Prince 「N.E.W.S」(2003)

 瞬間的な素材に、緻密なダビングを重ねたインスト。幾層にも味わえ、プリンスのアレンジと構成の底力に圧倒される一枚だ。
 プリンス流のニューエイジ・ミュージックと取ってもいい。刺激的でファンキーだけどね。

 27thアルバムにカウントされる、03年の作品。自分のWebで流通を模索してた時代の作品で、唐突なリリースだった。ポップさと、かけ離れたインスト。例えばマッドハウスのようなジャズめいた痛快さはない。フュージョン的な鮮やかさとも違う。
 どこか内省的で、密やかな切なさを漂わせた。きっちり各曲を14分にまとめて、東西南北のタイトルをふり、"ニュース"って言葉とダブル・ミーニング。謎めかせたメッセージ性を込めている。

 ちょっと前置き。"プリンス 1958-2016"(モビーン・アザール:著,スペースシャワーネットワーク/2016)を面白く読んだ。原著もプリンス追悼で9月に出たばかりみたい。
 
 写真集にプリンス周辺のスタッフやミュージシャンのインタビュー断片をふんだんに並べ、周囲からプリンスの本質に迫ろうって書籍。謎めかしていたプリンスの様子が、うっすらと伺える気がして、色々と示唆的で良い。

 まずヤニーっていうアンビエントをプリンスが好んで聴いてたってくだり(P84)。
 検索してみたがギリシャのシンセ奏者、ヤニーのことだろうか。例えば、こんな曲。
 その影響をプリンスのフィルターにかけまくり、本盤へ至った可能性は無いかな、と本書を読んでて思いついた。


 意外だったのがエリック・リーズのコメント(P37)。
 マッドハウスの主役であり、80年代にはプリンスにドップリな印象あり。しかしインタビューはとても冷めており、むしろプリンスの音楽に無関心だった。あくまでビジネスとしてプリンスと付き合っていたらしい。にもかかわらず、あれほどプリンスの音楽に貢献する。ホーン奏者って強みもあったろうが、非常に興味深い。

 エリックは本盤についても述べていた(P113)。なんでもジャムセッションで一気に本盤は出来上がったという。メンバーはブースの中。プリンスはコントロール・ルームに座り、コード・チェンジやソロを指示してたそう。
 このコメントだけ聴くと、いかにも本盤は即興的なシロモノ、と読める。だがクレジットを見ればプリンスがギターや鍵盤をダビングとある。

 ならばセッションへプリンスがソロを載せた、シンプルな構造の小品か?
 いや、決してそんなことはない。もっと本盤は、むちゃくちゃに手が込んでいる。
 エリックは単に本盤の作成の行方を知らず、もしかしたら本盤を聴いてすらいないのでは。もし一聴すれば、ズタズタにベーシック・トラックがいじられてると感じそう。

 例えば(1)。シンセのふくらみ。エイト・ビートが緩やかにつながり、エッジが立って中空なベース。ホーン隊めいた緩やかなシンセ。ひとしきりイントロがつながり、おもむろにサックスが入ってくる。
 たしかにリズムとサックスは一発録りなのだろう。ひそやかなローズの鍵盤、爪弾くギター。じりじりと揺れはエレキギター、だろうか。背後にもギターは潜む。
 フルートめいた鍵盤のメロディは即興か。サックスが同じフレーズを吹く。すると即興か。同じく旋律をなぞるギターはプリンスのダビングだとしても。
 
 これもすべて、エリック・リーズが本当のことを言ってるとして、だ。あとからダビングしたが、元ネタがジャム・セッションの音源と気づかなかっただけかもしれない。いや、それはさすがにないかな。
 途中からプリンスのギター・ソロがたっぷりと現れる。しかし次第にサックスが前に出て、ギターは背景の一部に溶けた。主役は淡々と吹くサックスのリフか。いや、むせび泣くギターか。
 じわり現れるシンセ、飾るシンセ、ピアノのソロ。どこまでがベーシックで、どれがダビングだろう。万華鏡のように風景はくるくる変わり、緻密に音が入り組む。
 (1)終盤でのつかみどころ無い、SEとシンセの不思議なアンビエント感も独特な味わいがある。

 (2)は不安定なシンセの独奏から。おもむろに手数多めの16ビートなドラムが加わってグルーヴを出した。シンセは続く。鍵盤も聴こえる。プリンスのダビングもそこかしこにありそう。
 リズムは一定。だが途中でドラムの手数が増える。腕二本じゃ無理っぽい音数。すると最初のドラムはフレーズ・ループか。ならば既にジャム・セッションとは違う。
 サックスが加わり、ギターがユニゾンでかぶる。

