Prince 「Love Symbol Album:O(+>」(1992)

 ヒップホップへの接近と、映画的なアルバムの模索、双方が混ざったアルバム。

 プリンスは多数のアルバムとそれ以上の未発表曲がある。そのすべてを自由に発表させてくれていたら、と思う。その一方で、レコード会社の縛りがあったゆえに取りとめなさを回避できていたとも思う。
 例えばこのアルバム。プリンス流のヒップホップ解釈、すなわち売れ線の追及。いっぽうでセグエが初めてアルバムに導入され映画的な音楽構造の追及も行われた。
 
 プリンスは90年代、セグエをアルバムに導入し物語性をうっすらとアルバムに忍び込ませる。これは映画が興行的に成功しないため、疑似的にストーリーをアルバムへまとめるコンセプトと想像する。そもそもプリンスは自らの効果的な露出には興味があっても、あくまで音楽がメイン。映像のアングルやカットといった視覚的な配置、ストーリー構造は二の次だったろうし。

 この時代は日本だとバブル崩壊の直後。まだまだ好景気の残滓は日本に残ってた。アメリカの当時の景気はどんなだったろう。華やかさはあった気がする。いっぽうでMCハマー"U Can't Touch This"のヒットが1990年、本盤の2年前。
 プリンスはすっかりオールドタイム扱いされていた。

 プリンスもこの時期はまだ、娑婆っ気があった。00年代にはすっかり吹っ切り、我が道を行くが。そんな時代との折衷策が本盤だ。
 はっきり言って、長い。CD一枚分びっちり74分詰め込んだ。セグエを入れて物語仕立てにしたのも、アルバムとして統一感を持たせる苦肉の策というか、強引なアイディアだったのかもしれない。プリンスのアルバムをまとめるセンスはLPサイズで最もスマートさを発揮する。

 本盤はプリンスの自由にさせていたら、もっと散漫なアルバムの危険があった。プリンスは既に功成り遂げており、周辺にはイエスマンのみ。ノーを言えるのはレコード会社だけだったのではないか。
 そんな環境でプリンスはこのあと、ワーナーと決裂する。
 だが本盤はその萌芽。のちに変名で名乗るシンボルをアルバムへ載せ、発音すらあいまいにしてイメージ戦略に走る。コンセプチュアルで妙に大きいスケール感を漂わせた。

 この盤はPrince Vaultによると、発売前に二回の曲順変更が行われてる。
http://www.princevault.com/index.php?title=Album:_Symbol
 92年3月と92年夏。そして92年10月にリリースに至った。
 
 もしプリンスがこのとき完全な自由を手にしてたら、92年3月の段階でとりあえずリリースされていたのでは。その後2回の曲順変更は、プリンスがレコード会社の苦言を取り入れただけ、とは思わない。あくまで創作の美学としてプリンスが変えたのかもしれない。
 だがこの曲順、見比べると音楽は驚くほど何も変わっていない。
 92年3月から夏への変化は、セグエが減って"I Wanna Melt with U"の挿入。
 92年夏から発表盤への変化はセグエが減っただけ。音楽の曲順は全く変わらない。

 セグエは正直、英語がわからないため困る。純粋にプリンスの音楽を聴くだけなら、本盤の曲順はありがたい。この音楽とは別次元にアルバムをシェイプアップする役割。そのくらいはワーナー側が貢献してたんじゃないかな、と夢想する。

 本盤へ収録された二つのセグエは、簡単なストーリーを持つ。
 無邪気に電話インタビューを試みた女性が、録音を申し入れたとたんにプリンスから叩ききられ毒づく、最初のセグエ。
 次のセグエは録音をしていない、と最初に同じ女性がプリンスへ報告するも、プリンスは変調した声で謎めいた発言に向かう。

 ここではハリネズミのように自分自身を守るプリンスの緊迫した警戒感が伝わる。プリンスとしては自分に興味を持つマスコミの態度にヘキエキかもしれない。
 あくまで評価して欲しいのは、音楽だけだ、と。
 聞き手の立場からすると、ミーハーに私生活へも興味持ってしまうのだが。
 そんな相容れぬプリンスとマスコミの目線違いがセグエで象徴的に提示された。象徴的ではある。

