Sun Ra And His Myth Science Arkestra 「Cosmic Tones For Mental Therapy」(1967)

 パーカッションとリバーブの実験に溢れた一枚。

 サン・ラはミステリアスな存在だった。ぼくが名前を知った88年頃は、音盤もろくに手に入らなければ情報もない。ところが92年にEvidenceが復刻を初め、来日もすれば(見に行かなかったが)関連情報もある。逆に膨大な情報が溢れ、さらに全貌がつかめずミステリアスさを増した。いまだ、とうてい聴き込めていない。

 いつか体系づけて知りたいな、と思ってたら湯浅学がミュージック・マガジン誌で00年から「てなもんやSun Ra伝」を連載開始。あまりの詳しさで楽しく読んでいた。14年にはついに単行本化。実験を繰り返しながら真摯に音楽を追求するサン・ラの姿勢にすごく親しみを感じた。
 この本は必読。日本語で書かれている。サン・ラの自伝も邦訳されてるが、日本語で書かれたものではない。頭の中へ入り方が段違いだ。
 
 「サン・ラー伝」のほうは、重たいんだよね・・・電子書籍化、してくれないかな。そしたら通勤の合間で読めるのに。

 さて、本盤。とはいえ上記の資料本はあまりに詳しいゆえに、首っ引きにしたらガチガチに縛られるため、かなり印象論で本項は書きます。

 カナダ公演のあと、機材車が壊れニューヨークに足止めを食らったサン・ラーとアーケストラ。シカゴへ帰る旅費の工面を行う予定が、なんだかんだで10年間過ごしたニューヨーク時代、63年に録音された。
 サン・ラの地球降臨が14年、録音を開始が48年頃。すでに49歳と大ベテランだが、音楽活動としてはむしろ初期にあたりそう。なおサン・ラーの旅立ちは93年。地球へ79年居たことになる。

 本盤はサン・ラの鍵盤よりむしろ、パーカッシブな音の羅列が印象に残る。色々と実験してた時代の作品であり、ジャズ的なダイナミズムを追求した盤とは異なった。
 冒頭2曲は、当時の無料リハーサル兼仕事場だった、NYのコレオグラファー・アートショップでの録音。後半3曲はNYのクラブTip Topで収録。
 Tip Topはこの時期、Sarah McLawlerのトリオが演奏してた場所。そこに参加してたアーケストラのトミー・ハンターのつてで、朝方に録音してたらしい。

 (1)は最初から奇妙にとげとげしい和音が吹き荒れる。サン・ラを聴いててつらいのは、この和音感覚だ。軋み潰れる響きが慣れるまで、どうにも取っつき悪い。
 サン・ラはclaviolineとcosmic side drumsを演奏。claviolineは電子楽器の一つで、スイッチにて音色を変えられる。

 とはいえほとんどサン・ラは目立たない。うっすらと響くオルガンっぽい音、無造作な打楽器がサン・ラーだろう。
 チャルメラかチンドン屋みたいなホーン隊の和音が軋み、広がる。ぱこぽことくたびれたリズムの打楽器が鳴り、全体を覆うトーンは若干重苦しい。

 一方でこの曲は、かなり譜面の存在を感じる。アドリブのフレーズやいななきは別にして、不協和音や音の出入りタイミングはサン・ラの指揮なりがあったっぽい。
 その不規則で不明瞭な統率性がこの曲の味わいだ。

 (2)も同様。鍵盤の存在はもっと希薄になり、淡々とリズムがポリリズミックに響き、サックスが調子っぱずれに響く。ベースくらいの伴奏でコード感が無いはずなのに、微分音っぽい音程感と、馴染まぬ音列に違和感を感じてしまった。
 途中からエコーがちょこちょこ付与され、サイケな展開に向かう。太鼓がショート・ディレイ状態で残響をまとい、どんどんと混沌化してきた。

 Robert Cummingsのバスクラがあおり、Marshall Allenがオーボエを吹きまくる構造。途中でフッとクラシカルなフレーズが混ざり、混乱に知性的なムードを投入する雰囲気は意図的か。クレジットを見るとサン・ラは作曲のみ、演奏に参加ないようだ。

