Kramer 「The Guilt Trip」(1992)

 大作にして傑作。生きのいい全盛期に、存分に趣味性を叩きこんだ。

 クレイマーはシミー・ディスクを立ち上げた。Shockabillyが83年にリリースを開始。Bongwaterは85年以降。87年頃からコラボ盤は何枚か発売していた。脂がのりまくり、全盛期が92年から96年くらいまでのほんの数年だったと思う。
 みずみずしい音楽を、自由にやつぎばやに発信する意味において。既にノイズ・ニューヨークは存在しなかったけれども。

 シミー・ディスクを立ち上げは87年。同世代のダウンタウン・ミュージック・シーンにおいて、早期に独立独歩の成功を収めたと思う。だがたぶん色んな要因が絡まって、経営は手こずった。音楽的な理由ではない、と思いたい。金か薬か女か。理由は知らない。音楽以外の要因なら、どうでもいいから知りたくもないが。

 シミーのディスコグラフィで、自分のスタジオであるノイズ・ニューヨークのクレジットの最後がボングウォーターの"The Big Sell-Out"(1992)かな。ドッグボウルのソロ"Flan"(1992)では、ノイズ・ニュージャージーにスタジオが変わってる。
 いわば、都落ち。
 このあと、False Front"Dude"をノイズ・ニュージャージーで録音後に発表が、本盤となる。

 クレイマーは独立独歩で自己完結の道を選んだ。ぼくが彼を知ったのはたぶん93年頃。デイヴィッド・アレンとのコラボ"Who's Afraid?"(1993)だったような。
 とにかくぼくは当時、マルチな才能に憧れていた。演奏を片っ端から自演するとか。あと、多作なミュージシャンにも惹かれてた。プリンスとかザッパがまさにそんな感じ。その流れで、クレイマーは好みにドンズバだった。
 さらに録音もスタジオもレーベルも自前なんて。なんてすごいんだ、と。

 音楽的にはそれらに加え、どことなくメランコリックなメロディ使いも耳に心地よかった。あと、ノイジーなギターも。あまりハードなロックは苦手だったが、歪んだ響きは欲しい。そんな好みにぴたりとクレイマーは応えてくれた。
 さて、ここまでがぼくの個人史。

 クレイマーの位置づけから言うと、この盤は心機一転だったはず。NYスタジオの閉鎖やバンドのボングウォーター解体、など。
 経済的な不安があった、のかもしれない。そのため、溢れて高まった才能を一気に奔出させ、力いっぱい投入がこれ、と思う。先のことは考えず、これで終わってもいいように、と。ドラムとギターでミュージシャンのクレジットはあるものの、基本的に何もかもをクレイマーは一人で作り上げた。

 本盤は91年8月から92年10月まで長くかけて音源をまとめた。ノイズ・ニューヨークで録音テイクがあったのかもしれない。
 "All things must pass"をパロったジャケットは、小人たちに囲まれずクレイマーが一人っきり。牧歌的なムードを退廃に変え、「万物流転」のタイトルも込みですべてがご破算になった孤独さを表現してるかのよう。
 もちろんボリューム的にもLP三枚組のパッケージ形態は押さえた。CDでは2枚組。この当時のクレイマーは神がかっており、曲に困ったとは思えない。

 クレイマーは本盤で存分に主役を張った。だがポップスターの立ち位置へ安易に座らず、ギター・ヒーローやボーカリスト、コラージュを漂わすサウンドメイカーと複数の立ち位置をひょうひょうと入れ替えて表現した。

 ギタリストにランドルフ・A・ハドソン三世を招いてるが、本盤で聴こえるサイケに歪んだエレキギターの、どの程度が彼の演奏だろう。クレイマーの演奏もあるといいな。
 本盤の魅力は、何よりもエレキギター。炸裂しながらもどこかクリアでポップだ。

 リズム楽器はあまり弾かないクレイマーなため、サム・ベネットとデヴィッド・リクトがクレジットあり。リクトはボングウォーターつながり。他の二人もクレイマーとは前から共演歴あり。

 この盤は冷静に聴けない。ぐうっと胸が熱くなる。そしてしばらくこの世界から離れたくなった。そして最近、改めて本盤をじっくり聴きたくなっている。
 本盤には究極のエゴと美学が詰まってる。クレイマーは徹底的に、本盤でやり切った。歌も、演奏も、病んだ美学も、スマートなかっこよさも。

 クレイマーの80年代はスカムなアイディアと表裏一体だった。パンクの影響か、ドラッグの支障か、めちゃくちゃさと解体に価値観を見出す要素があった。これはやってる本人、もしくは同世代の共感ならば楽しめるが、後年では単なるヘタウマもしくは悪ふざけにしか見えない。
 それがクレイマーの80年代を再評価しづらいポイントだが・・・。

 けれども本盤では、おふざけ無し。大真面目にロックな世界を構築した。どこにも隙が無い。安っぽさは皆無。サイケに塗りつぶし、チープな響きを危うい美学に変えた。
 隅々まで練られたアルバムだ。

 この音楽は、濃密なレコーディング技術でしか成立しえない、と思い込んでいた。
 ところが95年の来日ライブで、収録曲をアコギ一本でさらり弾き語りにてクレイマーは成立させる。楽曲の強度はアレンジに縛られないんだ、と実感もしたっけ。

 細かく曲へ感想を触れ始めると、どうにも思いが募りすぎる。色々書きたいことが頭をよぎり、なかなか文章を終わらせられそうにない。そこでまずは、さらりと、ここで終わらせてください。そのうち気が向いたら、曲についても細かく書き進めます。

Track listing:
Disc one
1. Overture  4:13
2. Stupid Summer  4:09
3. Got What I Deserved  4:54
4. Wish I Were In Heaven  3:02
5. Not Guilty  2:34
6. Wisdom Sits  2:48
7. Stubb's Hallucination  2:10
8. The Drowning Heart  1:25
9. Welcome Home  5:06
10. Swallow Up Jonah  2:42
11. Hello Music  4:32
12. The Murder of God  1:56
13. You Don't Know  3:08
14. The Wall of Sleep  2:22
15. The Guilt Trip  4:48
16. Wait for the Hate  3:00
17. Natasha Disappears  1:58
18. Big of You  3:53
19. My Friend Daniel  1:36

Disc two
1. The Maximus Poems  3:48
2. The Seven Seizures  4:07
3. Thank You Music  6:09
4. Kathleen I'm Sorry  4:28
5. God Will See You  5:36
6. I'm Your Fan  2:24
7. The Bosom Friend  5:23
8. I Love You  1:48
9. Next Time Try Compassion  3:56
10. Charlotte's Brain  2:57
11. Mudd Hutt Four  4:34
12. The Well Hung Jury  3:03
13. Won't Get Far Without Me  4:42
14. Ball Five  4:58
15. She Won't Let Go  3:53
16. I've Seen the End  3:59
17. Coda  1:33

Personnel:
Kramer - vocals, instruments, engineering, production
Randolph A. Hudson III - guitar
David Licht - percussion

 本盤はしばらく入手困難だったが、今はMP3で簡単に聴ける。しかもAmazonプライムの対象だと。俺は別にAmazonの回し者じゃないが、「Amazonプライム入りなよ。これをタダで聴けるぞ」と宣伝したくなった。

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