灰野敬二 「Beginning And End, Interwoven」(1994)

 海外へ活動を広げた初期の作品で、ギターと歌の小品が詰まってて聴きやすい。
本盤から一曲だけ、動画を貼っておく。

 録音は93年にドイツはアーヘンのスタジオにて。ドイツのレーベルStreamlineから発売された。70年代より活躍にもかかわらず、ディスコグラフィ的には初期の作品に当たる。80年代半ばは療養で活動停止、そもそもPSFが発足までレコーディングは極端に少ない灰野がゆえに。
 
 演奏は(1)を除きエレキギターと歌。楽曲になってるが、作曲か即興かは不明だ。

 (1)は1分半の小品。タンブーラめいた中近東風ドローンにタンバリンのような楽器が乗り、軋んでひねられた灰野流の歌声が乗る。他の曲は一発録りなのに、なぜこの曲をあえて収録したのだろう?

 なお本盤収録の曲は、英語訳だが詩がここで読める。灰野が歌ってるのは、すべて日本語。
http://poisonpie.com/sounds/haino/text/hklyrics_baei.html
 エレキギターを軸に灰野が鋭く透徹にシャウトする。メロディは即興的で、独特の揺らぎと跳躍や小節線を感じさせぬ譜割の旋律だ。
 ごおっと濃密な風切り音はアンプのフィードバックか。エレキギターはエフェクターで歪み倒されてるが、敢えて背後で小さめにミックスした。
 
 この盤は音量でだいぶ印象が変わる。小さめの音だとボーカルがくっきり聴こえ、ギターは着実だが静かに歌へ彩を添えた。
 しかしボリュームを上げたとたん、エレキギターにツヤが出る。残響まで生々しく響き、弦をはじく滑らかで丸みあるアタックと、テープヒスかアンプの唸りっぽい細密で粒だつ小さなノイズが対照的に鳴った。フィードバックの軋みも、ときおりランダムに聴こえる。

 ギターのフレーズはしばしば、繰り返しが異様に整然と響く。メカニカルな風景だ。ディレイをかましてるのだろうか。切れ目なく違うフレーズに行くこともあり、生演奏に思えるけれど。

 もちろん歌声はくっきり。リバーブたっぷりに、言葉の余韻が最初は小さめで音楽に慣れ、ぐんっと大きい音で聴くことを推奨する。ビートから解き放たれた、尖って緊張をはらんだ灰野の空気感を、ほんとうに生々しく感じられた。
 むしろマスタリングがあっさりしすぎ。唐突なほどばっさりと余韻を潰して叩ききられる。侘び寂びとかそういうの・・・ドイツ人に期待するほうが変か。

 歌声は切なく、純粋だ。象徴的な言葉を平易に並べ、観念に浸らず直感的にハッと気持ちを掴む、灰野の特異な才能が味わえる。
 灰野の作品はともすれば長尺で、聴くほうもじっくり浸りたいときのほうが多い。けれどもその分、CDで聴くにはハードル高いこともある。その観点で本盤は非常に親しみやすい。
 
 一つの長いテイクをトラック分けではなく、別々の曲としてレコーディングされた。
 歌とギターが全く違う譜割なのが興味深い。例えば(6)。ミニマルかつインダストリアルな潰れたギターがやせ細りこすられる。
 しかし歌声は違うタイミング、アクセントでダイナミクス豊かに空気へ声が放たれる。その間、ギターのリズムは一定なまま。すごいリズム感だ。

 ディストーション一辺倒ではなく、(8)のようにブライトな音色も使う。テンポはどの曲も比較的、緩やかか。(9)みたいに涼やかなムードもあり。曲ごとに変化を色々試みてる。
 一転して(10)では濃密な充満っぷりを叩きつけるのも、灰野らしいメリハリだ。実際に曲順でレコーディングしたとは限らないけども。

 (11)は民族音楽的な響き。冒頭へループするように。ギターの三味線めいたストロークを軸に、新たなギターと歌をダビングした。最後に細いメロディのギターを数本。数層にギターが重なってる。

 いちばん長いテイクが(7)の14分。地を這い、さらいあげるギターは妙に薄っぺらく、柔軟にしぶとい。中域の太さより高音の泡立ちを優先したかのよう。時にカットアップのような素早い場面転換も味わえた。
 歌声は声割れするとこもあるが、構わずにOKテイクへ潔く決断してる。

 どの曲も和音感は独特、あえてきれいに納めず外し続ける。 
 もちろんギターと格闘するインプロな場面も収録あるけれど、剛腕長尺のギター・ソロを聴きたいなら、本盤は向かない。
 あくまでも灰野の歌が主役だ。ブルーズや日本のコブシとも違う、灰野のセンチメンタリズムが炸裂した一枚。
 彼の歌は理想をポジティブに見据えた。ニヒリズムやペシミズムに雪崩れない。決して耳ざわり良い旋律ではないのだが、歌う内容は真摯で力強い。

Track listing:
1. Caught 1:30
2. Beginning And End, Interwoven 5:10
3. Surrounded By You 4:02
4. My Friend 4:05
5. Secretly 3:41
6. The Active Voice Revealed 6:35
7. In Between 14:40
8. Different 8:06
9. Even One 6:25
10. As It Is Now 5:48
11. To Excess 3:33

Recorded in Aachen, June 1993. Tracks 2-10 were recorded without overdubbing.

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