Frank Zappa 「The Crux Of The Biscuit」(2016)

 アポストロフィ(')(1974)のアウトテイク集で、完全にマニア向け。

 ザッパの死後、延々とリリースされる蔵出し音源。
 これは18thアルバム"Apostrophe(')"の40周年盤と位置付けられた。死後の再発パターンとしては、別テイクなどに着目した蔵出しシリーズ、"Project/Object"の第4弾。特に時系列順ではなく、まとまった順にランダムなリリースとなっている。
 没テイク集のため、完全にマニア向け。オリジナルを超えることはありえず、初めて聴くならまず、"Apostrophe(')"を先に聴くことを強く薦める。

 オリジナルの"Apostrophe(')"は、ロック回帰の盤。オーケストレーションを志向し、大編成オケの"200 Motels"(1971)や、コンボ編成でフュージョン的なアンサンブル志向に行ってたザッパが"Over-Nite Sensation"(1973)に続き、骨太のロックを聴かせた。
 ここからザッパのロック黄金時代が始まり、"レザー"のリリースで揉めるまでは旺盛なライブと活発でがっつりロックな時代が続く。

 "Apostrophe(')"は70年代の強力メンバーを率いつつ、ジャック・ブルーズやジム・ゴードンなど大物ゲストを迎えた盤ってのも売りだった。とはいえ僕は完全に後追い。88年に本盤と"Over-Nite Sensation"の2in1なCD再発で初めて聴いたのだが。

 まず、トラック・リストから見てみよう。細かいクレジットはザッパのファンサイトなここに詳しい。
http://globalia.net/donlope/fz/lyrics/The_Crux_Of_The_Biscuit.html

Track listing:
1. Cosmik Debris
2. Uncle Remus (Mix Outtake)
3. Down In De Dew (Alternate Mix)
4. Apostrophe' (Mix Outtake)
5. The Story Of Don't Eat The Yellow Snow-St. Alphonzo's Pancake Breakfast
6. Don't Eat The Yellow Snow-St. Alphonzo's Pancake Breakfast (Live)
7. Excentrifugal Forz (Mix Outtake)
8. Energy Frontier (Take 4)
9. Energy Frontier (Take 6 with Overdubs)
10. Energy Frontier (Bridge)
11. Cosmik Debris (Basic Tracks - Take 3)
12. Don't Eat The Yellow Snow (Basic Tracks - Alternate Take)
13. Nanook Rubs It (Basic Tracks - Outtake)
14. Nanook Rubs It (Session Outtake)
15. Frank's Last Words…

 ごらんのようにアルバムをなぞるでもなく、統一感もない。同じ曲は続けて並び、すっきりしてるが「聴く作品」としては、学究的な位置づけでダイナミズムには欠ける。
 目玉は9分にもわたるギター・バトルが聴ける(4)や(10)か。
 
 本盤のプロデュースは晩年のゲイル。さらにテープ管理人のジョー・トラバースがクレジットされた。今のザッパ兄弟がもめる前にマスタリングまで終わらせた盤らしい。
 タイトルを訳すなら「ビスケットの落穂ひろい」とでもなるのか。まさにテープ倉庫から関連音源をかき集めたシロモノだ。マニアなら、楽しみようもある。
 
 10秒ほど長くて別ミックスと思しき(1)から始まる。もともとこの曲は地味なので、いまいちパンチ力が無い。確かにもっとも完成されたテイクだ。

 (2)はミックス違い。クレジット見てよくわからないが、ザッパ自身の別ミックスでいいのだろうか。マルチが残ってて、今のスタッフが別ミックスではあるまいな。それだとあまり、フランク・ザッパの作品としては価値が低い。
 流れはコーラスが賑やかな感じかな。オリジナルより2分くらい長い。

 (3)は"Lather"(1996)で発掘のアウトテイク。70年代後半でなく、既に72年の段階で本盤用の音源が準備されてた。というより、とりあえず膨大に録音をザッパは重ね、のちのプロジェクトのコンセプトに合わせストックを取捨選択してたのだろう。
 "Lather"のテイクより15秒ほど長い。名セッション・ドラマーなジム・ゴードンのリズムへ、ザッパがギターとベースを多重ダビングした。
 きらびやかでちょっと脱力な音色のアコースティックなギターが幾層にも重ねられ、ユニークで不思議な世界を作ってる。
 これはこれで面白い曲なのだが、本盤のテイクはほんとにマニア向け。"Lather"との違いを探すのも面白いだろう。

 続く(4)へのつなぎは滑らかでよかった。がっつりザッパのギターとメンバーとのバトルが楽しめる。時間も9分と長めで。ドラムがゴードン、ベースがジャック・ブルーズ。ぶいぶい唸るベースへギターが襲い掛かるかっこいいさまを存分に味わえた。
 ファン向けではあるが、お薦めテイク。しかしフェイド・アウトが勿体ない。テーマ・リフに戻ってるから、あとは腰砕けでエンディングかもしれない。その部分をカットとは思うが・・・。

 (5)はザッパのインタビュー。73年にオーストラリアでの録音。よくこんなテープまで、ザッパは保管しておくものだ。文章の書き起こしは、前述のファン・サイトにて読める。
http://globalia.net/donlope/fz/lyrics/The_Crux_Of_The_Biscuit.html