 収録された音楽は、美しいがプリンスの美学にまとめられた後半と、ヒップホップの消化を試みた前半。
 プリンスは自らが音楽ジャンルを作り出したが、この時点では俗世間との立ち位置を探っていた。
 そんな葛藤がセグエでまとまってるようで、今聴き返すと興味深い。ならばこの二つくらいのシンプルなセグエの数で良かったな、とも思う。

 本盤は異様に音が硬い。日本盤で聴いたから、かな。この辺も2000年以降の温かいミックスと異なって、いまいち。
 この盤はリアルタイムで"Love 2 the 9's"が一番好きだった。シングル曲の"Sexy MF"は今一つピンとこず。"My Name Is Prince"も好きだった。とにかく時代と乖離して、80年代のサウンドをぼくは探ってしまっていた。

 今回本盤を聴き返すと、五目味だなあと思う。ラップ、レゲエ、さらにドラマティックな世界観。いろんな志向をプリンスのフィルターにかけ、絞ってまとめた。そんなアルバムだ。
 なおNPGを率い、ソロでなくバンドとしての立ち位置も本盤では意識してる。この観点での本盤評価はまだ、うまく考えがまとまらない。もう少し俯瞰して、もうしばらくプリンスの盤を聴き続けよう。
 
 ドラマティックなイントロの(1)。ヒップホップ風のシャウトが続く(1)は、プリンスの強靭な声帯に驚嘆する。こんな喉を潰しながら、すごく激しく歌った。"I wanna be your lover"や"Controversy"のフレーズをサンプリング、過去の残滓を踏みつけプリンスは自らを高らかに肯定する。
 その一方で拍頭を丁寧に叩くラップの挿入が時代の接点探りか。「It's time I get ig-nig-nig-nig-nig-nig-n-ignorant」って場面の譜割は今でも刺激的だが、それ以外はどうにもクソまじめなラップに聴こえてしまう。フロウって概念をプリンスは許せなかったのか。
 ちなみに途中でプリンスが「アオー」って叫ぶのは、聴くたびにマイケル・ジャクソンを意識したプリンスのユーモアに思えてならない。

 続くシングル曲の(2)。これもJBとヒップホップの落としどころをプリンスが探ってるようで、いまいち惹かれなかった。プリンス流のファンクがもつかっこよさはわかるのだが、"Kiss"の二番煎じにも聴こえてしまい。
 プリンスのメロディ、和音感、そっちがぼくは好きだったからなあ。

 この観点で(3)は完璧だった。すっきりプリンス印。メロディは軽やかでエレガント、ファンク風味もばっちり。今聴いても、抜群の名曲と思う。でもシングル・カットされなかったなあ。
 性急に畳みかけるスピード感と、ファルセット中心のスマートさが両立する構造が大好きだ。

 (4)から本盤は今一つ、当時にピンと来なかった。急にメロウな世界に行くなあ、と。
 今聴くとこの曲も悪くない。バンド仕立てで緩やかにらせん軌道を描きながら舞い上がるような華やかさを持つ。寛ぎながら優美に奏でられるギター・ソロとホーン隊の掛け合いから鍵盤やベースを裏に順で並べてくアレンジの整いっぷりも見事。
 
 幻想的な(5)へ。冒頭にセリフっぽい断片はセグエの残滓か。これもヒップホップ寄り。打ち込みビートの構築さは良いのだが、時代を踏まえた奇妙に響く残響感ある音像が、少しばかり古臭い。
 ただ、今聴くとファルセットの"The Max♪"ってフレーズが良いアクセント。密室ファンクをきれいに追及した曲だったのか、と実感した。

 20秒のセグエ(6)を挟んで、なぜかレゲエの(7)。この流れも唐突だ。しかもなぜ、レゲエ?単に面白がって作った一曲なのかもしれない。
 だがレゲエはジャンルとしての色が強すぎる。プリンスのパワーを持ってすらも。遊びの一曲だとしても、リズムの味が濃くてトゥー・マッチ。

 (8)も打ち込みビートが堅苦しいファンク。ヒップホップ寄りの楽曲。メロディはあるがねっとり低く埋め込まれ、リズムと飛び交うシンセの華やかさが逆に地味な一曲だ。ラップもやはり頭打ちで今聴いても古臭い。すでに当時ですら、このラップはダサかった。
 これはあとから足された曲。プリンスはどんな効果を狙っていたのか。単純にアルバムのペース・チェンジかな。

