある風景を感じたい。

 楽曲はトラック切りされていながらメドレーっぽく続く場面と、完全に別の録音が交錯した。即興ながら起伏とたゆたう酩酊を膨らませた、灰野のサイケデリックな美学が素晴らしい。

 なおこの盤で幾度か、ぼくの家の玄関チャイムと全く同じ響きが聴こえた。家のはピンポン、ピンポンと二回鳴る。ここではピンっで終わる。だが思わず宅急便でも来たかと耳をそばだててしまった。
 灰野の狙いとは全く関係ないところでも、変に気をそらせる音楽だという余談でした。

Track listing:
1. まずは 色を無くそうか
2. どうしよう 離れてゆく 近づけば 近づくほど 違う者に成ってゆく
3. もうひとつの
4. 哀秘謡
5. 落ちて こないかな
6. どうして わかったの 勘違い
7. 今 どっち 還れる所が あるはず
8. 次は 何を 無くそうか

 なお、灰野敬二の種明かし。僕は本盤、一発録りではない、ように聴こえた。
 だがこの動画(23:55以降)でインタビューによると、違うらしい。7Wくらいの小さなアンプを使って小さなマイクを使い、ギターもボーカルも夜中に自分の部屋で、リバーブだけを使ったDATの一発録りだそう。本盤を称して、「四畳半サイケデリックフォーク」と灰野自身が表現していた。
 曲順は純録りでなく編集もしているらしいが「覚えていない」と語られた。


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