不失者 「Origin's Hesitation」(2001)

 冷徹でスタジオ操作の妙味も感じられる一枚。デュオでありながら、トリオにも聴こえる。ドラムとボーカルが別人格のようだ。

 トリオ編成な灰野敬二のバンド、不失者からドラムが抜け、デュオ編成で唯一のアルバム。
 08年に小沢靖の急逝も踏まえ、オリジナル・メンバーでの活動は音盤でこのあと存在しない。不失者はメンバーを幾度も変えながら現在に至っている。

 本盤は灰野がドラムと声、小沢のベースで演奏された。一発録りでなく、あとからボーカルかドラムをダビングしてるようにも聴こえる。
 だが灰野のことだからな・・・完全に同録の可能性も捨てきれない。だとしたらドラムの演奏が脅威だ。あまりに歌と合っていない。

 ところどころドラムはゲート処理かけてるようにも聴こえる。瞬発的にミュートの可能性もあるが。
 全6曲。日本語歌詞の即興を収めた。歌詞カードは立派なもので、タイポグラフィも含めて間を生かした表現が目で見てわかるように表記された。
 
 音楽も空間を生かしている。無音と打音、出音と余韻と空白。それぞれを芳醇に絡ませながら、ゆったりした空気と加速の緊迫感、空白の重みと連続の鋭さを十二分に封じ込めた。
 サウンドの基調は重苦しい。ハードでサイケな盛り上がりや痛快さとは逆ベクトルで、緊張を強いられる空気がそこかしこにある。
 とはいえ音盤ゆえ、ライブほどの思いつめた空気は無く聴ける。それが良いことか、悪いことかは別にして。

 ドラムは連打でなく、一音一音を丁寧に叩く。その間を生かしながら存在感を出し、なおかつ絶妙の音程やメロディを切り出すベースが見事だ。
 不失者は灰野がいなければ存在しえない、究極のワンマン・バンドだ。だが、バンドなところがミソ。灰野のソロとは違う、ドライブ感や一体性を感じさせる。

 懐は深いが孤高な灰野が、本当の意味でバンドを運営できる。バトルでなく小宇宙として。そのダイナミズムの魅力の象徴が不失者だ。

 本盤はドラムの乱打と違うタイミングで歌が漏らす。ギターではしばしば行われる光景だが、ドラムである程度のテンポやスピードを維持しながら、違う譜割でボーカルを絞り出す猛烈なリズム感は、さすがに人間離れしている。どちらかがあとかぶせじゃないかなあ。

 なおボーカルは複数ラインあり。その場でサンプリング・ループして流しながら、異なるラインを載せる灰野が得意とする手法。毎回思うが、奔放なシャウトしながら音域や音程が全くぶつからずにポリフォニックさが成立するセンスが素晴らしい。

 空白をたっぷり使って、時間が経過すると埋め尽くす閉塞さも描く。本盤の小宇宙は深く広く重くつかみどころがない。
 そんなスリルがたっぷり味わえる。前半に短めの曲を並べ、最後に圧巻で長尺を持ってくる構成もいい。

 部屋でくつろぎながら音楽へ対峙するのもいい。だが遮音性の高いイヤフォンを使い、移動中に爆音で聴くのも捨てがたい。通勤中に聴いてたのだが、日常があっというまにどこかへ追いやられ、不失者の世界へ引きずり込まれる醍醐味が凄かった。
 
Track listing:
1. あっという間に 消え去った 最初の響き 5:09
2. 原始のとまどい 11:31
3. ふたつ ありき 6:04
4. これぐらい このまま それぐらい そのまま 5:08
5. 今に なりつつある 影 16:45
6. 夢が先に「主語」を名のってしまったから 23:42

Personnel:
Bass:小沢靖
Drums, Vocals:灰野敬二

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