Kramer 「The Secret of Comedy」(1994)

 よりSSWに寄った傑作の2ndソロ。だが微妙な散漫さが、すでに本盤で失速の予兆とみる。

 矢継ぎ早にコラボ盤やプロデュース作品をリリースしてた超多忙な時期のクレイマー。本拠地はニュージャージー・ノイズに移してた。大傑作"The Guilt Trip"(1992)の二年後に発表の本盤は、良質でサイケなSSWアルバムに仕上がった。ほとんどの楽器を自分でこなし、よりポップさを志向しつつも少し腰砕け。
 売れ線とは違う立ち位置にいながらも、ポップさを狙うあいまいさでピントがボケてしまった。数曲の名曲と、埋め草的な作品が混在した。良盤ではあるものの、クレイマー初心者には薦めない。やはり彼の最高傑作なら"The Guilt Trip"と思う。

 
 "Elton John"をパロディにしたジャケットの本盤で、ゲスト・ミュージシャンはドラムのBill BaconとギターのRandolph A. Hudson IIIのみ。パーカッション演奏は得意でないクレイマーと、複雑なギターのみを外注に出した格好か。本質的にバンド・サウンドでなく、密室的なクレイマー世界が広がった。なお冒頭と最後の会話は呼応しており、円を描くようなストーリー性を持っている。

 Randolph A. Hudson IIIは"The Guilt Trip"に続く参加でBongwaterなどでクレイマーつながり。Bill BaconとはNew York Gongつながりか。彼はマテリアルやカーリューで、アレンだけでなくラズウェルやトム・コラとも共演し、当時のダウンタウン・シーンでは馴染みのプレイヤーだった。

 本盤は傑作と思う。中でもぼくのベストは(3)。
 特に(3)は一般ウケはしないはずだが、至高の傑作。へにゃったボーカル、脱力の鍵盤、しっかりしてるが危なっかしいリズムの上に、数多く重ねられた楽器群。
 みっちりしつつ気怠くケミカルな不穏さを持った本曲が、とても好きだ。
 
 (1)も好み。演奏テイクそのものはライブ盤"Still Alive In '95 "(1996)の鋭利な切り口で最高だが、楽曲として。むしろ本曲のテイクはねっとり絡みつくリズムやテンポのダウナーな雰囲気が、曲の尖りを甘くしてると思う。その点、からりと歌い上げた"Still Alive In '95 "は抜群だ。

 それ以外の曲は、サイケ風味の統一感はばっちり。ドラッギーな不安定さと酩酊感は、コラージュっぽい語りの挿入などで強調されてる。だがそれが、今一つまとまり無い。
 クレイマーはポップさと前衛、スカムさと緻密な構造の両極端を持ちえた。それらのバランスを取らず、楽曲単位、アルバム単位、小節単位など大小さまざまの管理単位で使い分けに行き、調和や練りこみの戦略にはさほど興味ないように聴こえる。

 作成の瞬間、発表のタイミング、それらの完成度をビジネスライクにスパスパ決めるのは得意のせっかちさだが、数年単位で自分をプロデュースする方向性は面倒がっていそう。仕事は早いが、立ち止まらない。

 だから本盤も楽曲の出来はばっちり。けれどもアルバム単位で見た時に、流れや特色を掴みづらい。サイケ楽曲のコンピレーションみたい。実際、録音は一年近くかけて断続的に作った曲をまとめたっぽい。

 冴えわたった時期の後期なだけに、何をやってもがっちり固まる。得意のベースを軸にダビングを重ね、鍵盤などでモコッと奥行きを潰しながら厚みある音像が美しい。楽器数などの録音方法論は違うが、フィル・スペクターに通じるコンプ具合だと思う。
 個々の楽器を目立たせるより、ボーカルなりギターなりの主役は目立たせつつ、他はみっちり埋めて硬質な壁を作った。

 個々の楽曲はシンプルなアイディアを膨らませた感じで、平歌からサビみたいな構造を強調しない。この単調さまで受け止められれば、本盤の愛着は増していくはず。つまり聴きこむ必要あり。
 インストと語りのコラージュ、歌モノ志向のメロディアスさ。それらが無造作に並べられた。テープ処理やミックスの効果まで混みで楽曲を作る、プロデューサー寄りのアルバムだ。
 この雑多な混沌こそが、本盤でクレイマーが狙いだろうか。

Track listing:
1 Nine Minus Seven Is Two 4:59
2 The Secret Of Suicide 3:58
3 Midnight 2:58
4 Strings 3:35
5 The Secret Of Philosophy 3:31
6 I Can Watch 5:39
7 Who Are You Today? 6:22
8 My Rock'n Roll 2:52
9 The Secret Of The Band 4:37
10 Sounds Like? 3:05
11 Wishing Well 5:45
12 Second Coda 5:10

 この時期、どのくらいクレイマーがリリースしていたか。具体的にプロデュースと、ソロやコラボで93-94年にクレイマーが関与した盤を並べてみる。完全ではないし、The TinklersやBarnyard Slutなど数枚は録音に深く関与せずプロデューサー役だけを務めたっぽい盤もあるが。それにしても多忙を極めたと想像する。
Personne:
Bass, Voice, Mellotron, Tape, Electric Piano, Synthesizer [Emulator], Slide Guitar, Percussion, Flute [Cheap], Written-By, Engineer, Producer - Kramer
Drums, Cymbal, Percussion - Bill Bacon
Guitar - Randolph A. Hudson III
Engineer [Assistant], Producer [Assistant] - Steve Watson

1993
"Egomaniacs" With Kim Fahy and Jamie Harley
"Hot Day in Waco" With Dogbowl

<Produce作>
"The Return of Red Emma" Lida Husik
"Licorice Root Orchestra" Raymond Listen
"Tone Sensations Of The Wonder-Men" Fly Ashtray
"Minimal Star" Trains And Boats And Planes
"Crash" The Tinklers
"Project Success" Dogbowl
"Power Trips Down Lovers' Lane" Nothing Painted Blue
"(Why Are We) Trapped?" King Missile
"Crocodile Tears" Ovarian Trolley
"Space Age Motel" Barnyard Slut
"Heavens To Mergatroid"Weld

"Tear" Lotion(single)
"Medication" Alice Donut (single)
"True Chasm" Dandelion Fire (single)
"Saints & Razors" Aenone (single)
"Windfalls" Flying Carpet People (single)
"Violent Sneeze & The Neighbor's Pool" Semicolon (single)
"I Think I Just Want To Go Away" Tiny Lights (single)
"Go Between" The Differents (single)

1994
"The Secret of Comedy" 【本盤】
"A Remark Hugh Made" With Hugh Hopper
"Black Power" With Ralph Carney and Daved Hild

<Produce作>
"Gas Giants" Bulkhead
"I Could Live In Hope" Low
"He Fell Into The Sky" Tadpoles
"Blood Drive" A.T.S.
"8 Songs" Velvet Cactus Society
"Concentrate" Luminous
"Sing Sing" Blueberrie Spy
"Trip So Far" Binsey Poplars
"Dead Space" Slowdown Virginia

"The 7 Inch Pig" Helen Shields(single)
"Drop" Bowery Electric(single)
"What Was Were" Stillmotion(single)
"Sonic Youth At Disney World" Mold(single)

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