灰野敬二 「この気配 封じられてる 創まりに」(2005)

 スタジオ録音のドラム・ソロ。リズムでなく打楽器、としてのアプローチが特徴だ。

 02年くらいから特にPSF盤では演奏する楽器に縛りを入れて、個々の楽器へ拘ってアルバムを作ってる印象あり。パーカッション・ソロはこの前から行っているが、この盤はドラム・セット」に集中した。

 「ダビング無し、できる限り大音量で聴くように。かすかな音も、収録されている」と英語で記された。
 取っつきは悪いが、ある意味で灰野敬二の音楽性がわかりやすい。既存の生楽器で、特殊奏法を控えた上で、独特の世界を描いてるため。ドラムがどのような音を出し、いわゆるアンサンブルやどんな役割を果たすかをイメージした上で本盤を聴けば、固定観念にとらわれない灰野の自由さが本盤で実感できるだろう。

 英題は"Global Ancient Atmosphere"。邦題と全く違う。よりシンボリックかつオカルティックなイメージを英題に込めたか。リズムから解放され、打音と響きに拘る「音楽以前の音」を表現と想像する。

 まず(1)はスネアのみの演奏。一打だけ、フロアタムっぽい響きも聴こえたが。
 間をいっぱいとり、なおかつ打音も変わる。一打ごとが完全にマシーンのように同じ音を出すのでなく、一打一打で別の音を描いた。
 スネアの響き線が唐突にミュートされ、鈍い響きと残響が無秩序に並ぶ。連打でも乱打でもない。アンビエントな間に拘泥でもない。
 拍子が読めず、規則的に割り切れもせず。灰野のタイム感と表現力をシンプルなスネアとの格闘で響かせた。
 轟音やノイジーな場面はない。叫びも無し。淡々とスネアに向かい合う。ある意味聴きやすく、灰野のノリを滑らかに感じられる一曲。

 単調さを嫌ったか、本盤では比較的短いトラックが並んだ。(2)以降はドラム・セット。シンバル、ハイハット、スネアにキック。あれこれと鳴らすし、緩やかなグルーヴは感じられる。けれども明確なビートや、一定のテンポ感は無い。
 揺らぎ、叩かれながら時間間隔が震え、やがて高まっていく。猛然と乱打して激しさも回避し、淡々と演奏してる。奥底に熱いうねりは感じるけれど。
 手足が違うビート感で動き、テクニックとは別次元の独自な世界観を出す灰野の真骨頂だ。

 (3)のドラム・セットは、改めて静かな風景から始まる。ひとつながりのアルバムでなく、個々の即興はバラバラに作られた。リズミックさは拍子でなくパターン。ある流れを作り出し、それが繰り返され変奏される。
 いわゆるテクニカルなアプローチではないが、自分が出したい音をブレず振れずに滑らかに出す演奏力は確かだ。同じ音、同じパターンを叩きたいときには、拍子感は独特なのに崩れず音が続くさまは驚異的だ。

 (4)は(3)に続く風景。だがシンバルの響きや残響、スネアの響き線など静かな世界に寄った。ボリュームを上げると、音の消える瞬間の背後で空気のうねりが聴こえそうだ。
 実際にはスピーカーや部屋のノイズだが。密閉型のヘッドフォンで聴くほうが良いかもしれないな。
 そして小刻みにリズムを重ね、余韻を響かせる小品の(5)へ。残響と打音が重なり、混ざる瞬間の奥行きが美しい。

 (6)は余韻とスピード、双方が緩やかに交錯する。構成や決まりから解放され、灰野のタイム感と思惑で打音とパターンが変化していく。2バスのドタバタしたキック、逆にしなやかさが漂うスティックさばき。その対比も聴きものだ。
 同じようなパターンでも、打音や叩く箇所を毎回変えている。訥々と飄々さ、複数のニュアンスが混ざった。誠実さと真剣なムードが灰野の音楽に漂うが、この盤ではどこか軽やかな余裕もあり。音が充満せず、すっと残響に消えるせいだろう。
 生で聴いてたら緊迫感が凄いと思うが、音だけだと寛いで聴ける個所もあり。灰野の作品では珍しい。
 比較的本盤では長めのテイクだが、余韻を味わうせいとパターン・ミュージックでないため、すっと時間がたっていく。スネアの表皮が振動する空気感が美しい。

 (7)は意外とアグレッシブ。それでも連打や乱打の激しさは取らない。どこかおっとりした余裕あり。単にテクニックの面で、こうなっているのかも。いわゆるロールは使わぬ打法のため。
 叩きのめしのあと、すっと引く。余韻が空気へきれいに消えていく。
 小気味よいビート感も楽しめた。ハイハットとシンバル、スネアにキック。ドラム・セットを使いこなし、音を組み立ててる。

 (8)が本盤一番の大作で、10分程度。だが特段、他の曲と異なるアプローチではない。
 むしろこの盤は、楽曲ごとに同じアイディアをいかに変貌させてるかが聴くポイントかも。この曲ではフロア・タムをじわんと鳴らす瞬間が印象に残った。2音の組み合わせでフロア・タムをしばし鳴らし、そこへスネアやシンバルを足して変化つけた。

 打音ミュートは(1)で多発したが、それ以外はあまりミュートを意識しない。両手足でいかに様々な音楽を作るかへ意識が寄ってる気がする。音色の違いはスティックさばきで出しながらも、違う音を出す実験が主眼ではない。同じ楽器から、異なる音楽の引き出しが軸ではないか。
 起承転結に頼らず、瞬発力で音を組み立てていく。集中力を切らさずに。このテンション維持が灰野の特別なところ。手癖やパターン、スカムな味わいに頼らず、刺激的な音楽を作り続ける凄さだ。

 最終曲(9)は再び、スネアに戻る。冒頭とサンドイッチの形で、再びスネア・ソロでアルバムの構成を締めた。
 ピッチを下げ、鈍く沈む空気が漂う。やがて規則正しい4分音符。唐突にミュートされ、打音は断片へ。この潔い落差がスリリングだ。
 一瞬だけリムショットも混ぜ、音色の工夫にも余念ない。
 そして再び、タムの打音へ。ちょっと緩んだ音色。灰野は叩きながら実験のようにタムを見つめていそう。
 
 うーん、やはり聴く人を選ぶかな。灰野を初めて聴く人には薦めないが、彼の音楽へ馴染んだ後に本盤を聴くと、すごくスッキリ心に落ちるアルバムだと思う。

Track listing:
1. 警告、そして願い No. 1 5:07
2. 警告、そして願い No. 2 3:33
3. 警告、そして願い No. 3 8:38
4. 警告、そして願い No. 4 4:27
5. 警告、そして願い No. 5 2:38
6. 警告、そして願い No. 6 9:20
7. 警告、そして願い No. 7 6:29
8. 警告、そして願い No. 8 10:23
9. 警告、そして願い No. 9 3:13



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