Prince 「Lotusflow3r」(2009)

 ギターを中心に据えたトータル・アルバムの傑作。

 流れるような構成の妙味が、実に素晴らしい一枚だ。

 3枚組で発売、アメリカの大手スーパーTargetで発売と流通に工夫した一作。専用Webもあったが、異様に重たかった記憶ある。
 この3枚組は本盤、"MPLS0UND","Elixer"が収録された。"Emancipation"(1996)のようにトータル・アルバムと当時は思ってた。実際はオムニバス。安く売りたい、しかし小銭は手間がかかる。ある程度の単価にするためマトメ売り。まさにスーパー的な発想。そこまでプリンスは読んで、「いろいろ詰め合わせ」みたいな企画で本盤を編んだのか?

 多重録音で自らが作ったとも言えるミネアポリス・サウンドに拘った"MPLS0UND"、ボーナス・アルバムもしくは抱き合わせ企画のような、ブリア・ヴァレンテのソロ名義"Elixer"。
 仮に本作を強引に「抱き合わせ企画」と捉えるならば、これらはオマケ。
 あくまで看板となるトータル・アルバムがこの"Lotusflow3r"になる。

 本盤は流通の試行錯誤の一環か、ネット販売も存在する。それらには一曲違いがあり。CDではトミー・ジェイムズ&ションデルスのカバー"Crimson and Clover"。配信盤はプリンスのオリジナル曲"The Morning After"。
 どっちを選べと言われたら・・・悩む。カバーの解釈も聴きたいし、オリジナル曲はいっぱい聴きたい。

 当時は両方買う、って発想が無くCDバージョンでしか聴いたことが無い。ぱっと検索したがYoutubeに"The Morning After"が上がってもない。まあ、そのうち聴くチャンスが来るだろ。

 さて、"Lotusflow3r"。このところ改めて、繰り返し聴いている。出張帰り、移動中に聴いてるとハマるね。流れが実に気持ちいい。「ああ、今日も一日が終わった」って一区切りの世界を本盤でじっくり味わえた。
 
 Prince Vaultによれば本盤は一気に製作でなく、05年から数年かけ作った楽曲をまとめたらしい。NPGのメンバーを参加させバンドっぽい仕上がりを狙った。プリンスのギター・ソロがたっぷり。ダンサブルなファンクよりも情感あるトータル性を感じる。往年のパーラに対するファンカみたいなものか。
 サンタナ好きなプリンスの趣味が炸裂、とも思えた。

 もちろん一本調子の弾きまくりアルバムってわけではない。一曲づつが完結しており、それを見事に繋げた。つまり膨大な楽曲を作り、コンセプトに合わせ絞り込んでいくプリンスの真骨頂が現れた。

 こういう盤を聴くと、未発表曲へのためらいも出た。もちろん未発表曲は思い切り聴いてみたい。だがプリンスの意思がない楽曲を10曲聴くより、本盤を10回聴くほうが存分にプリンスの世界を味わえるんじゃないか、と。
 もちろん本音は両方とも10回づつ聴きたい、が欲望なのだが。

 さて、本盤。前後に"From the Lotus..."、"...Back 2 the Lotus"で挟み、構造上もトータル性を強調した。だがこれがもコケ脅かしのインスト曲みたいなものでお茶を濁さない。もちろん。

 (1)はシンセとSE、シンバルの静かな乱打が流れる、もったいぶったオープニングではあるけれど。ベースが加わり滑らかなインストに向かう。すっと凛々しく鳴るエレキギター。
 フュージョン寄りの穏やかな世界。ブライトなエレキギターを中心に置き、鍵盤も入れてすっきりしたコンボ編成の楽曲に仕立てた。だが囁く風みたいな彩りを足し、単なるセッション風にしないとこも凝っている。

 フェイドでなくスッと切り替わる(2)はむしろ、地味目の曲。柔らかな歌声を重たいリズム隊とエレキギターの歪んだ音色で支えた。ボーカルが入る箇所はすっきりだが、合間にエレキギターが暴れて、一筋縄ではいかぬ。情感を込めた揺らぎよりも、メカニカルに畳みかける小気味よいフレーズが多いように思えた。

 そしてCD盤ではいきなりカバーの(3)。比較的有名な曲なので、アルバムではカバーを多用しないプリンスの世界観で意外に思える。そしてかなりストレートな解釈をしており、この盤の世界観に馴染むことへも驚き。面白い曲を選んできたな。
 オリジナルは68年のサイケ・ロック。プリンスが10歳、子供のころのヒット曲。サイケな白人ロックの硬質なリズムのノリが、すとんと本盤にハマる。
 歪んだギターを短いフレーズで切り替えながら、ソロを取った。左右をゆっくりパンさせる演出も含めて、非常に60年代的なアプローチだ。要は、古めかしい。この大仰さも本盤の狙いかな。

 余韻から軽快なピアノのイントロ(4)に。ギターが充満する本盤だが、こうしてパッと風景を切り替えるセンスがカッコいい。
 パタパタと鳴るドラムをベースがジックリ補強する。ハーモニーと多重ボーカルがせわしなく明るく飾る。ヘッドフォンだとなおさら、小技が味わえて楽しい。

 終盤のエレキギターがすっと消え、残響強めたエレキギターのストロークで隙間多く涼やかな奥行きを出した(5)へ変わる。
 これもボーカルのメロディはぶっきら棒にシンプル。ポップさで言うと、派手さはない。単独で聴いたらピンとこないが、アルバムの中で通して聴くとペース・チェンジの妙味も含めてクールな風景にやられた。
 そしてこれも終盤で、じっくりとエレキギターのソロ。数本を重ねて、むせび泣くような揺れをざっくり振る。畳みかけるハーモニーで最後まで後ろにそらさぬ完成度だ。