 (3)もどっぷりエコーから。(2)と録音場所は前述のように違うが、音像は似通ってる。とにかく残響。ディレイ。ドラムが揺らめき、たなびく。小節感が希薄で、ポリリズムというより縦の線が見えづらい。
 いちおうベースは残響でなく、ドラムの打音へ合わせてるっぽいが。

 サン・ラはハモンドB-3を演奏。ふにゃふにゃと鳴らす。リーダーシップとって音像の主導権を取る立ち位置ではない。音楽に埋もれてる。
 ここでのバスクラはJohn Gilmore。アレンはパーカッションに回った。それぞれが持ち替えでパーカッションを叩いてるらしく、強烈なクレジットは5人だが意外と奥行き深く聴こえた。

 楽曲の面白みというより記録音源を聴いてるかのよう。ぶっちゃけ、バスクラの頻出するリードミスが非常にきつい。もっと滑らかに吹いてくれたら、混沌なジャズとして素直に楽しめた。
 粗削りなリズムだが、アフリカ的なパーカッションの応酬がグルーヴィで良いのにな。 
 なおリバーブはかけっぱなしでなく、細かく量を増減させている。操作はベースのRonnie Boykins。ベースが鳴ってるときもエコー量が変わってるが、フット・ペダルでもあったのだろうか。むしろオルガンが全く聞こえぬため、サン・ラーがリバーブをいじってたのでは。
 あまり起承転結は無いが、管のソロとパーカッション群の対比は本盤で最も聴きごたえある。

 (4)はがっつりジャズな展開。ボイキンズのベースに、Clifford Jarvisのドラム、それにサン・ラーのハモンド(astro spaceとクレジット)のみ。ベースがオーソドックスにランニングさせ、硬いピッチでドラムが鳴る。でももう一人、パーカッション奏者がいそうな音数だ。
 テーマともアドリブともつかぬ音列を、オルガンが吹き上げた。
 コンガが鳴り続ける中、スネアは連打で煽った。ごろごろと転がる凄みのグルーヴを、オルガンがおもむろに貫いた。
 あまりよくない音質も相まって少しうらぶれた、もしくは胡散臭いムードが漂う。中途半端に曲が終わっちゃうなあ。

 最後(5)はリバーブを強調したインプロ気味のセッション。いや(4)もインプロと思うがベースのオスティナートに作曲性が漂った。
 だがこれは無秩序に次々と音が出るのと、(1)に通じる潰れてささくれた和音感が即興っぽさに加速をかけた。
 サン・ラーはオルガンをちょろっと鳴らすのみ。存在感を少なくして、Ronnie Boykinのアルコ弾きベースとDanny Davisのアルト・サックスに主軸を任せた。
 
 どっぷり振りまかれたエコーはサウンドに妖しさを付与する。ギルモア、James Jacson、ジャーヴィスとパーカッション奏者が多いわりに厚みは薄く、なおかつ部屋の質感もない。昔で言う宇宙空間めいたシンセと残響で構築した異世界感が一杯だ。

 ということで、サン・ラーは存在してても主張はしない。曲もほとんどとりとめがない。(4)以外はリハの音源を寄せ集めたかのよう。だがしっかりサターンから、リリースされた。なぜかリアルタイムでなく、67年になってから。

Track listing:
1. And Otherness  (5.10)
2. Thither and Yon  (4.01)
3. Adventure-Equation  (8.26)
4. Moon Dance  (6.34)
5. Voice of Space  (7.42)

Personnel:
Sun Ra - Hammond B-3 Organ, Clavioline, Percussion
Marshall Allen - Oboe, Percussion
Danny Davis - Alto Sax, Flute
John Gilmore - Bass Clarinet, Percussion
Bernard Pettaway(?) - Bass Trombone
Pat Patrick - Baritone Saxophone
Robert Cummings - Bass Clarinet
Ronnie Boykins - Bass
Clifford Jarvis - Drums
James Jacson - Percussion
Tommy Hunter - Percussion, Reverb
Ensemble vocals

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