Leaving For New York (1976)【Prince未発表曲】

 デビュー前。SSWのテイストで、ピアノ弾き語りのバラッド。

 バラード、ではない。バラッド。スローテンポの曲ではなく、物語性のある歌。
レコード契約すらない時期に、デモテープの一環として自宅で録音という。音質はかなり悪い。
 流麗なピアノをバックに、プリンスはファルセット中心の歌声を聴かせた。

 メロディアスだが平歌があってサビに行く、みたいな明確にポップな構造を持たない。どんどんと曲が展開し、着地点や繰り返しが非常にわかりづらい。ファルセット中心の歌い方だが、楽曲のムードはソウルというよりニューヨークのモダンなポップスに近い。率直なところ、ビリー・ジョエルやジョニ・ミッチェル的な要素も感じた。

 6分もの長尺で延々と楽曲が紡がれた。即興的にも聴こえるし、終盤のスキャットはかなりアドリブかもしれない。

 けれども歌詞の部分はさすがに作曲だろう。デビュー後の曲で言うと、"Condition Of The Heart"の原型みたい。いや、違うか。もっとこの曲のほうがドラマティックだ。
 さらにファルセットだけでなく、地声も使うフルレンジの歌い方も特徴だ。プリンスはデビューしばらく、ファルセットを武器に活動してた。だがデビュー前の段階では、より幅広い音域を使う曲作りをしてたとわかる。

 のちのプリンスが多重録音を駆使して複数のボーカルを操り、どれが主旋律かあいまいにする幻想的な構造の萌芽が既にある。宅録ゆえにダビングは一切ないが。
 しかしデビュー前の段階で、すでにこんな複雑な構造の楽曲を操ってたとは。すごい。むしろ後年も、ここまで奔放に物語を紡ぐような曲はないかも。

 デビュー時の稚気さはかけらもない。むしろ成熟した感すらある。こういう曲まで埋もれてたんだ。Prince Vaultを見る限り、これをのちにレコーディングし直した記録は無い。だけどきちんとした録音で、この曲の再演が倉庫に残ってたりしないかな。
 次々に展開するイマジネーションの流れが、すごく刺激的な楽曲だ。

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