Mazzy Star 「Among My Swan」(1996)

 歪んだギターで汚しエコーであいまいに整えた、音楽風景が愛らしい。

 ぼくにとってのシューゲイザーはマイ・ブラディ・バレンタインでなく、このマジー・スター。当時、シューゲイザーって概念は知らなかった。クレイマーに興味を持ち、サイケでギターが唸る音楽を他にも聞きたくて、輸入盤屋でジャケ買いした一枚がこれ。
 良いな、と思った。歪んだギターが鳴り響き、憂鬱かつ沈んだ雰囲気が充満する。予備知識もない。当時はそんな簡単に情報が手に入らない。とりあえず、音を聴いていた。
 そのあとレコ屋を歩き回り、1stと2ndも手に入れたっけ。

 本盤は3rd、一応のラスト・アルバムになる。実際マジー・スターは"Seasons of Your Day" (2013)で再結成するが。ふくよかな雰囲気と、リバーブ効いた歌声。ポップなメロディだが跳ねずに下がっていくムード。どれもが新鮮だった。当時は流行りの音楽って全く聴かなかったしな。
 これを聴いたのは、たぶんリアルタイム。つまり97年頃。既に社会人になっており、これを聴いたからって捨て鉢な気持ちにはならなかったし、人生が変わるようなハマり方もしなかった。でもちょうど仕事がドタバタしてた時だったから、これ聴いて奇妙な癒され方はしたかもな。

 今聴くと、フォーキーな味わいもある。エレキギター一辺倒でシューゲイザーまっしぐらってわけでもない。気弱で臆病な世界観を、エコーとディストーションで身を守りながら純粋に表現しようとしたってとこか。
 ハーモニカやバイオリンのダビングが、時に瑞々しい空気を表現してる。

 シューゲイザーは20代までに聴くべき音楽と思う。40歳を遥か超えた今、聴き返しても甘酸っぱさが先に立つ。若いころに聴いてたから、当時の気分は思い出せるけれど。
 安全地帯を探して、社会とつながりを求めておずおずと指を伸ばす。傷つきたくないが、孤高にもなれない。そんな曖昧でもどかしい心象風景のイメージが、本盤を聴くと頭に浮かぶ。

 ここでの歌はまず自分に向けている。スタジアムで大勢の観客に向けてコブシを突き上げてはいない。第一に自らの美学を求め、残響に浮かび、気持ちよい音を探してる。
 今ならばネット・レーベルを筆頭に、レーベルに頼らず音楽活動は可能だ。けれど96年は無理。CDを残すなら、大なり小なり音楽ビジネスに係わる必要があった。
 にもかかわらず、アルバム3枚目に至りながら商売っ気をあまり出さずに、ここまでピュアな世界観を表現できる芯の強さが素晴らしい。

 作曲はすべてデヴィッド・ロバック。歌詞がほぼすべてホープ・サンドヴァル。バンドのサウンドだが、基本はこの二人の美学がしっとりと広がった。
 ゆるゆると長尺のギターソロも、ずっと聴いていたいな。

 と、いかにもこのバンドが人知れず隠された宝物みたいな書き方をしたけれど。
 実際にはWiki見て初めて知ったが、ビルボード68位を獲得し、21万枚を売るヒット盤なのか。しかも3枚中、これが一番売り上げ悪いという。どインディと思ってたが、知名度あるバンドだったんだな。

 本盤からは(2)と(8)/(9)がシングル・カット。(2)のカップリング"Tell Your Honey"と"Hair And Skin"はアルバム未収録曲だ。
 

 
 (2)のPVもあった。

Track listing;
1. Disappear  4:04
2. Flowers in December  4:57
3. Rhymes of an Hour  4:12
4. Cry, Cry  3:58
5. Take Everything  4:53
6. Still Cold  4:48
7. All Your Sisters  5:16
8. I've Been Let Down  3:17
9. Roseblood  4:51
10. Happy  3:58
11. Umbilical  4:59
12. Look on Down from the Bridge  4:47

Musicians
David Roback - guitars, keyboard, songwriter, producer, audio engineering, album design
Hope Sandoval - vocals, harmonica, percussion, songwriter, co-producer, album design
William Cooper - strings, audio engineering
Jill Emery - bass
Keith Mitchell - drums
William Reid - additional guitar on "Take Everything"
Aaron Sherer - drums on "Take Everything" and "Still Cold"

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