 エレキギターをぐいぐい弾くコーダのソロから、クロスフェイドで(6)に。一転してファンキーに歯切れ良いシャウトに変えた。緩急も忘れてない。
 一転してホーン隊を強調、ギターはカッティングに回りベースが大きく動いた。
 ハーモニーも多重録音で掛け合い、よりストイックな個人風味を出す。ちりちりと古いLPみたいなノイズを入れたのも、オールド・スタイルさを強調のゆえか。
 歪んだギターの代わりに、喉をひしゃげてシャウトするプリンスの強靭なボーカルを味わえる。

 終盤でちょっとギターが鳴る場面も。そこから金管とギターの絡みで冒頭を紡ぐ(7)が始まった。
 ねっとりと歌が多重コーラスで粘るフレーズが印象深い。楽曲はくるくるとアレンジをメリハリつける。パッチワークみたいだが、アイディアはシンプル。メロウさを仕込みつつ、ちょっとファンキーな方向性だ。
 そして間奏はエレキギター。ギターの音色やソロのアクセントは楽曲によって異なる。統一した感触よりもバラエティさを持たせ多面的に攻める方向をプリンスは選んだ。
 ここでは頼もしくストレート。派手に音色を歪ませず、骨太だが中ぐらいの音域でフレーズをまとめた。

 コーダはシンプル、音色加工しながらディレイ・エコーをどっぷり効かせ、そのまま歪みが(8)につなげた。CDのトラック切りだと、この余韻をイントロにつなげてて興味深い。
 普通に聴いてると、50秒過ぎに始まるアコギと鍵盤がなぞる爽やかなメロディ部分から曲が始まるのに。このヘンテコな曲わけもトータル性を持った本盤ならでは。

 (8)のメロディは即興的に弾いてるように見せかけ、ぴたり楽器どおしが吸い付くイントロだ。スパニッシュ風味の細かいピッキング、柔らかな情感がくつろぐインスト。
 いろいろとギターが足されてフレーズが飛び交うため、濃密な性急さはあるのだが。

 歯切れ良いドラムに誘われる(9)。ボーカルは喋りへメロディをわずか足したような地味さ。幾層にも重ねた歌声が、畳みかけるドラムが目立ったシンプルなアレンジの中で流れた。
 ボーカルと同じように存在感出すのが、歪んだ音色のエレキギター。歌もそこそこにギターがインストへの転換を誘い、インスト曲とボーカルの間を行き来した。
 アップテンポの曲だがボーカルは急き立てず無闇に目立たず、むしろエレキギターの立ち位置を飾るポジションにとどまった。

 歪んだ音色でチョーキングからガシガシ弾くフレーズへ。終盤でたっぷりと尺を取ってギターをプリンスは披露した。

 ドラムの乱打からフェイド・アウト。お喋りのSEで強引に曲をつなぐ。このように楽曲間のつなぎも工夫が一杯。
 (10)はカミール声、すなわちテープスピードを上げた面持ちだ。ここでもホーン隊が入るオーソドックスなファンクのスタイル。ギターはストロークとオブリを少し弾くくらい。むしろホーン隊の威勢良さを前面に出した。
 ブレイクを頻発しノリを寸断させるかっこよさでこの曲をアピールした。

 (11)のフェイドアウトから、ジミヘン風のワウに切り替わる。ついに重たいギターがリフを繰り返す、ハードロック風に向かった。盛り上げるための一直線が垂直に立ち上がった。 
 ボーカルは短いフレーズを投げ出す、まさに60年代ロック風のスタイル。というか、ジミヘン的なアプローチ。多重ボーカルも抑え、飾りっ気ないギター・トリオを演出した。 細かく聴くと、ギターなどは相当に小技を府やテルが。

 これも中盤ではやばやとボーカルが後ろに下がり、たっぷりとエレキギターが味わえる。思い切りフレーズを溜めて伸ばすギター・フレーズを多用。こちらがワーナーの求めるロックとソウルの合体技、かも。
 プリンスのシャウトは冴え、ギター・ソロの熱さもどんどん増していく。アルバムのクライマックスにふさわしい盛り上がりだ。

 そして最後(12)。冒頭に戻るエレピも混ぜたフュージョン・スタイルのもやもやしたセッション風景をちょっと見せたあと、拍頭をリムショットするドラムへ誘われるギターの伸びやかなフレーズのインストに。
 メインのメロディはギターで作ったうえ、周辺をギターで飾った。ドラムとベースはかっちり、鍵盤がちょっと遊ぶ。
 ギターのフレーズは重ねられており、ユニゾンからハーモニー、主旋律とオブリへ色々のアプローチを提示した。

 エンディングもじっくり聴かせる。余韻をしつこく、ねちっこく。バンド・サウンドでも終わらせず、ノービートのエレキギターを出す風景も混ぜ、なかなか幕を下ろさない。
 溜めて広げて混ぜて溶かす。潔さを敢えて脇へ置き、この約50分にわたるLPサイズではちょっと長め、しかし2枚組にはいかない絶妙のボリュームで仕上げた。
 本当の最後はフェイドアウトだが、実にじわじわと下げていった。

Track listing:
1. From the Lotus...  2:46
2. Boom  3:19
3. Crimson and Clover  3:52
4. 4ever  3:47
5. Colonized Mind  4:47
6. Feel Good, Feel Better, Feel Wonderful  3:52
7. Love Like Jazz  3:49
8. 77 Beverly Park  3:04
9. Wall of Berlin  4:16
10. $  3:58
11. Dreamer  5:30
12. ...Back 2 the Lotus  5:34

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