Prince 「MPLSound」(2009)

 これまで本盤の何を聴いてたのかと情けなくなった。猛烈にすごいじゃないか。
 プロトゥールズを駆使?過去作のリメイク盤?ミネアポリス・サウンドをテーマにシンセでホーン代替、アレンジと多重録音へこだわった一枚。

 CDはアメリカの大手スーパーTarget から$11.95の破格値の3枚組"LOtUSFLOW3R"で発売に収録。"LOtUSFLOW3R"は立場の違う盤をまとめた、コンセプト・ボックスと捉えていた。けれども一般的には3枚別々の盤を抱き合わせ発売、と捉えられている。
 したがって"LOtUSFLOW3R"が33枚目、"MPLSound"が34枚目のソロが公式(?)の数え方。どっちにしろ凄いリリース量だ。てなわけでここでは、別盤として感想書いてみる。

 実際に今回、聴き返して「うわー。当時僕は何を聴いてたんだ」と新鮮に本盤を聴いてしまった。通勤中、ずっとイヤフォンで聴いてたせい。当時はスピーカーでしか聴いてなかった。
 そもそも本盤のイメージは凄く薄い。どの曲もタイトル見て、ぱっとメロディが浮かばない。つまりさほど当時も聴きこんでなかった。
 オリジナル・アルバムとしては"Planet Earth"(2007)ぶり。ちょっと間が空いたような感じだったかな。実際はその間に写真集とライブ盤"Indigo Nights"(2008)があり。もっともこれは企画盤なイメージだ、高いため未だに"Indigo Nights"本盤は聴けてない。

 プリンス逝去の今では本当に悔やまれるが、本盤発売当時のプリンスは、印象が薄かった。販売戦略とネットに凝るって象牙の塔へこもる孤高のアーティストってイメージ。
 当時に海外でのライブ情報はいまいち入らなかったような。

 Youtubeの立ち上がりが2006年。09年はまだ配信は立ち上がり過程ってあたりだったろうか。ネットは今ほど回線が太くなかったと思う。本盤の発売前に、プリンスはWebを立ち上げた。デモや楽曲配信もやってたが、とにかくWebが重かった記憶ある。
 このときに限らず、プリンスの立ち上げるサイトはどれもこれも重かった。当時最先端の容量や効果を施してたのかも。プリンスはネット経由じゃなく、スタンド・アローンで画面遷移をチェックしてたんじゃなかろうか。アメリカではもっとサクサク読めてたの?
 当時はWebへアクセスしても読み込み重くてしんどいし、何が変わってるかもよくわからない。何をプリンスはしたいんだ、とぼくは戸惑ってた。

 さて、本盤。聴いた感じは80~90年代のプリンス。実際の録音や作曲時期は分からないが、今回聴き直してて「蔵出し音源を再録音じゃないかな」って気がした。
 MPLSoundとはミネアポリス・サウンドだろう。地元のサウンド感覚、すなわち白人黒人をあまり感じさせず、サイケ・ロックとソウルの混交でシンセを駆使したファンクネス。そんなとこか。2枚組コンピ"PURPLE SNOW"(2013)で75-83年頃のプリンス周辺の音楽シーンが聴ける。
 これにミネアポリス・サウンドのイメージを、80年代の大活躍でプリンス自身が一人で作り上げたとこもあり。


 本作はノスタルジーではあるまい。仮に蔵出しだとしても、単なる没曲復刻でもないはず。"LOtUSFLOW3R"が強烈なトータル性を持つギター・アルバムのため、バランスを取るべく作品集として本盤を編んだのではないか。
 それともう一つ、今回クレジットを調べてて「Protools Engineer - Richard Furch」の記述にへえっと思った。そもそも本盤でプリンスは作編曲演奏に加え「Recorded By, Mixed By」と明確に自分一人で製作とクレジットした。録音やミックスまでプリンスを明記って、けっこう新鮮だった。

 もともと参加不参加に係わらず、イメージ戦略でクレジット記載をいじるプリンス。他にスタッフがいようと記述の割愛ができた。だがファーチをプロトゥールズのエンジニアで記載ってのが、プリンスからのメッセージじゃないかな、とここでは深読みしてみる。
 Wikiによるとプロトゥールズの歴史は87年までさかのぼる。本盤録音と思しき08年はPro Tools 8が発売の頃。録音歴史に詳しくなく、実際のスタジオ現場でどの程度にプロトゥールズが普及かは知らない。