 (9)のミドル・テンポなメロディ路線。本盤はここから明確に世界が変わる。(2)と(5)~(8)(10)(13)を抜いてアルバムを仕立てたら、かなり大仰だがソウル路線の一枚に仕上がってた、と思う。
 この(9)には時代への目配りは皆無だ。80年代アウトテイクの収録と言われても不思議でない。打ち込みビートの硬さに同時代性は感じるものの、楽曲のムードはプリンスの独自路線で、普遍性を持つ。

 なお(10)もまたヒップホップ路線。ただこの曲は明確なメロディ構造を持つ。のちに"Tell Me How U Want 2 B Done"と改題、"Crystal Ball"(1998)で旋律を強調のように。ぼくは"Crystal Ball"盤のほうが好み。

 派手なバラード(11)。これも(9)と同様、プリンスの世界観を追求し時代を超えた一曲。同時代で本盤を聴いてたころは、逆に座りが悪かった。
 プリンスには80年代の再現とさらなる革新性、二つの相矛盾しつつ恐ろしく高いハードルを求め続けていたためだ。少なくとも80年代、プリンスはそれに応え続けていたから。
 だが本盤はあまりにも厚化粧。弦も入りゴージャスに飾り立てられた。まさにこういう曲こそ、当時は古めかしく聴こえた。自分の至らなさを恥じるばかりだ。むしろ本曲のほうが普遍性を持つ。一杯飾り立ててるなあ、って考えは変わらないが。
 しかし低音から一気にファルセットまで飛ぶ、幅広い音域を使った作曲術はつくづく凄い。

 (12)は2分足らずの小品。ヒップホップ的なアプローチと、"Dirty Mind"(1980)ごろの性急さが相まってスピーディなファンクだ。インタルードみたいな感じ。
 (13)もヒップホップ路線は続く。だがリズムの根幹はファンク。メロディを希薄にして、わさわさっとした雰囲気を作る。そこへ硬質なラップを足した。拍裏から滑り込んでも、ほとんど譜割を揺らさぬラップがどうにも窮屈だ。

 大仰路線の象徴、(14)。これは逆に派手すぎて苦手だった。"Adore"とかの二番煎じにも聴こえてしまい・・・。そう、"Sexy MF"/"Kiss"もそうだが、本盤ではプリンスが懐古趣味に陥ったかと誤解してた。
 今聴くと、違うなっと思う。ほんとにいまさら。だけど、やっぱりこの曲は苦手。多重録音の分厚いボーカルが、どうにも過剰だ。

 (15)は不変世界のプリンス・ワールドな風景。透徹な世界観は、"Diamonds And Pearls"のアウトテイクにも聴こえた。シンプルなビートと簡素なアレンジ、ボーカルとコーラスの妙味で厚みを出して、優美に仕上げた。
 ちょっと鼻にかかるメロディ・ラインがプリンス流だ。

 そして怪曲の(16)。やたらドラマティックにグイグイ盛り上がる、途中のオペラティックな場面転換の嵐は、プリンス流"ボヘミアン・ラプソディ"に思えてしまう。
 これこそねっちりとビデオ作って映像との同期させたらと思ってたら、後年"3 Chains O' Gold"(1994)で実現した。プリンスが発表した映画的な最後の作品が、このビデオではなかろうか。

 盛りだくさんのアルバムはようやく(18)で終わる。これもヒップホップ寄りながら、前曲と続くセグエ(17)で、だいぶ毒気が抜かれたため、あまりこだわりなくというか、印象薄く聴こえてしまう。
 ファルセット中心のファンク。ここまで書いて思ったが、LP二枚組にしてヒップホップ路線とメロウ路線、きっぱり分けて発表したらすごく分かりやすいアルバムになってたかもしれないな。

Personnel:
1. My Name Is Prince  (Prince, Tony M.) 6:36
2. Sexy MF  (Prince, Tony M., Levi Seacer, Jr.) 5:25
3. Love 2 the 9's  5:45
4. The Morning Papers  3:57
5. The Max  4:30
6. Segue  0:21
7. Blue Light  4:38
8. I Wanna Melt with U  3:50
9. Sweet Baby  4:01
10. The Continental  5:31
11. Damn U  4:25
12. Arrogance  1:35
13. The Flow  (Prince, Tony M.) 2:26
14. 7  (Prince, Lowell Fulson, Jimmy McCracklin) 5:13
15. And God Created Woman  3:18
16. 3 Chains o' Gold  6:03
17. Segue  1:30
18. The Sacrifice of Victor  5:41

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