灰野敬二/K.K.Null 「Mamono」(2006)

 力任せと知性のノイズが混在した、電気仕掛けの霧が広がる。楽曲ごとに構成を変えバラエティさも意識した。

 千枚限定。米ジョージア州のレーベルBlossoming Noiseから発売された。二人ともベテランだが本盤が初の共演CDらしい。灰野の本によれば99年6月20日に、彼らに加えMerzbowもいれたトリオ・セッションが初共演、かな。

 録音場所やスタッフは不明だが、なんとなくK.K.Nullがマスタリングじゃないかな。短めの曲4曲、長尺3曲。ひとつながりではなく、別々の編成や構図でのデュオを集めた。
 Nullが本盤でギター弾かないのが特徴だ。

 (1)冒頭はエレクトロ・ノイズに灰野のボーカルが埋め込まれる形。Nullだけでなく、灰野も電子機器を操作してる。拍子感の希薄な灰野のシャウトが、電子ノイズに溶けて溢れ膨らむさまが刺激的だ。最後に炸裂する余韻のリバーブも象徴的で美しかった。

 そのエコー感を引き継ぐ形で(2)へ。断片的な灰野の声が、リバーブとディレイに満ちたパーカッシブなノイズと絡む。灰野のソロでなくコラボだと、この辺の展開が即興のプリミティブさより理に落ちるアイディア展開に聴こえてしまう。
 
 (3)はドラムとノイズ。生々しくドライなドラムを灰野が叩き、Nullはリバーブ満載のエレクトロ・ノイズを操った。同時演奏だがエコー処理はNullが握り、場面ごとに響かせたり残響を消したりと空間を操った。
 灰野はNullの処理へ構わず疾走し、猛然とストイックに叩きのめす。いちおうドラムセットのようだが手数は控え、スネアを中心でたまにシンバルを叩くくらい。キックもツインペダルで踏んでいる。
 ひっかくようなノイズとリバーブ。すっと手を止めて、灰野のドラムをエコー処理に集中する終盤の音像が涼やかで良い。

 灰野が乾いたエレキギターの明瞭な響きと、Nullのドラムが(4)。ギターはMIDI処理なのか、鍵盤音色もユニゾンで現れた。Nullのドラムもビートを刻まずランダムなリズムを提示するけれど、いくぶんきっちりした印象。灰野ほど極端に空間を揺らさない。
 ギターはすべてリアルタイム処理だろうか。複数のラインが現れては消える。ループとディレイを駆使のようだ。
 鍵盤音色のギターが妙に柔らかな肌触りで、音構造はシビアなのに少しばかりポップに聴こえる面白さあり。

 灰野のギターとNullのドラム・セッションのもう一曲が(5)。本盤ではどちらも5分程度の小品に収め、あまり灰野のギターを本盤では前面に出さない。
 かきむしるギターが丸っこい音色で暴れ、倍音や歪みを増していく。ドラムはキックを中心に低く身を潜め、ときおり激しく打ち鳴らされた。
 ひとしきり音像が提示されたあと、全く違うタイム感で灰野のまっすぐな歌が現れる。
 歪み倒した灰野のギターも終盤で吼えるけれど、すっきりしたミックスで音像の一つにまとめられて、あまり激しく聴こえない。むしろハウリングの透徹な響きを強く鋭くミックスした。

 (6)が本盤最長の22分弱にわたるインプロ。灰野は声とドラム・マシーン、ドラム、エレクトロニクスを担当。Nullも声とエレクトロニクスを操る。
 冒頭からは中心を包むようなエレクトロ・ノイズの饗宴。複数の音が響き、重なっていく。数本の音数はどちらがどちらかわかりづらいけれど、ロングトーンで切り裂く音が灰野だろうか。

 ワサワサ蠢く低音と、貫く高音の対比を基調に様々な音が混ざっていく。濃密さより広がりを感じる音像だ。
 意図的なノイズに加え、轟音ゆえのフィードバックやハウリングも途中から混ざってきた。タンバリンの淡々とした響きは生演奏のサンプリングか。酩酊感もったミニマルさも漂わす。
 そして声が現れ、(1)に通じるあいまいな世界へ向かった。ループが作る、ぼんやりとした小節感。一定のビートを感じ始めたところで、タンバリンがポリリズミックに鳴る。多層性を作り、さらに新たなエレクトリック・ノイズが吹き荒れて拍子を縦横に広げた。この無常観が心地よい。

 最終曲の(7)も(6)と同じ構成。ただし楽曲はいったん終わらせ、新しい曲として(7)が分離されている。冒頭からたちまちテンションが高まり、電気仕掛けの曇った煙の中へ突っ込んだ。リバーブなどの空間操作エフェクトと、ノイズそのものが揺らいでいく。ここでは誰がどれの音の分別よりも、全体の響きが優先か。
 底部をなぞっていたシンセのループが、いったん影を払われエレクトリック・ドラムのパッド操作めいた性急な乱打に混ざった。

 最後は生々しくアナログなフィードバック・ノイズで勇ましく長い響きでまとめた。

Track listing:
1. Untitled 10:06
2. Untitled 4:30
3. Untitled 5:25
4. Untitled 4:02
5. Untitled 5:43
6. Untitled 21:56
7. Untitled 15:55

Personnel:
灰野敬二:Voice on 1, 2, 5, 6, 7,Guitar on 4,5,Drum-machine on 6,7,Drums on 3,Electronics on 1, 2, 6, 7
K.K.Null:Drums on 4, 5, 7,Electronics on 1 to 3, 6, 7,Voice on 3, 6

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