Dionne Warwick 「Track of the Cat」(1975)

 今度はフィラデルフィア。なりふり構わずヒットを狙う。成功しなかったが。全体的に抑えすぎな印象だ。ただ、悪くないよ。

 18thの本盤はトム・ベルが全面プロデュース。B1とB4以外は相棒リンダ・クリードとトムが組み、全8曲中5曲を自作提供した。
 録音はシグマ。弦や管はMFSB。もちろんリズム隊も。ずぶずぶに黄金のフィリー・サウンドを仕上げた。

 前アルバムがちぐはぐな仕上がりで、大ヒット曲"Then Came You"を生かせなかった反省、もあったのかな。最初に本盤をやればいいのに。
 だが。どうしても、この言葉が最初に出てしまう。もろ手を挙げて評価しづらい。

 ディオンヌが割り切ってない。トムの意向・・・かなあ?ティーン向の売れ線もしくはもっとドップリとR&B路線なら、立つ瀬もあったろう。けれど本盤は、中途半端に大人向け。煮え切らない。ディオンヌ自身が大歌手である、とプライドを捨てきれなかったのではないか、と邪推する。

 強烈なキラー・チューンこそないが、楽曲は良い。演奏もきれいだし、歌声だっていい調子。あまり喉を張らず、甘く仕上げた。力を抑えてこそ、軽いメロディの上下にこそ魅力を持つ、ディオンヌの味わいがよく出てる。


 しかし売れなかった。全米137位、R&Bで15位。前作より、微妙に上がってるのが始末悪い。アルバムの出来は、いいのに。
 チャートがすべてとはもちろん言わない。しかし。続く19th"Love at First Sight"(1977)はチャートにも入らず。ワーナーとの契約は本盤で終わる。
 そして2年後、アリスタ移籍で第一弾の"Dionne"(1979)がプラチナ・アルバムの特大ヒット。華々しくディオンヌは表舞台に復帰した。

 とはいえ僕の趣味だと、本盤"Track of the Cat"のほうが好き。いわゆる売らんかな、の吹っ切れが無いぶん、70年代フィリー・ソウルの味がキッチリ滲んでるから。

 ただし今一つ、アルバムに覇気は無い。あまり喉を張らないほうがディオンヌは魅力的と思うが、A1はサビで盛大に叫んだほうが映えたのでは。
 A3やB1は抑えすぎ。もっと派手に行けるとこを、手綱絞りすぎて中途半端な盛り上がりに終わった。メロディはダンディで良い曲なのに。

 ベストはA2。シングル・カットもされた。
 ハエ叩きみたいなシンバルがいただけないけれど、すごく良い曲。伸びやかなボーカルも魅力的だ。抑えたムードでジワジワくるとこがたまらなく素敵。
 A4も良い。本盤のテイクはソフトに包んでる。もっとシャウトしたって受け止める強度のメロディを、ふっくらスマートに仕立てた。可能性を秘めた名曲だ。

 B2もメロディが良い。本盤に共通する煮え切らなさはあるけれど。せめてフェイドアウトのアウトロくらい、溌剌なトーンで最初から行ってくれればよかった。
 B3の柔らかなムードも心地よい。"Oh~♪"ってハーモニーと一緒に熱くキメ、サビへ雪崩れる構成が素敵だ。やはり歌はぐっとパワーを控えた。

 アルバム最後のB4もきれいな曲。これがアルバムの1stシングルかな。A2同様、ヒットせずだが。
 バックと歌の双方抑えたタッチながら、ディオンヌの歌はいい感じ。メロディがあっさり聴こえてしまうのは、ディオンヌの実力が高すぎるから。
 もっと粘ることもできたはずだが、あまりさりげなく歌いこなしてしまう。したがって小粒に聴こえる皮肉な仕上がりだ。リズムがもったり。もっとバックビートを利かせたら、ダンサブルで晴れやかに仕上がった。

 セプター時代の後期、張り上げる歌唱に向かったディオンヌは過剰に聴こえた。しかし本盤では物足りない。その差は、バッキングやアレンジだろう。一緒に熱くなるジャズ・スタイルの絶唱がセプター期としたら、フィリー・サウンドの本盤はバックとの喧嘩。どっちが派手に鳴るかっていう。どちらも相手の出方を探って終わった。

 何度も聴いてると、じわじわと良さに気が付く。メロディの確かさ、ディオンヌのうまさ。双方が燃焼せず燻ぶってしまった。惜しい。

Track listing:
A1. Track Of The Cat 6:54
A2. His House And Me 4:50
A3. Ronnie Lee 3:39
A4. World Of My Dreams 3:59
B1. Jealousy 3:24
B2. This Is Love 3:30
B3. Love Me One More Time 4:11
B4. Once You Hit The Road 4:03

Personnel:
Producer, Arranged By, Conductor, Keyboards - Thom Bell
Strings, Horns - MFSB
Recorded At - Sigma Sound Studios
Overdubbed At - Kaye-Smith Studios
Backing Vocals - Barbara Ingram, Bruce Hawes, Carl Helm, Carla Benson, Evette Benton, Joseph B. Jefferson
Bass - Bob Babbitt
Congas, Percussion - Larry Washington
Drums - Andrew Smith (A4), Charles Collins
Guitar - Bobby Eli, Tony Bell

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