Steve Beresford 「Signals for Tea」(1994)

 二回りヒネってスインギーなジャズ・ボーカルに仕立てた怪盤。どの辺の立ち位置で聴くか悩むユーモア感を楽しむべきか。

 Steve Beresford, his piano and orchestra名義で発表の本盤は、オーソドックスで小粋なジャズ・ボーカルなアルバム。即興演奏で名高いスティーブ・ベレスフォードのアルバムであり、バックはジョン・ゾーンやマサダの一派でありながら、だ。

 イギリス出身で70年からアルバムをリリースしてるべレスフォードのアルバムは膨大だ。ぼくはほとんど聴いたことなく、彼のイメージは薄い。けれどもどうやら即興ミュージシャンらしい。しかもバックはドラム以外はマサダ。ドラムもゾーンと関係の深いケニー・ウールセン。
 ダウンタウン・ジャズ的に過激でスピーディなインプロの応酬を期待するじゃないか。ところが聴いてみたら、思い切りまっとうなジャズ。しかもスイング時代の穏やかさを連想する穏やかなイメージだ。なんだこりゃ。

 まずゾーン自身からして、別に過激一辺倒ではない。オーソドックスなジャズも行けるし、後年のラウンジ風味を連発なとこも筆頭に、きれいなサックスもお手の物。他のミュージシャン連中だって海千山千、別にフリーしか出来ぬわけもない。
 だが本盤の発売レーベルは、ディスク・ユニオンが92年から95年まで80枚ものアルバムをリリースしたAVANから。TZADIKの前身ともいえる盤だ。当然、過激なものを期待する。

 なのに詰まった音楽はきれいなもの。このひねり具合、ギャグっぷりが本盤の狙いだろう。

 べレスフォードはマルチ・ミュージシャンであり、楽器としては鍵盤が主体。メロディカやおもちゃのピアノ、他にはトランペットやユーホニウムって金管、さらにベースも操るらしい。
 だがここではピアノと歌に専念した。奏でる音楽はジャズ・ボーカル。ピアノは伴奏に徹し、滑らかな歌声を聴かせる。(13)の裏でシャランとなるのがおもちゃのピアノかな。

 作曲はすべてべレスフォード。カバーでないところがミソか。作詞はすべてAndrew Brenner。経歴を調べ切れず、どういった素性の人かは不明。
 メロディの雰囲気は40年代スタンダード臭が強く、敢えて大真面目にべレスフォードが作曲する必然性は薄く思える。いや、真面目なんだろうけど。

 伴奏のゾーンらも吹きまくってるわけではない。時にはピアノ独唱もあり。あとは伴奏で静かに吹くのがメインだ。
 モダン・ジャズよりスイングのムードを感じる。2管のカルテット編成ながら、妙に分厚く聴こえるのはアレンジの勝利か。
 ピアノや管のアドリブもあるけれど、あくまで間奏の域を出ない。いや、中にはインストでモダン・ジャズ風に聴かせるか。

 そして大人しいだけではない。ゾーンはときおりフラジオで高音を軋ませる。オーソドックスなジャズ・ボーカル曲で、だ。
 このアンバランスさが本盤の聴きどころ。本領も前衛も見せない。あくまでジャズの歴史をイギリス人の歌手&ピアニストと、NYで過激にのしてたゾーン一派が演奏するところがポイントだ。ネイキッド・シティでゾーンが大暴れはほんの数年前。同じAVANからリリースしてた。

 ルーツ回帰やまして売れ線狙いの営業ではない。本盤のプロデューサーからしてゾーンがクレジットされている。
 
 古き良きジャズをこのメンツでシャレてみたらどうなるだろう、そんな実験が本盤のテーマと思う。おふざけでない、まっとうな演奏のため音楽のクオリティはしっかりしてる。
 大笑いして聴くことも、ジャズ・ボーカルとして楽しむこともできなくはない。
 いかんせん、本職でないだけにクルーナーのボーカルが弱い。メロディも悪くはないが、それだったら本物のスタンダードを聴いたほうが味は濃い。

 あくまで怪盤として捉えたほうが精神衛生上、いいかもしらん。これを愛聴するよりも、にやり笑って曲者たちの芳醇なバックグラウンドを楽しむ形で。
 そもそもサウンド的には、悪くない小粋さ。ゾーンのフラジオを筆頭に、ごくわずかにフリーキーな要素も詰め込まれた。それを余分もしくは中途半端というなかれ。混沌とミクスチャーこそが、彼らの狙いだろうから。
 
Track listing:
1. All My Fibres - 4:01
2. Rent - 4:17
3. Unremarkable - 5:44
4. Signals for Tea - 4:16
5. Approximate Song - 3:31
6. Let's Get Cynical - 3:43
7. Good Morning - 6:50
8. The 3 Doors - 6:06
9. Elephants - 4:05
10. Little Window - 4:30
11. The Agony of You - 3:40
12. Good Morning (Solo Version) - 3:15
13. Speed Limit - 8:33
14. Unremarkable (Solo Version) - 3:43

Personnel:
Steve Beresford - piano, vocals
John Zorn – alto saxophone backing vocals
Dave Douglas - trumpet, backing vocals
Greg Cohen - bass, backing vocals
Kenny Wollesen - drums, backing vocals

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