 だが"Rave Un2 the Joy Fantastic"(1999)あたりからデジタル録音を猛烈に駆使したイメージのプリンスが、プロトゥールズを使って遊び倒したのが本盤、って話だったら面白いなと思った。
 実際にプリンスがデジタル録音に以降はいつだろう。"Emancipation" (1996)や"The Truth" (1998)あたりまでは、機材はともかく質感はアナログ的な味わいを追求に思える。

 本盤はサウンドすべてがプリンス。ホーンや弦も足さず、シンセで代用した。ミュージシャンは(2)のラップでQ-Tipが参加。この「完全に一人」ってコンセプトを徹底的に突き詰めず、どっか例外的な隙を作るのもプリンスらしい。厳格には詰めない。

 "MPLSound"はスピーカーで聴くと「過去のプリンス路線のポップなアルバムだな」って印象。でかい音で聴いても、ミックスが見事で楽器が溶け合い、ファットで生々しいサウンドに感じる。その点で、デジタルな硬さでなくアナログ寄りの甘い滲みを上手く仕上げた。
 本盤のミックスは良い。プリンスが演奏だけでなく、音作りの具体的なところまで習熟してたとよくわかる。マスタリングは誰の手腕かよくわからないが。

 そしてヘッドフォンで聴くと、細かい技が一杯。今回、それを改めて痛感した。
 
(1)は打ち込みビートが細かく重ねられ、低音の残響だけみたいなベースが動く。鍵盤も複数のラインが動き、分厚いダビングなのにスッキリ軽く聴ける。ピアノのグリサンドは同じフレーズをプロトゥールズで貼り付けではないか。
 コーラスは声質を下げ、メロディとハモリに掛け合いと山のようにダビングされ凝っている。
 ファンキーでシンプルなファンクながら、丁寧に録音された。ホーンっぽいフレーズもシンセで代用された。中盤からディストーション・ギターも足される。
 4分半ごろに出てくるリフは"If I was your girlfriend"をほうふつとさせる。プリンスが気づかないわけないから、意識的な挿入だろう。これは当時の新曲だとしても、まさに"Sign O' The Times"に収録されても馴染む楽曲。

 ぴたり吸い付くボーカル・ラインが印象的な(2)も"Sign O' The Times"に似合う。ピッチがちょっと高い声質は、まさにカミールを連想した。
 歯切れ良いビート感と粘るシンセが80年代的でかっこいい。ベースラインはループにも聴こえる。
 これも打ち込みビートだが、タンバリンなどは生演奏のダビングっぽい響きだ。
 Q-Tipのラップのあと、低音ハーモニーで補強しながら甲高い声でプリンスはラップ風にメロディを受け止めた。これもみっちり楽器がダビングされながら、目立つシンセのフレーズにリフを特化させてすっきりとミックスを仕上げた。

 (3)はさらに時代が戻り"1999"あたりが似合いそうなサウンド。ただし自己模倣やいかにもアウトテイクを使いましたって古びさは皆無。
 しゃくるような歌い方は、カミール風に回転数が上がった声。プロトゥールズ加工と思うが。
 1:50あたりの金属ボウル風の音色でリフを作ったり、2:30あたりのシンセ・ギターの爪弾きなど細かいアレンジの技はそこかしこにあり。スピーカーだとシンプルなファンクに聴こえてしまうが、ダビングは細かく作られた。

 甘いメロウなバラードの(4)は"One Nite Alone"(2001)収録曲のセルフ・カバー。最初のテイクではアコースティック・ピアノの弾き語り風を素地にシンセをスペイシーに足したロマンティックなアレンジだった。
 本盤はぐっとファンク風味を強調した。どちらも甲乙つけがたいアプローチ。
 太いシンセと野太いシンセ・ベース。さらにリズムはハイハットとシンバルのサンプリングを細密に配置し、キックとスネアは少なめでビート感を強調した。
 打ち込みの奥で、生ドラムも足してるように聴こえる。
 歯切れよくきゅっとしまったプリンスの歌声はキュートだ。オンマイクでねっとり息を近づけ、激しくシャウトしない。
 
 (5)は打ち込みでなく生演奏のドラムをサンプリングし、切り貼りっぽい。同じリズムを繰り返さず、細かく途中でおかずを足して変化をつける技が細かく丁寧だ。
 エレクトリック・ドラムの響きは80年代プリンスのトレードマークな音色も連想する。
 メイン・ボーカルはファルセットだが、分厚く地声のハーモニーをかぶせて主旋律の音域をあいまいにする。だからサビですっと地声にラインが映っても音程的な跳躍の唐突さが無い。さりげなく幅広い音域を使いこなすプリンスの十八番が効果的に広がった。
 大サビでの転調がカッコいいなあ。
 
