Prince 「Truth」(1998)

 冒頭2曲でアコギ弾き語りのイメージをつけ、さりげなく凝ったアレンジを聴かせた。

 アルバム全体のイメージは、アコギ弾き語りのシンプルな盤。だが実際は凝ったアレンジがあちこちに聴ける。
 逆に「弾き語り」ってコンセプトと思わせて、実は全然そのコンセプトを守ろうとして無い自由さが、本盤にある。アコギの響きを共通項にした作品集、くらいの縛りだ。
 要は冒頭2曲の印象が強すぎ。実際は小品のイメージが強い楽曲をコンパクトにまとめた作品。(12)を元に蔵出しにも聴こえるが、実際はほとんどが新曲とも言われる。

 単独で発表されたことはなく、4枚組(あるいは5枚組)な"Crystal Ball"の中の一枚、としてリリースされた。そもそも蔵出しがコンセプトな3枚組"Crystal Ball"のオマケ、もしくはその時点での新曲を対比させる位置づけと当時は捉えていた。

 ぼくは(2)のイメージが強烈に耳へ残っており、なおかつこの曲があまり好みではない。したがって本盤はCDだとさほど繰り返し聴かなかった。逆にプリンスの逝去後、改めて聴き返し良さに気づいた。こんなのばっかだな。ぼくはプリンスの何を聴いてたんだ。
 
 アコギ弾き語りってイメージは冒頭2曲のみ。しかしこれも厳密に弾き語りではないのがプリンスの凝ってるところ。
 (1)はアコギでのリフを元にブルージーに唸った。以外とプリンスはブルーズをあからさまに出さない。跳ねるリフを元にプリンスはささやき声で歌う。だが途中でシンセのひよひよっとSEを織り交ぜ、最後で派手に喉を潰して叫んだ。このドラマティックで方向性の自由なさまが、この曲の魅力だ。

 (2)もトーンは(1)に似てる。冒頭はハーモニーを入れずシンプルな響き。こちらのほうが弾き語り色が強い。だが人の声を加工したような煙ったSEを早々と入れ、アレンジに幅を持たせた。単に弾き語りではつまらない、と思ったか。
 中盤からギターのダビングや薄いハーモニーなど、自由さは増す。
 メロディはさほどでもないが、淡々と繰り返すフレーズ展開にブルージーさを感じた。そしてこの呪術的なムードが、ちと苦手。

 一転して柔らかに語り掛ける(3)。冒頭こそアコギの弾き語り風だが、多重ハーモニーをきっかけに楽器数がどんどん増えてくる。メロディがあって無いような、語り掛けがそのまま旋律を持ってるようなさりげなさが美しい。"The Ballad Of Dorothy Parker"に通じる、吟遊詩人みたいな物語性が好きだ。

 硬いアコギのかき鳴らしをイントロに、ベースも加わりバンドっぽく盛り上がる(5)。本盤はプリンスの多重録音と、NPGのメンバーとセッションした楽曲が混ざってると言われる。この曲ではベースがRhonda Smithだそう。
 ほんのりファンキーに唸る低音がメロディと同じ譜割をなぞり、アコギはストロークとフレーズ、双方を行き来する。さらにシンセを足して音像を単調にさせないアレンジもキュート。

 微分音みたいな音域のギターで、煙ったトロピカルなラウンジ風味を出した(6)。
 これはサビでの多重ハーモニーが産む、ふうわりした響きが愛おしい。途端にシンセのパッド音色を中心にぶわっと音数増やし、対比構造を作る音作りは逆に隙が無い。
 低音と高音の多重ハーモニーを左右チャンネルに飛ばしたり、ミックスの定位で広がりも明確に意識した作り。さらにテンポは一定ながらあえて打楽器を目立たせず、揺らぎも表現した。

 リズミックな(7)もアコギとシンセの対比。パーカッションも入り明確なバンド・サウンドながら、アコギを目立たせることで弾き語り性を失わない。うーん、つくづく巧妙で見事なアレンジだ。
 声は変に潰した響きで奇妙さを出した。これ、ボーカルはプリンスだよね?響きだけだと別人に聴こえる。特定の周波数帯を抜いてる感じ。
 ハーモニーも筒越しに唸るような声質を取り入れた。声の加工でいっぱい遊んだ楽曲。

 (8)はむしろアコギの比率は低い。冒頭のひしゃげた声の背後で弦を張らない鳴りのギターや、Aメロでストロークあるせいで存在感は残した。エレキギターやSEも足して、総和ではエレクトリックのほうが多いかも。なのにアコースティック色。これもプリンスのアレンジ魔術。
 この曲は動物愛護団体PETAの20周年を記念し、プリンスが提供してたそう。プリンスの死後、16年6月にamassの記事で知った。PETAのURLも貼っておく。
http://amass.jp/73751/
http://www.peta.org/features/princes-musical-gift-to-peta/

 ライブでの演奏などほとんどなく、埋もれた感の強い本盤から(8)はライブでも演奏され、"One Nite Alone... Live!"(2002)で収録もあり。
 本盤では多重ハーモニーを華やかにまき散らし、アコギの弾き語りとボディを叩く音でシンプルにまとめた。"Cream"の弾き語りライブ映像でも実感したが、プリンスのギターはリズミックさが素晴らしい。アクセントやカッティングの切れが抜群だ。
 終盤でアコギの音を潰し、口笛で彩る音像も素敵。

