Prince 「Planet Earth」(2007)

 改めて今、聴き返すとプリンス流のゴスペルとも感じた。


 特段の宗教や宣教の目的ではなく、「地球」という超自然的な存在に救いを見出す賛歌としてのゴスペルって意味で。ずいぶんポップで、なおかつコンパクトなアルバムだ。
 プリンスがエホバの証人へ入信後、いわゆるスキャンダラスなイメージを自ら脱却した。"Lovesexy"時代のキリスト教信者とは別の、もっとまじめな存在に。ストイックになってたかは知らない。
 
 イメージ転換の萌芽は"Emancipation"(1996)あたりから見られるが、実際に信仰のピュアを匂わせるのは"The Rainbow Children"(2001)から。この時代は流通を模索で個々のアルバム発表と録音時期が不一致に見えるが。

 32枚目となる本作も、イギリスでは新聞の付録で配布された。また、当時のLondon21デイズで観客に配られもしたらしい。アメリカでは普通に流通。さまざまな販売経緯を模索の一枚だった。
 
 プリンスはいかに自分のイメージ払拭と新たな観客層の獲得、さらに中間業者を通さずにファンへ直接素早く届ける方法を模索していたのではないか。その分、どんなに売れようとも大企業の宣伝がない以上、印象は薄くなってしまう。新聞を手に取った人、ライブで受け取った人。つまり現場の非日常的なイベントと込みで本盤を入手した人には、ひときわ印象深いだろうけれど。

 ぼくは本盤、普通に輸入盤を買った。一曲目のタイトル曲が大仰で重たく、なんか取っつきにくかった。さらにシングルは(2)のみ。するっと味わって、それで終わってた感あり。もったいない話だ。
 これも最近、改めて聴き直して良さにぶっ飛んだ。

 特に印象深かったのは(8)。プロモオンリーのシングルも切られたらしい。プリンスの逝去後、YoutubeでPV見て大好きになった。知らなかった・・・。改めてこの曲が、僕の中でプリンスの00年代名曲のトップクラスに躍り出た。
 この曲でゴスペル風のボーカルを聴かせるのはShelby J.。本盤がきっかけでこのあとNPGに加わり、2014年まで帯同する。
 彼女のソロ・アルバム企画もあったらしい。当時はshelbyjohnson.comのドメインまであったそう。何も企画が進まず、頓挫したが。けっきょく発表作品はシングル"North Carolina"(2012)にとどまった。今は盤だけでなくMP3でも容易に聴ける。
 

 その他、本盤にはBria Valenteもほとんどの曲でコーラスに参加。彼女は"Lotusflow3r"(2009)の3枚組版の3枚目でリリース、"Elixer"でソロ作に至る。ブリアはこの盤の後、プリンスとの共演はないようだ。アルバム完成に至る道は、Shelby J.とどこで方向が食い違ったのだろう。

 本盤はプリンスの多重録音を基調に、数曲でNPGのリズム隊が加わる編成。ホーンやコーラスで他のミュージシャンを招いた。シーラ・Eが(8)で叩いてると言われる。
 懐かしいところではウェンディ&リサも参加という。曲は(4)と(10)、ウェンディは(7)でマンドリンも弾いた。過去、彼女たちが弾いたトラックを利用したって寂しいオチでないといいな。

 冒頭で妄想したように、本盤はプリンスの崇高で平和なイメージをポップな曲へ収めたアルバム。(1)の大仰さと(2)の鋭さ、(8)のグルーヴィさを除けば、なんとなく穏やかなムードが漂う。プリンスからの軽やかなプレゼント、そんなアルバムか。

 あとはなんだか、アナログ的な音の滲みを本盤から感じた。デジタルの分離良さと逆の、個々の音が溶け混ざってコンプかかった香り。アナログの温かい雰囲気狙いのような。

 様々な意味で(1)の壮大さが本盤のイメージを最初に作ってしまう。良い曲だと思い始めたが、堅苦しくてセンチメンタルさが昔は苦手だった。"Purple rain"のように泣かせの曲かと思ったんだ。テンポは比較的緩め。ピアノの硬質なイメージからじわじわと盛り上がる。ここでホーン隊の音色はシンセらしい。

 楽曲はドラマティックに展開していく。シャウト一辺倒でなくファルセットも使いこなす、レンジの広い歌声で奔放かつ自由にプリンスはボーカルを操る。この唯一無二なメロディ・ラインも凄いな、とつい最近気が付いた。
 たっぷり歪んで太く伸びる、プリンス印のギター・ソロも終盤で登場。やはり冒頭から重たく熱い。アルバム最後に置いてくれたら、もっとこの盤はとっつきやすくなった。その重厚で飽和した雰囲気こそ、本盤でプリンスが伝えたかったメッセージなのだろうけど。

