灰野敬二/Pan Sonic 「In The Studio:Synergy between mercy and self-annihilation overturned」(2010)

 デジタルとアナログなノイズの饗宴。知性と定量化できぬ凄みが詰め込まれた。

 LP限定で2010年に発売の本作は、09年のCD"Shall I Download A Blackhole And Offer It To You" Live In Berlin 15.11.2007(ブラックホールをダウンロードして君にあげようか)"に続くコラボ盤。

 "Shall I Download~"収録ライブの数日前、07年11月12日と13日の二日間にベルリンのスタジオで本盤は録音された。息を合わせるリハ、もしくは探りか。Pan Sonicは灰野の音楽を以前より聴いていたらしいが。

 なお本盤はここで、FlacやMP3音源盤も購入が可能だ。
https://blastfirstpetite.greedbag.com/buy/in-the-studio-2/
  
 即興的な音楽を、あとでPan Sonic側がエディットしてるようにも聴こえる。
 A2の叫びやギターのように、くっきり灰野の存在が前に出た楽曲もあるが、例えばA1のようにノイズが混在して灰野がどれかわかりづらくした場面もあり。
 もっともA2はリズム感も灰野っぽい。すべてが多重録音かな?

 Pan Sonicはフィンランドの電子音楽ユニット。Panasonic名義で93年にデビューしたがパナソニックより98年にクレームが入り、バンド名を変更した。
 本盤発売の2010年に活動停止ってニュースもあったが、その後もリリースはじりじり続いてるようだ。彼らのことはちゃんと聴いておらず、よくわからない。もともとMerzbowとの共演"V"で彼らの存在を知った。

 灰野と共演の前作は曲名が「Untitle」とそっけなかったが、今回は全面的に灰野の趣味性を出す、長文のタイトルがついた。
 日本語版が見つからない。せっかくなら灰野の言語感覚による邦題も見てみたいのだが。アルバムタイトルのみは「覆された慈悲と自爆との関係性」と訳された。

 アナログ盤の制限ゆえに長尺は無い。さらに数分で区切る楽曲まであり、音楽はサクサク進む。もっとも楽曲上もデジタルな編集感が噴出するため、明確な楽曲の区切りめいたものはない。雰囲気が変わったときに、「あ、曲が変わった」と実感するくらい。
 
 デジタルの質感はノイズやエコーの加工感に留まらない。明瞭でドライな音構造ゆえ。灰野の蠢きや流れすらも、ときにスルリと編集される。奇数曲がPan Sonic、偶数曲が灰野を主体にもなんとなく聞こえるが、そこまで明確な定義があるわけでもない。

 灰野が素材と扱われてるきらいもあり。ただし灰野は自由だ。楽器を曲ごとに変えている。B2では三味線めいた響き、D2はフルートでオリエンタルもしくは中近東の空気を漂わせた。
 電子音がかぶるけれど、灰野色が強い本曲では一気に風景がアナログに染まる。ゲートでエコー処理な場面もあり、風景が異様に震えるスリルも面白い。
 特にD2の充満した空気が痛快だ。終盤での息継ぎも生々しくて良い。さらにそれがループと重ねられ呼吸と出音が交錯した。

 本盤はとりわけB面が強力だ。B3のファルセットな灰野の歌声を、残響もろとも電子加工して鈍い低音を左右にパンさせ、やがてハーシュなエレクトロ・ノイズを塗りたくる。この音像が荘厳かつ金属質な異世界の風景を、美しく表現した。

 C1のロックな凄みも良い。このメロディアスなギターは灰野?くっきりと明瞭なフレーズを弾いているが。D1は一転して、流浪の寂し気なエレキギターを灰野が響かせた。低音が静かに吹きすさぶ。

 全体として異色な色合いを楽しめた。無機質で起承転結の無い電子音楽の混沌で、灰野のアナログなリズム感をグラグラつかみどころ無く揺さぶった。鋭利に。 

Track listing:
A1. So Many Things I Still Have Yet To Say 6:32
A2. If I Could Incarnate This Feeling Would You Consider It A Creation 1:15
A3.Imperious Doppelganger Of Tears, Playing Catch With Objectivity That Evades Ultimate Responsibility 7:11
A4. I Wonder If We Have Become Wiser Than Gods By Making Worse What Already Is 2:32

B1. This Trembling, No Longer Seems To Be The Axis At The Centre 4:59
B2. As Far As The Left Goes, It Is Starting To Look Red. What About The Right, I Wonder What Colour It Will Be 4:59
B3. In The Hollow Created Between The Eyebrows, What Offering Would Be Most Appropriate 7:03

C1. "Without Doubt", An Attestation Written From That Time, Will No Longer Have Effect, Because The Wound Has Widened So Much 4:20
C2. I Have Embedded It Approximately 2 Minutes And 7 Seconds Into The 4th Song, In Order To Return Here Whenever I Wish 8:56

D1. Perhaps There Is No Need To Return 6:51
D2. Preparation Is Unnecessary From This Point On…, Leave Me Alone Some Time 6:12

Personnel:
Music By Ilpo Vaisanen, 灰野敬二, Mika Vainio

A1とC1、D1がYoutubeに上がっていた。
  


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