 そして(6)。
 (5)で言及の"Don't Eat The Yellow Snow"から"St. Alphonzo's Pancake Breakfast"へ続くライブ・テイクにつながる。これもカッコよく、本盤目玉のひとつ。
 (5)のインタビューと同じ時期、シドニーで73年6月24日のライブ。強力リズムへポリリズミックにカブる、ザッパの歌やギターを存分に味わえた。
 この時期のライブメンバーは、ジョージ・デュークやイアン&ルース・アンダーウッドがいるテクニシャンぞろい。
 さらにジャン・リュク・ポンティのバイオリンと、ペットにトロンボーン(ブルース・ファウラー)がいる隙の無いアンサンブルで安定した複雑な演奏を展開する。

 演奏は快演、場面展開はテープ編集かと思わせるくらい、素早くタイトに変わっていく。"St. Alphonzo's~"へ移るとき、へなったペットからバイオリンへつながる場面は少しばかり腰砕け。テンポはまだゆっくりめな気がする。
 これはザッパ存命中には絶対にリリースされない音源だ。途中でちょっとハウるとこが数か所あるし、アンプのノイズも語り部分で聴こえる。つまり演奏は良くとも、録音に問題あり。だがこうしてブートでなく、公式で発表は評価したい。
 
 基本的に僕はザッパ一家の再発スタンスへ、もう飽きてきた。コンセプトが中途半端でカタログとしての魅力をどこに置いていいか。父親の遺産を文字通り、食いつぶしてる。
 とはいえこういうノイズ交じりでも構わずリリースする、鷹揚さは好意的に評価する。どうせ、こちとらファンはどんな音源でも聴きたいんだ。

 このテイクも、タイトルは2曲だけだがメドレーで"Rollo"や"Father O'Blivion","Mar-Juh-Rene"なども挟む。ライブの丸ごと蔵出しでなく、こうして部分的に切り取って聴くのも悪くはないな。
 一方で本盤のバランスとしては、長すぎると思う。アルバムじゃなく公式ブートとして聴くべきか。

 ミックス違いの(7)も、アルバムに埋もれがちな曲を掘り起こしみたいで面白い。ぼくは再発初期のしょぼいマスタリングでしかこの曲を聴いてないので、クリアなリマスターそのものが楽しめた。中間部のモコモコッとスペイシーな処理は、本盤のテイクのほうがサイケさを強調してるような。

 テイク違いが続く(8)~(10)もまさに、ブートのノリ。あえて全テイク並べず、抜粋で置くとこがポイントか。
 これは仰天。本盤収録の(3)をザッパの多重録音でなく、バンド録音してる。色々とザッパは試してたんだ。しかもゴードンに加え、ベースはジャック・ブルースが弾いている。
 (8)はフルートがたっぷりとスペースを取ってソロを取った。ザッパが編集で切りそうだが、実際の録音はこういうアドリブも大切に取ってたんだな。

 (9)はテイク違いにダビングを施した音源。ザッパがギターとベースをダビングしてる。せっかくブルーズを呼んだのに、もしこれをリリースなら話題性が減じてしまったな。どっちにしろ曲ごと当時はお蔵入りだったが。
 (8)より75秒ほど長いテイク。フルートのソロはそのままに、弾むベースがザッパの演奏か。

 (10)は(4)と同じノリ。トニー・デュランをリズム・ギターで置いてフルートを抜き、ゴードン、ブルーズ、ザッパの三人で暴れまくった。これも8分越えのがっつり楽しめるテイクだ。
 演奏は"Apostrophe(')"。つまりこの変奏が(3)(8)(9)"Down In De Dew","Energy Frontier"で、本盤へこれらを収録したって意味らしい。
 これもフェイド・アウトで終わる。最後まで聴かせて・・・。

 (11)はインストの(1)。(1)に並べず間を置いて演奏を聴かせる曲並べはありがたい。もしかしたらここからは、おまけ的な意味かも。
 パーカッションのおかずや場面展開の鋭さは、インストだとよくわかる。音質は低いが貴重な記録だ。ザッパのギター・ソロはこの時点で録音され、ダビングじゃなかったのか。

 (12)はベーシック録音の別テイク。パンチイン、もしくは編集用に録ったと思われる。ボーカルまで同時録音か。カブリとか気にしないみたい。唐突に演奏が終わってしまう。
 (13)もリズム録りのアウトテイク。ボーカル同録だが。唐突に切れる。同じ曲の別シーンでアウトテイクが(14)。ちょこちょこ録って、編集で整理のスタンスかな。

 本当におまけが(14)。「テイクが録れたよ」ってザッパのコメントあとで、ルースが"St. Alphonzo's Pancake Breakfast"の速いマリンバのフレーズを繰り返す。
 後ろで笑ってるのはデュークだそう。ザッパもなぜか笑って、テープを止める指示。

 まさにブートみたいな本盤を締めるのに、ちょうどいいコメントかもしれぬ。
 
 ということで、つらつら書いてたら長くなった。いくつか楽しめるポイントは確かにある。けれども本盤を聴くなら、オリジナルの"Apostrophe (')"をたっぷり聴いてからでも、決して遅くない。


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