 (9)は比較的アップテンポ。NPGのメンバーにベースとリズムを任せた。さらにギターもNPGのメンバー、Mike Scottに委ねたらしい。鷹揚だ。
 アレンジはベーシック・リズムにシンセを細かくダビングした。さらに多重ハーモニーも効果的に塗り、サビでのペタッとまとわりつくムードを強調する。
 中盤からファンク色を増し、マイクの弾むギター・ソロを軸にプリンスは掛け声を載せた。
 楽曲構造はシンプルながら、アレンジの展開で目まぐるしいスピードを演出してる。

 (10)はベースと鍵盤で音像を作った。途中からうっすらと背後でアコギも鳴るが、むしろアレンジの一要素。なのに透き通った響きで楽曲としてアルバムの中で違和感なく成立した。
 これもつぶやくようなメロディラインが、淡々とたゆたう吟遊詩人タイプの曲。本盤で言えば(3)にテイストが共通してる。
 地味に聴こえるが、アレンジはハーモニーや鍵盤のダビングが丁寧になされ凝った仕上がり。

 3分前後の短い楽曲が並ぶ本盤でも、2分と最も小品な(11)。短いAメロからいきなりサビへ突入する潔さが美しい。アコギを基調に、小さなパーカッション。なによりも跳ねまわる多重ハーモニーの幻想性が本曲の特徴だ。ビブラートの周期をずらして波打たせてる、のかな?もうちょっと聴きこもう。震える世界観が愛おしい。
 (10)と同じように、大きな盛り上がりはない。繰り返し聴いてるうちに、ずぶずぶと惹かれていく曲。

 そして(12)でアルバムを締める。アコースティック・バージョンだが、それ以外のリリースは無い。たぶん作品金庫に埋まってるのだろう。硬質な弾き語り。シンセの飾りが彩る。プリンスのテーマとなる"Welcome 2 the Dawn"。夜と昼の境目、夜明け。二つの世界のどちらでもなく、変化する象徴となる言葉。
 他人からの支配やレッテル張りを嫌った、孤高のプリンスにふさわしいコンセプトである。
 他のバージョンを聴いたことが無い。だがサビでテンション上がる気配からして、もともとはエレキで派手に"Purple Rain"ばりに盛り上がる曲だったのかも。

 本盤の最初のコンセプトは、未発表に終わったアルバム"The Dawn"。97年に発表が予告されたが未発表に終わった。そもそもは同名の3枚組を93年に"Come"や"Gold Experience"と同時期に発表するも、ワーナーとコンセプトが合わずお蔵入り。

 コンセプトを改めて"Emancipation"(1996)からつなげ、"Crystal Ball"、"The Dawn"と3枚組3連発を狙ったと推測する。だがさすがにEMIも難色を示し、再び没になったようだ。
 流通を担うビジネスマンの選択として、EMIの選択は間違ってない、と思う。しかし創作の魔術師を、下世話なそろばん勘定で縛ることとなりプリンスは苛立ったのではないいか。

 とにかくプリンスは妥協した。"Crystal Ball"に"Truth"を混ぜた一般流通の4枚組、"Kamasutra"を足した5枚組でNPGから直販とややこしい製品形態にして。
 そして直販版を山のように売り、実績や自分が正しい証明を図ったのではないか。
 
 これまた時代が15年早かった。今なら、直販版の方法もある。DL販売も普及しつつある。けれど当時は、いかにも危なっかしかった。プリンスは大手レーベルとの契約で、中間搾取もさりながら、リリース内容に口出されるのが何より苛立たしかったと推測する。
 好きなときに好きなようにリリースを目指す。しかし実現にはインフラも時代背景もプリンスに追いついてない。したがって模索する販売手法の実験はリアルタイムでしか終えず、しかも全貌を掴みづらい。入手性のややこしさが増し、よけいにプリンスのやることが謎めいてしまった。その混沌すら、プリンスが望んだこと?
 ただプリンスは自由にネットで楽曲を発表し、一年に1~2回、アルバムでコンセプト追及のトータル性をアピール。そんな世界を望んでいたのではないか、と最近は妄想したりもする。

Track listing:
1. The Truth 3:34
2. Don't Play Me 2:48
3. Circle Of Amour 4:43
4. 3rd Eye 4:53
5. Dionne 3:13
6. Man In A Uniform 3:07
7. Animal Kingdom 4:01
8. The Other Side Of The Pillow 3:21
9. Fascinaation 4:55
10. One Of Your Tears 3:27
11. Comeback 1:59
12. Welcome 2 The Dawn (acostic version) 3:17

Musicians
Prince(as TAFKAP) - all vocals, instruments and effects ("in association with nature")
Rhonda Smith - bass guitar on 4,7,9,10,vocals on 9
Kirk Johnson - percussion and vocals on 9, beat programming on 3,10
Kat Dyson - vocals and percussion on 9
Mike Scott - guitar solo on 9

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