TZ 7607:Derek Bailey "Ballads"(2002)

 ひねりをもう半周回した、驚異の企画。築いた前衛キャリアで裏打ちゆえの、スタンダード演奏を披露した名盤。

 02年2月1日、一日で録音された。05年に没する晩年期の録音。晩年は手根管症候群で演奏に支障を起こしたが、このころはまだ不自由なかったと思われる。その中で、スタンダード曲へ真正面から向かい合った演奏が、これだ。

 ベイリーと言えば抽象的な演奏の極北。メロディを既存の調から注意深く外すことを主眼として、手癖やリズム、拍や小節線をあえて外し続ける演奏を築き上げた人だ。だからこそ、この企画盤は脅威だった。インプロを徹底追及する人が選ぶ企画なのか、と。
 だれが立案かは知らないが、TZADIK側だろう。ベイリーがわざわざ選ぶ道とも思えない。よくやったな、ってのが当時の印象だった。

 もっともベイリーはスイング・ジャズも行けた。最初は下手くそに聴こえるギターだが、あの演奏は確かな知識と演奏力あってのもの。66年頃からエヴァン・パーカーらとフリーに走ったベイリーだが、それまではオーソドックスなギター奏者として演奏だった。

 さらに本盤へも実は伏線があった。07年にTZADIKから発売の"Standards"。本盤録音の2カ月前にロンドンで、アコースティック・ギター独奏にてスタンダード7曲を変奏した。当時は未発表。
 この録音が呼び水となり、エレアコで吹きこむ本盤の企画へ至った。

 エレクトリック変調されたギターで、ベイリーはスタンダードを真正面から演奏する。だがアドリブやフレーズ展開、リズムはベイリー節。ハーモニクスを多用してキラキラ跳ねる高音がちりばめられた。
 抽象的なフレーズから美しいメロディへ、そしてつかみどころ無い即興に向かうが、背後でかすかにオリジナルの楽曲イメージを漂わせる。

 即興のきっかけでなく、土台としてスタンダードを美しく演奏するベイリー。アドリブが極端に抽象的だからこそ、テーマ部分の滑らかさが映える。崩されても楽曲として成立し、けれども一般的なジャズとは完全に一線を画した独自世界を魅せる。

 1~2分、せいぜい3分くらいの小品が11曲と多い。7分越えは1曲のみ、残る2曲も5分前後。あまり長尺にソロを広げず、さらりと演奏してスタンダードを演奏する妙味こそを強調した。

 さらに「風と共に去りぬ」に触発されたAllie Wrubel作の"Gone With The Wind"(1937)と、ホーギー・カーマイケルのスタンダード"Rockin' Chair"(1929)は2テイクを収録、解釈の聴き比べをも楽しめるサービスつき。

 ベイリーの実力と、崩した演奏スタイルが逆にわかりやすい。手癖や楽典に沿わぬよう、注意深く外し続けるベイリーの奏法やテクニックが、楽曲をどう崩すかはっきり本盤で味わえるからだ。
 ベイリー初心者に自信もってお勧めの一枚であり、むしろベイリーに慣れた時こそ本盤を味わい深く楽しめる。敢えて、これはフリージャズのカテゴリーに入れたい。
 強固にコード演奏のジャズ・スタイルを踏まえながら、鋭く美しくも激しいフリーなジャズを聴かせる傑作だ。

Track listing:
1. Laura 2:58
2. What's New 1:40
3. When Your Lover Has Gone 3:18
4. Stella By Starlight 7:21
5. My Melancholy Baby 3:13
6. My Buddy 1:12
7. Gone With The Wind 2:06
8. Rockin' Chair 1:56
9. Body And Soul 5:33
10. Gone With The Wind 2:28
11. Rockin' Chair 2:04
12. You Go To My Head 1:47
13. Georgia On My Mind 4:57
14. Please Don't Talk About Me When I'm Gone 0:50

Personnel;
Guitar – Derek Bailey
Recorded at Moat Studio, London on 1 February 2002.

関連記事

コメント

非公開コメント