Musica Transonic With 灰野敬二 「Incubation」(1998)

 インプロ・ハードサイケなバンドへ灰野が加わったアルバム。

 ムジカ・トランソニックは95年から00年を主に活動した即興サイケ・バンド。コンセプト立案役でベースの南条麻人がハイライズの他に膨大に組んだバンドの一つ。
 音楽の主体はアシッド・マザーズ・テンプルなどで活動の河端一が多くを担ったらしい。本盤ではミックスも担当した。
 ルインズほかで気を吐いていた吉田達也は、一歩下がった立ち位置のバンド関与なイメージがあった。音楽的には存分に貢献しているが。

 即興一発でどんどん録音するイメージあるバンドで、膨大なCD-R音源がある。なおかつ音質がこもって分離悪い印象もあり。だが本盤は比較的明確に音が聴き分けられる。

 読めない曲目がつけられた全7曲入り。LPサイズで33分弱とコンパクトにまとめられた。といっても本盤はCDしか出てないと思うが。

 今の耳で聴いても、そうとうに荒っぽい。コンセプトや即興の方法論は使わず、ある意味で各人の才能に頼ったサウンドだ。00年以降で急速にインプロの純度や方向性がどんどんと東京ライブハウスシーンで整備された気がする。機材の進歩や奏者たちの経験や練度も含めて、即興の危うさがスマートさを増した。スリルはそのままに。

 だがこの時代はメンバー全員が若かった。溢れる才能で音楽は成立する。だが力任せに振り回す粗削りさが漂う。
 そこへ一世代上の灰野が、ワン&オンリーながらもインプロの強度を明確に注ぎ込んだのが本盤と思う。つまり当時の他のムジカ・トランソニック盤と比べても、完成度が高い。灰野というキャラクターが明確に存在することで、音の芯が固まった。

 演奏は特にメリハリや起承転結は無い。淡々と音楽が進む。ギター二人の編成だが、左右にクッキリ振られてる。右が灰野で左が河端かな。
 小節、なおかつ4拍子をかたくなに回避するような吉田のドラムと、拍頭も拍裏も読めない瞑想するように無造作なベースの上で、二本のギターが咆哮した。
 比較的エッジの細い左チャンネルが、ザクザク刻む右チャンネルとかっこいい対比になってる。

 吉田がボーカルを取らず、灰野に任せてるのが惜しい。のちのKnead、サンヘドリン、そしてデュオ。それぞれのセッションで聴ける豊潤さはまだ、本盤では聴き取りにくい。
 三者三様のアプローチを見せるムジカ・トランソニックに、灰野が堂々と立って存在感を見せつけた。まだ、そんなアルバム。チグハグとは言わない。けれどもグルーヴの一体感は少しばかり、物足りない。のちの練度と比べたら、溶けかたが足りないように聴こえる。率直に言うと、灰野がシャウトした瞬間にすべてを持って行ってしまう。灰野と比べ、役者の違いが目立つ。

 タイトルのIncubationとは、孵化、もしくは医学用語の潜伏期という意味だそう。まさに、だな。ここから年を経て、それぞれのミュージシャンはますます力を増し剛腕の音楽を世にばら撒いて行く。

Track listing:
1. Δαιμονια 6:31
2. Ποιεο 3:41
3. ΙΝΧYΒΑTION-ταυτα 3:56
4. ΙΝΧYΒΑTION-νορδεν 1:50
5. ΙΝΧYΒΑTION-αγνοστοσ Τηεοα 7:59
6. Γελοιοσ 1:56
7. Τοποσ 6:25

Personnel:
Bass, Producer - 南条麻人
Guitar, Mixed - 河端一
Drums - 吉田達也
Vocals, Guitar - 灰野敬二

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