 楽曲的には単調に聴こえてしまう(6)。何ともつかみづらい、鼻歌メロディを楽曲へ仕立てたような。ボーカルの声質がカミールほどではないが、高めに変えられている。
 シンセの音色がデジタルに硬質なせいかな。どうもそっけないイメージあり。
 ただアレンジに耳を澄ませると、本盤の他の曲と同様に手が込んでいる。鍵盤をループさせ、リズムは打ち込みと生演奏が交錯した。ベースも数本重なり、もちろんボーカルも主旋律を補強する分厚さを保ってる。アイディア一発で仕上げず、入り組んだ構造を施した。スピーカーだとこの凄さは分かりづらい。
 終盤では泣きのギターも現れる。
 
 (7)もバラード。リズムとピアノ弾き語りを基調のアレンジで、ボーカルはディレイし薄く背後に広がる。ストリングスをシンセで代用することで、独特のミネアポリス流な甘さを強調した。
 ハーモニーも這いよるように細かく分厚いダビング。主旋律とハーモニーがコール&レスポンスするが、ひょいひょいと役割分担が入れ替わり、主旋律の声がどれかあいまいにする幻想的な場面もある。
 サビの最後で"No"ってフレーズを唐突にディレイさせる技、直後にハーモニーをリバーブ強めたように広げるところ、アレンジの妙味が一杯だ。

 カミール風の(8)は、これまた"Sign O' The Times"のアウトテイクと言っても不思議でない。カッティング・ギターを左右に散らばせ、重たいエレクトロ・ビートで涼し気なファンクを決めた。
 これもドラムは後ろでキックやハイハットなどは、生演奏っぽいブレも少し感じた。シンセとリズムをほぼ一定にしながら、出し入れを施す。そして味付けはエレキギター。
 ヒップホップ色を強めつつ、全体的な音そのものを甲高く汚した。

 歌詞で歴代のドラマー名を読み込みながら、謎も漂わせる芸の細かさ。Prince Vaultで的確にまとめらてるが、この歌詞のドラマーでミント・コンディション、もしくはそのドラマーStokley Williamsとの録音セッションは世に出ていない。
 一方でレボリューションで付き合い長いBobby Z.やNPGのKirk Johnson、さらに当時NPGメンバーなCora Coleman-Dunhamという馴染み深いあたりが割愛という謎だ。
 プリンスの中では、なんらか理由があるのかも。

 さらにこの歌詞では"Diamond and Perls"収録"Money Don't Matter 2 Night"のように、終盤のラップで本盤収録曲のタイトルを織り込む。ところが最終曲の"No More Candy 4 U"らしきフレーズが無く、本盤未収録で未発表曲な"77 Beverly Park"と織り込む。曲順をいじる中で、こうなったと思うが。この辺も詰めが甘いというか、謎を残すプリンス流だ。

 そして最終曲(9)。これまた80年代初期のアウトテイクっぽい元気な曲。どちらかというと声を抑え気味な本盤だが、この曲だけシャウト寄りの歌声。今一つ声が汚れており、青臭さがうさん臭いイメージに塗られた。
 ベースのループと打ち込みビート、さらにシンセが元気良く鳴る。ギターのダビングなど凝っているが、和音感が異様にポップで明るく鮮やかだ。
 誰かの提供曲でなく、自分で歌うところが面白い。この曲を配置することで、ダンディでファンクな本盤のイメージが、いきなり世代若くなった風合いになった。

 ということで、とにかく本盤はアレンジがひときわ凝っている。なのにスピーカーではすっきりシンプル。ミックスのうまさが凄い。プリンスは録音だけでなく製作そのものの才能を、本盤で徹底的に開花させた。

Track listing:
1. (There'll Never B) Another Like Me 6:01
2. Chocolate Box 6:13
3. Dance 4 Me 4:58
4. U're Gonna C Me 4:36
5. Here 5:15
6. Valentina 3:59
7. Better With Time 4:45
8. Ol' Skool Company 7:30
9. No More Candy 4 U 4:14

Protools Engineer - Richard Furch
Producer, Arranged By, Composed By, Per4med, Recorded By, Mixed By - Prince
Vocals - Q-Tip (tracks: 2)

 当時LOtUSFLOW3Rからちょっと間をおいて、なぜかばら売りでP-Vineから本盤のみがリリースもされた。今は廃盤だが。
 

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