 "ビートに抱かれて"みたいな音色のギターをイントロに、バンド・サウンドで盛り上がる(2)。シングルでもありキャッチー。とはいえ過去作と共通性がうっすら滲み、やっぱり当時は良さを感じつつものめりこめず。メロディだけは頭にこびりついてたな。


 本盤で猛烈に印象深かったのは、これと(6)だった。ここ最近、大好きな(8)は本盤に収録ってイメージが実はなかった。YoutubeでPV見て、どのアルバム収録だっけ?って探したもの。
 
 (2)に話を戻そう。リズム隊がNPGの二人だって話を横においても、本盤は生々しいライブを連想させる。ギターをかきむしり、歌うプリンスの絵面が容易にイメージできた。ボーカルの多重録音あったり、手は混んでるけれど。ギター・ソロが途中でフェイド・アウト、最後は薄くギターのみになって左右に飛ばす妙な終わり方。
 もっと熱く終わらせず、変に中途半端で曲を終わらせ、すっと熱狂を冷ました。
 この冒頭2曲は、リズム隊がMichael B.とSonny T. の前任NPG。少し前のベーシック・トラックなのかも。

 針音ノイズで古めかしさを出した(3)は甘いファルセット・バラード。
 これと(4)(8)(10)が、後任NPGのリズム隊なヨシュアとCCのダンハム兄弟が録音に参加した。
 ピアノの弾き語りっぽさを基調に、シンセを幾層にも足す。トランペット以外はシンセでストリングス音色もシンセで多重録音をプリンスは選んだ。終盤でボーカルにまとわりつくトランペットは線が細い。しなやかなムードで滑らかに楽曲を整えた。

 (4)は再びアップ。(2)とビートの質感が似ており、リズムの違いを楽しめる。楽曲はシンプルなロックで、分厚いコーラスで飾って盛り上げた。逆にプリンスの歌声は線が細いと実感する。音域を変えてダビングし、ギターや鍵盤のおかずで丁寧に飾ってるけれど。
 ゴスペル風に朗々さとは別のベクトル。それがこういう、連呼や喉の張りが似合う曲で、独特なプリンスの歌世界の特異性を強調した。
 ライブで映えそうな曲ながら、記録でたどれるのは1回だけ。キャパ約2万人の地元ミネアポリスのTarget Centerで、07年7月7日に行われた一夜限りのライブにセットリストが残るのみ。
 だがウェンディとデュオで、プリンスのギター弾き語りメドレーにて演奏と、よくわからない記録になってる。

 話はそれるがこの日は本盤発売の一週間前。リリースパーティでもなさそうだが、一日3公演をプリンスは披露した。
 まずMacy's 8th Floor Auditorium - Nicollet Mallで16時から45分のショー。もちろんバンド編成、キャパは1400人らしい。
 そして20時半から22時まで前述のTarget Centerで2万人を前に130分のライブ。
 さらにアフターショーで夜中に70分の演奏。プリンスのライブは2時半過ぎ頃まで、さらに50分ほどバンドだけの演奏をプリンスは行わせたらしい。
 場所は地元の名門ライブハウス、First Avenue。キャパは1600人で、チケット代は前作に引っ掛け $31,21だったって記録がPrince Vaultに残ってる。

 話を戻して本盤の(5)。スローでグルーヴィな曲。打ち込みビートの硬質さに、ギターや鍵盤の温かさが加わり、いい感じのムードを作ってる。コーラス隊も加え、もちろんプリンスの多重ボーカルも。ファルセット主体で極上な歌世界を作った。
 絡みつく複数の歌声ラインがよじられ、しとやかなムードを作って美しい。ささやき声気味のスリルが、サビの緩やかに跳ねるフレーズで美しく盛り上がった。

 (6)もスロー。"ドロシー・パーカーのバラッド"に通じる、語り掛けるようなファンクネスが気に入って、好きな曲だった。ハーモニーがポップなため気づきにくいが、プリンスはこの曲でほぼすべてラップで通した。
 ラップそのものはリズミカルだが、プリンスの場合は常に拍頭を叩くような律義さを感じさせるのが面白いところ。

 一転してメロディアスにしゃくりあげる(7)。2分半の短い曲だが、すごくポップだ。"The Morning Papers"(1992)を当時、連想した。甘く跳ねてハイトーンがきれいに響く、プリンス節が全開。
 リズムはプリンス流の杭打ちドラムながら、軽いタム回しのビート感がキュートに鳴った。これもアナログ風に音を上手く溶けさせ、多重録音で分厚いはずなのにコンパクトに仕上げてる。

