Hair Stylistics 「Monthly Hair Stylistics Vol.1 - Pop Bottakuri」(2008)

 まるで、日常のストレスとノイズを抽出と凝集。日々は流転するなかで、作品の個別定義や認識特定が果たして必要か。彼の作品には、そんな問いかけが含まれる気がしてならない。

 中原昌也の個人ユニット、Hair Stylisticsが日本のレーベルBoidより月刊を謳って全12枚のシリーズで1stとなる。
 日本のノイズシーンでは第三世代か第四世代になるはずの彼だが、フットワークは依然として軽い。暴力温泉芸者からHair Stylisticsに名義を変えたのが、ちょうど本盤を発表の頃合い。
 
 文筆業で名を上げつつ、著作やインタビューを読んで感じるのは嫌々やってる無気力感。溌剌さや積極エネルギーとは無縁だ。韜晦とは思うが、どこか世をはかなみダルいムードを漂わす。ただし破滅衝動は無い。ノイズ作品も破壊衝動より、スカムさや無意味さの混合に興味を持っているような。
 
 そう、僕は彼の全貌を知らない。本作も全12作で月間のボリュームを誇るが、全部は聴いてない。さらにBoidからは2ndシーズンのマンスリー作も残したようだ。
 そのうえ今は、ロス・アプソンなどを中心に自主製作のCD-Rをリリースし続けてる。近作"MIDNIGHT ARABESQUE"(2016)が162枚目。
 ノイズで多作家は他にもいるが、Hair Stylisticsの創作パワーは飛びぬけている。

 なのに中原は気怠い空気を崩さない。全貌を聴き手へ掴ませようとせず、アーカイビングにも無関心を装う。膨大なCD-Rシリーズのリリースからは「今を生きろ、過去を追いかけるな」ってメッセージが込められてるように思えてならない。
 それらの作品はほとんど聴いたことが無く、ジャケットからの連想だけども。

 中原はベテランの余裕を出さない。常に自然体、なおかつ無軌道で無造作なスタンスだ。彼はどこへ向かうのだろう。上昇志向や身を守る計算高さを漂わせず、ストレスフルな世界をひょうひょうと、ただしネガティブな空気を振りまきながら過ごしてる。

 本作も代表作とかいうつもりはない。いうほど、彼の音楽を聴けてないし。そもそも本盤にどこまでの計算やコンセプトがあるのだろう。アイディアの赴くままに音素材を作り、コラージュを重ねた感あり。

 タイトルは"ぼったくり"へのアンチテーゼを表出と思わせるが、収録曲名は70年代ロックのパロディというか、アナグラムみたいなもの。
 ボアダムズのポップタタリに引っ掛けた本盤タイトルであり、"恐山のストゥージス狂"(1994)に引っ掛けて、(4)でイギーの名前を出したとも深読みできる。
 
 けれどもサウンドは混沌でつかみどころ無い。息苦しくシンセとコラージュが漂い、ディレイとミキシングでサイケな世界を作った。
 ノイズの目線でも、剛腕ハーシュやアンビエントの抽象性とも異なる。開放的もしくは破壊衝動のカタルシスも得られぬ、遊び心一発で奔放に作った偶発的なノイズの集大成のよう。
 そう、Hair Stylisticsのコレクションでためらうのは、変な話「聴く価値があるか?」と常に自問自答する点だ。

 全くミニマルでリリースそのものが目的な盤ではない。他の盤もおそらく、違うノイズが入ってるんだろう。けれどもそれは分析も解釈も放棄させられ、ただただ中原の産むイマジネーションへ相対をもとめられる。
 本盤を最後まで聴いて、新しい知見が産まれることは無い。個々の楽曲分析や場面展開を詳述することに意味はない。

 ただ、本盤から得られるのは「イマジネーションを作品化した」って点。異物で奇矯な音像が存在し、そこから聴き手が何を受け止めるか、という問いかけ。
 意味あるものから解釈を得るのはたやすく、難解な概念へ理解を試みるのは崇高だ。

 だが無秩序から意味を求めることも、解釈も空しい。当然ながら正解は無く、妄想だからだ。
 けれども中原が本作に一切の意味を込めていない、とは否定できない。もしかしたら超絶に緻密で厳格なコンセプトと計算によって産まれたかもしれない。中原は無理解な聴き手に呆れてるのかもしれない。

 Hair Stylisticsの作品を、僕は日常的に聴いていない。だがごくごくまれに、聴きたくなる。意味とは何か、解釈とは何か、と問われる気分を味わうために。
 ノイズだが騒音でなく、あまり息苦しくない音楽。どろっと停滞した空気が漂う音楽。
 とはいえ他の盤では、全く違う音楽をやってるかもしれない。中原は全貌を掴ませない。いや、僕が人生かけて追いかけたら、彼の作品を片端から聴き込めるだろう。しかしそれに、何の意味があるだろう。人の人生を追体験するためだけの人生なんて。

 本項は本盤の感想たり得ていない。ちょっと数行変えれば、本項はそのまま別の中原作品に対しての感想でも成立する。ただ、改めて書いておきたかったんだ。どうやら今まで、ブログにこの文章を上げたことが無いようだし。
 
 また、たまにHair Stylisticsの盤を聴くことがあるだろう。その時にはまた、違う思いを書くために本稿を書いて、もうこの思いは忘れよう。次へ進むために。

 本盤はとことん奔放に作られてる。例えば(1)で4音から成り立つメロディがある。けっこうキャッチー、もしくは呪術的に頭へこびりつく。
 シンセで酩酊のように繰り返され、危うく旋律が漂う。それらも次の曲では捨て去られ、顧みられない。そして僕の頭の中からも消えてしまう。
 次々にアイディアが浮かんでは消え、こだわりは放棄されている。

 なおAmazonの宣伝文句によれば、本盤はカセットテープ録音に拘ったそう。メタルテープを長期保存による劣化が起こす、音飛びや揺れを楽曲に取り入れた。本盤での揺れの一部は、エフェクト操作じゃないのか。なるほどね。

Track listing:
1. The Band, And The Music 6:26
2. Music From The Band 6:31
3. Pop Battakuri 10:35
4. Iggy And The Flower Hat 9:09
5. Riot EL&P 2:37

 なお本盤は一応、Amazonのマケプレでは入手可能。なんと、配信もあり。彼のCD-Rシリーズはたぶんイニシャルだけで廃盤。入手困難だし中古市場にも出てこまい。買った人はそうそう手放さないだろうし。いつか彼の全貌が語られる日は来るのだろうか。
 

関連記事

コメント

非公開コメント