Sturgill Simpson 「A Sailor's Guide to Earth」(2016)

 カントリーSSWの3rdで今年4月に全米3位のヒット。最新アメリカーナの保守とリアリティ、そしてアメリカ文化の幻想って、こういう曲調なのか。

 といいつつ、ぼくはアメリカ音楽にも今のヒット曲にも、もちろんアメリカ文化にも実感はない。いいかげんアメリカナイズされた日本、ってのも言われなくなってきたが。ぼくが洋楽を聴き始めた80年代ごろでもアメリカは一種の理想郷だった。イギリスのヒット曲がのしてきた時代、にもかかわらず。強いアメリカ、大量消費の象徴で資本主義の筆頭って立場に幾分かのリアリティがあった。

 あれから幾星霜。アメリカだって模索する。日本だって高齢化社会を迎える。すべてが変わっていくなか、昔も今もリアリティなかったのがアメリカのカントリー音楽だった。 
 保守的で平和なムードのカントリーは若いころ反発の対象だった。そもそも文化の根幹が違う。背景無しに上っ面だけ撫ぜてもわからない。10年前にほんの数週間、アメリカへ出張の機会あった。ラジオやテレビでカントリーの片鱗でもわかるかなと思ったが、欠片も触れなかった。もっと日常に密着しないと、たんなる仕事で通り過ぎる日々ではわかるはずもない。
 アメリカ人が日本に出張して、演歌の真髄を触れるのに何日かかるかって話だろう。

 カントリーと言えば髭もじゃオヤジの汗臭い音楽、もしくは保守の象徴って固定観念だったが、だんだん若者にも普及してきたって感じがここ30年でじわじわ来てる。というか単に、ぼくが歳をとってるだけだが。とはいえ今や、テイラー・スウィフトみたいなカントリー系が人気らしい。単なる保守ではなさそうだ。

 前置きが長いね。要は今、アメリカでリアリティあるカントリーってなんだ、をテーマに探してみた。なるたけ若手の立場で。それが、この盤かなと期待してる。実際はどうなんだ。日本語でのいい解説が見当たらない。

 スターギル・シンプソンは78年生まれで今年38歳。本盤がメジャー・デビューというから、遅咲きと言えるか。それでも全米3位を叩きだす素地はあった。
 ケンタッキー州のジャクソン生まれで、ブルーグラス・バンドでキャリアを始める。言っちゃなんだが、田舎で地道にカントリーを演奏ってことか。

 インディで1stソロ発売が2013年。やはりキャリアをじっくり重ねてアルバムに至った。
 このアルバム"High Top Mountain"が全米で8万枚の売り上げ。市場の大きさが凄いな。カントリー・チャート31位、全米チャートランクイン無しなのに。
 翌年"Metamodern Sounds in Country Music"(2014)を発売。これもインディから。全米59位でカントリー8位、19万枚の売り上げ。かなり数字を持ってる状況みたい。
 昨年には「ベスト・アメリカーナ」部門でグラミー賞にノミネートもされた。なお受賞はRosanne Cash"The River and the Thread"。

 そして待望の3rdが本作、"A Sailor's Guide to Earth"(2016)に至る。

 ぱっと聴いた感触はスワンプ・ロック。サザン・ロック。そんな感じ。今年亡くなったレオン・ラッセルの後継者ってイメージが浮かんだ。いや、全然生き方も立ち位置も違うよ。南部音楽に詳しくないので、安直に思っただけ。

 えらく老成した感じ。ぼくより一回り年下の男が作る音楽に持つ感想ではないが。とはいえもうスターギルもベテランか。
 そもそもベテランって何歳からだろう。スターギルの38歳だって、十分にベテランだ。音楽業界は70歳でも現役、えらく幅広くなったため、聴き手のぼくも歳を取ったが、成熟の定義がよくわからなくなった。
 
 スターギルは嗄れ声できっちりバンド・サウンドを固めて歌う。ブラスやストリングスもあるが、泥臭さが一杯。打ち込みの機械っぽさは皆無で、生演奏のダイナミズムが溢れた。
 あくまでストレートで頭打ちの乾いたノリ。ジャム・バンド系っぽい。インプロ要素は無い。逆にデッドやデイヴ・マシューズ・バンドなどがもともとカントリーの素養あるんだろう。

 全9曲で38分、LPサイズ。あっという間にアルバムが終わってしまう。ただし流れはCD風。盛り上がりはA面とB面でなく、ひとつながりの感触だ。メドレーっぽくどんどんと曲が流れた。
 生まれてきた息子に「ようこそ、地球へ」と語り掛けるコンセプトで幕を開ける。

 基本は彼のオリジナルだが、(5)はニルヴァーナのカバーで大ヒット"Nevermind"(1991)収録曲。10代に聴きまくった世代だものな。とはいえもはや25年前の盤。ぼくはまだ「ちょっと前」の感じだが、冷静に考えたらオールディーズか。こういう時間感覚になるとは、歳をとるまで実感できなかった。

 ドラムは自分のバンド仲間Miles Miller、ベースはナッシュヴィルのベテラン・スタジオミュージシャンなDave Roeが、ほぼすべての曲でリズムを固めた。
 ギターは基本、スターギルが弾く。ピアノのJefferson Crowは経歴が不明。オルガンのBobby Emmettはスタジオ・ミュージシャンみたい。
 あとは売れっ子スタジオ・ミュージシャン、Dan Dugmoreのスティール・ギターが本盤アンサンブルの基本だ。
 5曲で吹くホーン隊にはThe Dap-Kingsとクレジットあり。NYのDaptoneレーベルのハウス・バンドらしい。
 
 全体を覆うイメージは、骨太で埃臭いが温かい。激しく押しまくらず、どこか柔らかく立ち止まった。声高に主張を押し付けず、かといって甘い夢を見せるだけの優しさもない。
 ただ、淡々と丁寧にアンサンブルを作った。濃密に。生演奏を主軸にしつつ、ミックスは濃密に詰め込んでる。ちょっとこちらでグライコのフェーダーを動かすと、とたんに音が歪む。繊細にレベルをめいっぱいブッこんだ。
 
 これが王道の、今のアウトロー・カントリーか。今までR&Bを中心に聴いてきたぼくは、正直あまりなじみのない分野だ。けれども悪くはない。何度も言うが、歳をとって価値観も変わってきた。固定観念にとらわれず、本盤を楽しんで見よう。

 プロデューサーはスターギル・シンプソン本人。シングルはオリジナルとニルヴァーナのカバー(5)と(6)が切られた。後者がカントリー・チャートで48位に入っただけ、特段のヒットではないみたい。しかしニルヴァーナの曲がカントリー・チャートって・・・変な感じ。
  

Track listing:
1. Welcome To Earth (Pollywog)
2. Breakers Roar
3. Keep It Between The Lines
4. Sea Stories
5. In Bloom
6. Brace For Impact (Live A Little)
7. All Around You
8. Oh Sarah
9. Call To Arms

最近のライブ映像。16年9月17日にヴァージニア州でのファーム・エイド出演のライブがこれ。


本盤の(8)をギターの弾き語りで。16年10月13日、テレビ出演かな。

関連記事

コメント

非公開コメント