 琴みたいな音でエキゾティックなムードへ、するり場面転換。コントロール・ルームにいたプリンスの指示か、それともテープ編集か。考えを巡らせてると、鍵盤はアドリブに向かい、野太いベースとユニゾンのエレキギターがシンプルなリフで煽った。
 ギターの歪みとサックスのソロ。だがテープ編集か、サックスがダブル・トラックにも聴こえる。
 ファンキーさがふんだんに表れ、目まぐるしく世界が変わっていった。ああ、もはやこれは複雑にテープ編集が行われてる。

 (3)は冒頭がエレキギターのワウをかけた呟き。ジャムのリズムへうまいことプリンスはギターを重ねてる。ビブラフォンみたいな鍵盤は、プリンスのダビング?
 やがてリズム隊に乗ってエレキギターのソロが始まる。白玉の鍵盤とドラムにベース。滑り込むサックスのソロとギターの交代するタイミングもばっちり。
 テープで途中をつまんでないならば、プリンズは実に見事に自分のソロ用スペースを作りつつ、ベーシック・トラックをサックス・ソロ付きで録音した。

 途中のペース・チェンジは雨音のSEとプリンスのギター。いかにもギターまで、セッションに参加してたかのよう。これを聴いて、どこが一発録りでそのままミックスと言えるのか。エリックのコメントは、判断に苦しむ。
 ベーシック・トラックは4曲だけ、なのか。他にもっとセッション素材あり、それを足してたとしてもおかしくない。実際、膨大に録音してたらしいし、他のミュージシャンはすべてのセッションを憶えてなくとも不思議はない。

 (3)もくるくると世界はファンキーに変わる。決して一発録りではなく、鮮やかかつ滑らかに。鍵盤やギター、サックスのソロをきっかけに風景は味わいを変えた。サックス・ソロは一瞬詰まって断片の場面も。あれは偶然か。それとも長いフレーズのフェーダーをプリンスがミックス時に下げたのか。
 フルートみたいな音も聞こえる。あれはシンセ?あとでエリック自身がダビング?ああ、わからない。今となってはすべてが謎だが、マルチが残ってたら、だれかが細かく分析して欲しい。

 (4)はシンセの前触れのあと、重たいリズムのファンクなグルーヴ。サックスのソロをプリンスはギターでなぞってる。サックスを目立たせつつ、サウンドに厚みを施した。
 コード・チェンジしながらシンセのソロに。ここも別のシンセが同じメロディを追いかけてる。これもダビングだろうな。吸い付くようなコピーっぷりだ。
 アンサンブルはタイトに場面転換していく。逆にこの辺は根拠ないのだが、ジャムをそのまま生かしてる気がした。プリンスの合図一発で鮮やかに変化するテクニックを彼らは兼ね備えていたはず。
 ぐいぐい押し一辺倒でなく、すっと引いてスローにサックス・ソロを際立たせる世界へも向かう。ストリングス音色が柔らかくサックスを支え、たまに粘った音色のエレキギターが彩り添えるけれど、この辺はプリンスのダビングかな。しばらくして聴こえるピアノがセッションの音源と想像する。

 だがどのようにリズム・トラックが変貌しようとも、根本のサウンドはプリンスのもの。ギターや鍵盤が細かく足され、本質的な牽引力はギターやシンセのSEが誘った。
 この(4)もつかみどころや起承転結を敢えてつけず、奔放に音楽が変化していく。

 即興的なリズム・トラックにプリンスは様々な音を足した。ドラムやベースを差し替えもしくはダビングしてるかもしれない。あらゆる可能性があり、それでいて瞬間的な危うさ、はかなさも嗅ぎ取れる。後付けで、製作過程を知れば。
 だがそもそも、ベーシック・トラックをつまんでないのか。編集で短くしてるかもしれない。すべてを知るのは、プリンスのみ。覚えていれば、だが。

 たぶん色々とベーシックにダビングして、そのあとで編集して各トラック14分にまとめたんじゃないかな。ポップスターのアイコンから距離を置き、しっとりと音楽に向かい合った。
 本質的にジャム・セッションを下敷きにしており、プリンスの色に染まってないはずなのに。隅々までプリンスの匂いが沁みついている。
 
Track listing:
1.North (14:00)
2.East (14:00)
3.West (14:00)
4.South (14:00)

Personnel;
Prince - guitar, fender rhodes, digital keyboards and percussion
John Blackwell - drums
Renato Neto - piano and synthesizers
Rhonda Smith - acoustic and electric bass
Eric Leeds - tenor and baritone saxophone

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