羅針盤 「せいか」(1998)

 初めて聴き、思い入れある一枚。ポップスとオルタナがいい感じで混ざった傑作だ。

 日本のオルタナに興味持って繰り返し読んだのは、ミュージック・マガジン誌のムック"NEO Nu Sensations 日本のオルタナティヴ・ロック1978-2009"(2010)だった。

 この数年前にライブハウス・シーンに興味持ちルインズや渋さ知らズなどを聴きに行ってたが、いかんせん体系だった流れがわからない。ボアはなんか怖そうだな・・・くらいのイメージだったので、本書がとても勉強になった。

 それまでよく聴いてたのは、ソフト・ロックのオールディーズやソウルなど。だからハードな本書で言うオルタナは刺激的な一方で、耳馴染んだポップス寄りの盤は無いものか、と手に取ったのが羅針盤の"せいか"だった。
 そして、すごく親しみ持って聴けた。多重録音のハーモニーが気持ちよくって。

 山本精一の歌は、決してうまくない。素朴だ。てらいなく淡々ときれいなメロディを歌い、ハーモニーをつける。ガレージ・バンドみたいなサウンドをバックに。これが60年代後半のアメリカで一瞬だけ流行ったソフト・ロック、サイケ・ポップに直結する魅力を感じたんだ。

 羅針盤として本作が2nd。ゲストで勝井祐二が参加した。作詞作曲はすべて山本、ハーモニーも他のメンバーは加わらず、山本だけが声を重ねている。かなりワンマン・バンドかな、と思わせつつも。
 本盤は乾いたドラムと、訥々としたベースが産むグルーヴ、そしてふっくら鳴る鍵盤と、淡々と紡がれるギターによるバンド・サウンドが楽しめる。特にドラムが良い。ぱたぱたっと軽くはずむ。可愛らしく鳴り、チープさが親しみやすさを増した。

 全体に流れる空気はポップで柔らかい。しかしセンチメンタル、メランコリック、抒情、情緒、そんな言葉をうっすら漂わせつつも、情感に流れない。柔らかなサイケ風味が漂う。

 ダブル・トラックのボーカルで、声に厚みと揺らぎを出した。滑らかな旋律が続く曲は、優しく広がる一方で少しばかりそっけない。簡単には近寄らせなさそう。そんな孤高の立ち位置も潔くて良かった。

 ボアダムズの山本がこういう音楽をやるって振り幅が、最初はすとんと受けとめられなかった。とはいえソフトに徹してほしく、たとえば(6)みたいにギターが強めに鳴る曲は違和感あった。これも馴染むと、もろに60年代サイケ・ポップだけど。ハーモニカの演奏はだれだろう。山本かな。
 シューゲイザー風に展開する(7)も、ポップス好きの立ち位置とは違う。むしろROVOに通じるミニマルな盛り上がりかも。
 それでいて(8)はとことん甘く、ふくよかに盛り上がるのが凄いよ。とはいえ一番好きなのは、やっぱり(1)だな。

 久しぶりに本盤を聴いたが、音質はむしろドライかも。エコーで無闇に膨らまさず、音色のサスティンや、オーバー・ダビングの微妙なピッチの干渉による揺で響きを作ってるような気がした。
 声高に主張しない。コンセプトも、音楽性も。この盤はメロディとポップスを追求しながら、もっと先の想いがある。まだ、奥が深い。それが何なのか、うまく言語化できない。
 
Track listing:
1. せいか
2. アコースティック
3.クールダウン
4.光の手
5.朝うたう夜のうた
6.ドライバー
7.カラーズ
8.おわりの鈴
 
Personnel;
山本精一: vocals, guitar, chorus, percussion
須原敬三: bass, handclap
吉田正幸: keyboard, handclap
伴野健: drums, handclap

勝井祐二: violin (on 1, 4, 6)

 

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