灰野敬二 「やらないが できないことに なってゆく」(2006)

 エレキギターと歌による純粋で凛々しい一枚。

 歌うコンセプトなのに細かくトラックを分けず、一時間以上の一本勝負に仕立てる構成がいかにも灰野らしい。たぶん、ダビングや編集無しの一本勝負。
 冒頭はやたらカセットのテープ・ノイズがひどい。次第に録音ボリュームが上がるのか、しばらくたつと気にならなくなるが。
 
 エレキギターのかき鳴らしから歌へ。ガット・ギター的なアプローチだが、鋭い響きでエレキならではの音色を生かした。いわゆる歌曲集ではなく、断片的な歌がギターのストローク中心なプレイで流れていく。とはいえトラック一本でなく、中途半端な位置でもいいからいくつかトラックを切って欲しかった。あとから聴くとき、最初から通す道のみを聴き手へ提示し、寄り道やショートカットを許さない。

 冒頭ではエレキギターであまり音を歪ませない。冒頭のフレーズがループされ、そこへさらにストロークを重ねていくスタイル。
 高い音域で歌がしばし続いたのち、ちょっと歪んだ響きを足し、さらにギター・ループを重ねた。ダブ風に出し入れされたのち、すうっと消え、静かな爪弾きに変わる瞬間がスリリング。

 そのまま囁くような歌声につながる。繰り返されるフレーズが朗々と響き、サスティンを効かせたエレキギターへ。オクターバーをかまし、倍音が鳴る。それが滑らかにループ。この取捨選択っぷりが素晴らしい。間をおかずギター・ソロへ。併せてループに加えられ、数本のフレーズが絡み合う音像があっという間に出来上がった。
 歌は又、違う場面に向かう。

 あらゆる流れにとらわれない。30分過ぎ、ちょうど真ん中に至ろうという頃合い、にて。
 いきなりノイジーなギター・ソロに。歪みをきれいに流し、太く揺らぎながら清廉な空気を崩れた音色で表現した。ループが重なり叫び声も混ざり、充満が思い切り膨らんだ挙句、またもや唐突にすべてが切られる。
 間をおかず、調子っぱずれな和音のシンプルな響きへ。猛烈な落差を、たやすく灰野は表現した。

 その和音もループされ、軋むギターの音が不安定に世界を飾っていく。呟きの歌声を伴って。激しいかきむしりも現れたが、どこか余裕あり。この激しさと無関係に、静かに歌う灰野のリズム感が凄まじい。

 50分過ぎ、再びテープ・ヒスノイズが大きくなった。爪弾きとハイトーンの歌声のボリュームが下がったせいか。冒頭との連続性と流転を思わせる。
 やがてじわじわと静かなままテンションが高まってゆき、ヒスノイズはどこかへ消えていった。代わりに剛腕の重たいギター・ソロへ。歪みながらもくっきりした輪郭を保っている。ひたむきにフレーズが重なる。

 すうっと消えて、最後はストロークを元に高らかな歌声へ。終盤に向けザクッと荒い雰囲気へ変化していった。
 エンディングは唐突に音を強引に消し、ループを背後に地声で鈍く呟いた。

 盛り上がりが急展開して、次の場面に。これが本盤の特徴だ。
 一つの世界を作ったあと、小道を歩いて次の世界へ。そんな吟遊詩人の風景が脳裏に浮かんだ。
 比率でいうと歌よりギター演奏のほうが、いくぶん多いかな。息苦しさは皆無、すっとヌケの良いムードが醸し出される。 

Track listing:
1.やらないが できないことに なってゆく 68:48

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