不失者 「来たる時」(1997)

 熱く溢れるどろりとしたロックな貫きを、封じ込めた盤。

 バブルで景気のいい時代があったものだ。本盤は97年に徳間ジャパンのサブレーベル、J-Factoryから97年に4枚同時発売の一枚。今では廃盤で、中古を地道に探すしかない。配信で再発されないかな。なお残る3枚は、以下。

 デレク・ベイリー&灰野敬二 "寄り添い合いし 秩序と無秩序の気配かな [Drawing Close, Attuning - The Respective Signs Of Order And Chaos] "
 不失者  "完結されもしない死 [A Death Never To Be Complete] "
 灰野敬二 "息をしているまま = Keeping On Breathing"

 これら4枚はすべてロンドンのMoat Studioで録音された。他人事だが予算はリクープしたのかね、と気になってしまう。どのくらい当時、売れたのだろう。言われてみれば宣伝を雑誌かレコ屋で見た気もするが。

 なおJ-Factoryは一過性で終わらず、翌年も灰野の作品を4枚同時リリースした。よほどディレクターが惚れ込んだのだろう。もっともレーベル活動はそのリリース後に停滞してしまうのだが。J-Factoryから第2弾リリースは、以下だった。

 不失者 "もう少しこのまま [A Little Longer Thus]"
 不失者 "すでに用意されていた想い [The Wisdom Prepared]"(Fushitusya名義)
 哀秘謡 "Aihiyo"
 灰野敬二 "The 21st Century Hard-Y-Guide-Y Man - Even Now, Still I Think"

 さて、本盤。すべてがオーバーダブなしの一発勝負。4曲、うち2曲は30分近い長尺が収められた。
 重たく引きずるエレキギターのノイズに、鍵盤めいた残響が暴れる。ドラムとベースは背後で静かに、しかし着実に響く。迫力はたっぷり、豪快な大暴れよりも、清涼で昏く漂う濃い霧の闇を表現してるかのよう。厳粛なムードが漂う。

 軋み続けるギター・フィードバックの嵐が猛然と立ち上った。(2)では灰野のつぶやくような高い声は、ギターの漂いに埋もれ静かに響く。
 (3)だと声の存在感が増していく。いずれにせよサウンドそのものは轟音のギターが埋め尽くす印象あり。(3)は同じテンポで進んでいるはずが、すっと小節の拍頭がずれてる気分になる箇所があった。それがスリルあって刺激的だ。

 一定のイメージでありながら、同じ場面はない。変わっていく。その変貌具合とつかみどころのなさを本盤には感じる。とっかかりを探しても、音像に身をゆだねても、どこかでズルリと空気の流れが変わって安寧を許さない。
 けれども鋭い音が響いても、つらい喧しさでもない。

 圧巻はやはり(3)か。中盤でのギター・ソロが燃え上がる一方で、粘るようにグルーヴを続けるリズム隊の対比が素晴らしくかっこいい。
 どんどんギターが飽和し、リズムは淡々と維持しつつ、ギターへ溶けていく。無関係に演奏してるようで、きっちりバンドのグルーヴを感じた。

 暴れながら単純でない情緒がある。切々と締め付ける緊迫さがある。
 
Track listing:
1. ほんの少し前 [Just Before] 4:56
2. 僕の大事なもの [My Precious Thing] 21:09
3. 黒き塊 [Black Cluster] 29:14
4. 来たる時 [The Time Is Nigh] 19:47

Personnel:
灰野敬二:G,vo
小沢靖:b
小杉淳:ds
 
 

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