 そして(8)。今この瞬間は、本盤で最大の名曲と思ってる。歯切れ良いタッチは当時、"Kiss"に通じるファンクネスを感じてた。
 ここではダンハム兄弟のリズムと、Shelby J. に代表されるゴスペル風の歌声、さらに分厚いホーン隊。ジェイムズ・ブラウン直系のグルーヴを提示した。
 もちろん楽曲だけでも良さは分かると思うが、まずPVを見て欲しい。ファッションショーにもぐりこんだ舞台、モノクロとカラーで楽屋とショーを使い分けた歯切れ良いカットワーク、どこまでもかっこいい。

 冒頭だけを最初に見たとき、プリンスの追悼でだれかが作ったマッド・ビデオ化と思った。だがプリンスはマイクもって観客に扮して歌ってる。それこそ、プリンスはダンスもしない。ほとんど座り続け、最後にステージへ歩いていく。
 この目まぐるしい場面展開。ファッショナブルで洗練され、プリンスのクールさが際立つ。すごいPVだ。

 このあとは、再び敬虔な世界へ潜る。(9)はいくぶんテンポを下げた。プリンスのドラムによる切なく畳みかける風景だ。2番からロックに風景が変わる二段階のさりげないアレンジ。
 そのまま右肩上がりでムードは高まっていく。ハーモニーが太く盛り上がり、プリンスの歌声が宙に上がっていく。楽器はどんどん太く鳴った。最初は目立たなかったギターが、ぐいぐい存在感を増した。具体的にはディストーション効かせてワイルドに響く。
 このドラマティックな展開が、この曲の魅力だ。質感を大きく変えず、ミックスと楽器選択の工夫で4分間の音絵巻を鮮やかに描いた。
 もちろん最後はギター・ソロを炸裂させてくれる。この揺れて消えるタッチは(2)にも通底した。
 
 最後の(10)は明るいギターのカッティングが印象的なアップ。爽やかなものだ。華やかにメロディが空へ飛んでいく。
 なおこの曲、中盤でコーラスがウネウネと動く。"Around the world in a day"に通じるサイケな風景も連想、と敢えて書く。

 これが1曲目にぴったり、とは言わない。でも(1)が冒頭で(10)が最後って。逆にムードが違わない?壮大さで盛り上げて、軽やかに締める。
 逆三角形みたいな安定感だ。不安定、とは敢えて言わない。何回も聴くまで、このアンバランスに気づかなかった。一番最後は、シンセの白玉が優美に動いて中途半端にふわっと浮かせて終わらせるしね。

 そう、本稿を書いててなぜぼくが、本盤をしまい込んだかに気が付いた。過去の楽曲を連想させたからだ。今聴き返すと異なったアプローチ、洗練されたアレンジと気づくけれど。
 いずれにせよ本盤は、冒頭での荘厳なメッセージ性と強烈に雄大な平和さでイメージづけた。全般的にはコンパクトな作品が詰まった、こじんまりしたアルバムだ。

 ¥3900円と現在は妙なプレミアが今はついてるが、入手性は大丈夫みたい。楽譜集も出てたんだ。プリンス監修じゃなさそうだが。
 
Track listing:
1. Planet Earth  5:51
2. Guitar  3:45
3. Somewhere Here on Earth  5:45
4. The One U Wanna C  4:29
5. Future Baby Mama  4:47
6. Mr. Goodnight  4:26
7. All the Midnights in the World  2:21
8. Chelsea Rodgers (featuring Shelby J) 5:41
9. Lion of Judah  4:10
10. Resolution  3:40

Personnel:
Prince - all vocals and instruments

Michael B. - drums on (1)(2)
Sonny T. - bass on (1)(2)
Joshua Dunham - bass on (3)(4)(8)(10)
C.C. Dunham - drums on (3)(4)(8)(10)
Renato Neto - keyboards on (3)

Wendy Melvoin - acoustic guitar on (4)(10),mandolin on (7)
Lisa Coleman - additional keyboards on (4)(10)
Mr. Hayes - drum programming and keyboards on (6)
Sheila E. - percussion on (8)

Shelby J. - background vocals on (1)(4)(5)(6)(9) and (10),co-lead vocals on (8)
Marva King - vocals on (1)(4)(5)(8)(9) and (10)
Bria Valente - vocals on (1)(4)(5)(6)(8)(9) and (10)
The Twinz - background vocals on (1)(4)(5)(8)(9) and (10)

Christian Scott - trumpet on (3)
Mike Phillips - horns on (8)
Maceo Parker - horns on (8)
Greg Boyer - horns on (8)
Lee Hogans - horns on (8)

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