Lou Reed 「Set the Twilight Reeling」(1996)

 地味な印象だったが改めて聴いたら、歪んだギターとアコースティック双方を行き来して、のびのび自由な良いアルバムだった。
 

 音楽は本来、新譜を聴くべきだ。ライブを聴くべきだ。時代感覚を密接に味わうのは、追体験ではだめ。現実に向かい合い、どっぷり浸かってこそ醍醐味が味わえるし、時を経た再評価にも言葉に迫力や重みが出る。

 そもそも音楽は本質的に、作り手の人生に寄り添っている。発表した時代背景とも密接にかかわっているし、その作り手本人の人生をかけた流れもある。
 仕事として量産でも「流行」と一体ゆえの発表。自主製作でもなんらか、その作り手の生きざまに関係している、と思う。

 だからこそ旧譜を聴くことの面白さ、切り口の多彩さがある。
 さらに本来、歌詞と音楽は不可分。併せて聴かねば意味もない。
 
 なのにルー・リードの歌詞を全く知らず、この盤を聴いている。そもそも詩人であり、ラップめいたポエトリー・リーディングの妙味こそがルーの醍醐味というのに。
 例えば本盤には"NYCマン"って曲がある。ブルックリン生まれで生粋のNYっ子なルーが、こう歌うことは意味に重みがあるはずだ。でも、ごめん。歌詞を何も見ないでこれを聴いている。もちろん英語のヒアリングはできてません。

 ぼくはあまりルーの熱心なリスナーではない。色々と思い出深い"Magic and Loss" (1992)、"Ecstasy (2000)"に挟まれて、本盤の印象は薄かった。
 だが今回、改めて聴き返したら無造作にロックとフォークのはざまを行き交う、自由なルーのスタイルが、かっこよく封じ込められたアルバムだった。

 ミュージシャンは前作"Magic and Loss" から一転。バンドっぽさよりルーのギターを主軸に、手堅くまとめた印象だ。
 基本は3リズム。ルーのギターに、80年代からルーの盟友なフェルナンド・サンダースのベース。ドラムはトニー・サンダー。本盤で初めてルーに係わり、晩年まで帯同し続けた。

 だがダビング曲がそこかしこにあるのと、エレキとアコースティックを上手く配置してシンプルさはパッと気づかなかった。
 (2)ではホーン隊にバリバリのジャズ屋をブッキング。オリバー・レイクを筆頭に、J.D.パーラン、ラッセル・ガンの3人を並べた。
 (3)はスプリングスティーンのE.ストリート・バンドからロイ・ビタンを鍵盤に招き、フランスのパーカッション奏者ミノ・シネルを加えた。

 後にパートナーとなるローリー・アンダーソンは(5)でバック・コーラス。92年に出会い本盤で初めて、ルーの作品に参加した。

 参加ミュージシャンは、それだけ。プログラミングでStruan Oglanbyのクレジットあるが、打ち込みっぽさは皆無。クリック作りかな。編集かな。

 でも、それだけ。あとはトリオ編成。しかしチープさは皆無で、骨太の迫力を見せた。ギターが鮮やかに幾層もダビングされてるため。
 ルーは気負わず淡々と言葉を載せる。いっそ軽薄なムードで。悲愴さや凄みって演技はしない。自然体だ。

 なお(6)だけは発表前年、本盤録音時期の95年7月14日のライブ音源。ハーモニーはルーのダビング?3リズムでダイナミックで勇ましいサウンドを聴かせた。たしかにこのアンサンブルのうねりは、いかしてる。このライブの手ごたえで本盤の録音へ臨んだか。

 アルバムのイントロはギターのフィードバックから、ラウドに始まる。(1)で確かなトリオのアンサンブルを聴かせて、ちょっとクールな(2)へ。この落差と幅広さ、鷹揚さがルーの魅力だと改めて感じた。

 アコギのストロークな(3)と爪弾きの(4)でテンポを変えつつ、(4)の後半がにくい。「ハッ」ってルーの掛け声一発、歪んだエレキギターが雪崩れる。反則だ、このかっこよさは。
 
 (5)はギターをダビングしてるが感触はアコースティック。ただ人の声をワウ加工した響きを筆頭にエレクトリックな色合いが強い。前述のクールでフラットなヒップホップ風のライブ音源(6)を挟み、タイトなロックンロールの(7)に向かった。
 こういうの聴いてると、ルーは詩人でありながら、ロック・ミュージシャンだなあっとしみじみ。
 (7)はドライでエコーかけないボーカルがむしろ、したたかさを強調した。歌の譜割を微妙にリズムとずらし、へなったメロディを確かにキメる。

 すっとテンポを落とした(8)で低音の渋い声をルーは披露。(9)のイントロでアコースティックに初め、その後も爪弾きは続く。けれどイントロの終わりでエレキギターを野太く吼えさせ、アコギ爪弾きの背後にきっちり歪んだギターを配置し続けた。

 (10)での歪ませ倒す、フリーなエレキギターの雄叫びな導入も素晴らしい。やはりルーはエレキギターの響きを、ほんとうに丁寧に大切にアルバムへ封じ込めている。
 
 アルバム最後(11)がアコースティック。ギター弾き語りではなく、バンド編成。そして終盤はエレキに変え疾走していく。ダンディズムいっぱいのアルバムだ。

Track listing:
1.  Egg Cream 
2.  NYC Man 
3.  Finish Line 
4.  Trade In 
5.  Hang On To Your Emotions 
6.  Sex With Your Parents (Motherfucker) , Pt. 2
7.  Hookywooky 
8.  The Proposition 
9.  Adventurer 
10.  Riptide 
11.  Set The Twilight Reeling 

Personnel
Lou Reed - vocals, guitars
Fernando Saunders - fretless & fret electric bass, acoustic guitar on "NYC Man", background vocals
Tony "Thunder" Smith - drums, background vocals
Oliver Lake, J.D. Parran, Russell Gunn, Jr. - horns on "NYC Man"
Roy Bittan - piano on "Finish Line"
Mino Cinelu - percussion on "Finish Line"
Laurie Anderson - background vocals on "Hang On To Your Emotions"
Struan Oglanby - programming & production co-ordination

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