Richard Pinhas 「Metal / Crystal」(2010:Cuneiform Records)

 メルツバウのファン視点では何とも煮え切らない一枚。
 サウンドとしてはピナス流の広がりある抽象的な電子音の応酬が、時にノービート、時に明確なリズムを伴って、整った音像を作って気持ちいいのだが。

 リシャール・ピナスのセッション集、の趣きか。エルドンつながりのディディエ・バタール(b)やパトリック・ゴーティエ(synth)、仏のジャズ・ドラマーAntoine Paganottiなどが曲によって絡む。さらに数曲で、米ミシガンのノイズ・バンドWolf Eyes、日本のノイズ帝王メルツバウも参加が話題か。
 Wolf EyesもMerzbowもセッションでなくピナスの音源にダビングで音を加えたようだ。

 ただしゲストというより参加にとどまり、主役あくまでピナスの色が強く出た。Wolf EyesやMerzbowは全く同じ曲に参加しており(tracks: 1-3 to 2-2)、それぞれの音がどれか判別は難しい。つまり、あまり意味がないというかサウンドのパーツにとどまっている。コラボ的なダイナミズムが希薄だ。
 このへん、ピナスのエゴが強く出たソロらしい作品に仕上がった。

 楽曲は30分弱の曲が3曲に、15分強が2曲。さらにおまけで"Legend"と名付けられた8分弱の曲。かなり個々の音楽はじっくり楽しめる構成をとっている。

 メルツバウのファン視点では、彼の音が音楽の一要素に埋め込まれており、今一つ燃えない。そもそもメルツバウはどの程度、他の音を聴きながら録音だろう。ピナスのベーシック・トラックか。Wolf Eyesのダビング後か。一切聴かずに東京で録音した音素材のみをピナスに提供か。

 どのパターンかによって音楽の立ち位置が異なってしまう。
 音楽を聴く限りは、何とも判別しがたい。動物の悲鳴みたいな電子音がメルツバウかも、と思いもする。それは重苦しくメカニカルなサウンド構造へ見事に埋め込まれ、サウンド構築の大きな要素になった。

 エレキギターを加工し分厚く音を広げるピナスのアプローチに、電子ノイズの付与は似合っている。けれどもそれがメルツバウである必然性はあっても、独自性かは判別つかない。あくまでサウンドの一要素であるためだ。

 よって曲ごとに感想を書く気もあまり起こらない。いちおう曲ごとに特徴はある。
 メカニカルな(1-3)、より自由な電子音が蠢くノイジーな(2-1)、重厚なうねりが続き、ギターソロが冴える(2-2)。
 メルツバウが参加したこの3曲のうち、ピナス寄りなら(1-3)か。(2-2)の凄みも捨てがたい。
 ノイズ視点では(2-1)がビート性が希薄ゆえの不安定な危うさが心地よかった。

 だが「この音がメルツバウかな?」と想像しながら聴くくらいなら、他の盤を聴いたほうが良い。ただし冒頭に書いたようにピナスの作品として聴くならば、ノイジーな要素をもうまく取り入れ、得意の多層性ある理知的な世界を作っており、楽しめる盤である。
 特にドラムが加わったセッションでは、硬質なリズムと冷徹ながら荒々しさをにじませるピナスのギターが魅力的だ。

 なお最後の(2-3)はエレキギターの多重録音。ディレイ・ループでなく、幾層にも重ねたかのよう。これまでの電気仕掛けがぐっと薄まり、生々しい演奏の積み重なりが美しい。

Track listing:
1-1 Bi-Polarity (Gold) 15:52
1-2 Paranoia (Iridium) 14:21
1-3 Depression (Loukoum) 28:54

2-1 Hysteria (Palladium) 28:21
2-2 Schizophrenia (Silver) 28:38
Extra Track
2-3 Legend 7:22

Personnel:
Guitar, Electronics - R.P.

Bass - Didier Batard (tracks: 1-1)
Drums - Antoine Paganotti (tracks: 1-1, 1-3, 2-2)
Electronics - Duncan Pinhas (tracks: 1-2) Merzbow (tracks: 1-3 to 2-2)
Electronics, Instruments [Diverse] - Wolf Eyes (tracks: 1-3 to 2-2)
Electronics [Here And There] - Jerome Schmidt
Synthesizer [Mini-Moog] - Patrick Gauthier (tracks: 1-3, 2-2)

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