Momus 「Pubic Intellectual: An Anthology, 1986-2016」(2016)

 ベスト盤というより、生きざまの集大成だった。

 モーマスはニコラス・キュリーの個人ユニット。86年にデビューし、ナイーブでひねくれたブリティッシュ・ポップスとして、90年頃は何枚か初期作を聴いていた。今は大阪在住らしいが、詳しい経歴や今の活動はよくわからない。公式Webも何だか見づらいし。

 カヒミ・カリィの活動に関係してたとか、ポイズン・ガールフレンドってバンドが日本にあったとか。渋谷系をちょっとヒネッた位置づけにモーマスがいたような、いなかったような。
 "ヒポポタモーマス"のジャケットがミシュランにツッコミくらって、変更を余儀なくされたって話題もあったな。志村けんにインスパイアされた"Corkscrew King"(2008)も発表してた。

 
 あまりまじめに活動を追いかけてなかったが、コンスタントに作品はリリース。いつの間にやら膨大な作品群になっている。
 今回取り上げたこの盤は、今年にチェリーレッドからリリースの3枚組コンピ。初期活動からまんべんなく楽曲を取り上げた。収録アルバムと曲目リストは後述します。

 まとめて本盤を聴いてて思ったのは、モーマスのブレなさと強靭な才能。チープなエレクトロ・トラックでビート性は希薄だ。さらに今回、近作になるほど実感したのが奇妙なコード進行。
 詳しい人にアナライズして欲しい。感覚としては、転調を繰り返し続け、いつまでたっても解決しない印象だ。瞬間を切り取ると変ではないのだが、進み方や流れは凄くヘンテコだ。
 やたら長い大河から無造作に中間部分を切り取ったかのよう。

 さらに今回、Discogsで大まかなクレジットを追ってたが、アルバムごとにテーマ性があるっぽい。ほとんど多重録音だが、同じ環境同じスタッフで新曲を垂れ流すのでなく、一年にほぼ一枚、律儀にその時の生活風景を切り取ってるように見える。

 ウィスパー気味に猛烈なオンマイクでささやく歌声は、どうにも病んでいる。歌詞は追ってないが、なんか独特そう。欧州デカダニズムとディストピア感、日本風味を強引に混ぜるエキゾティックなサウンドは、不健康で線の細いニューウェーブのなれのはて。
 けなしてるようだが、褒めてる。ものすごく惹かれる。

 変わらぬ世界観はここ30年間、個性的な和音や進行の異物っぷりのまま貫かれた。

 いわゆるシングルヒットとは無縁な活動のため、本3枚組はベスト盤とは言い難い。個々のアルバムを追っておらず、モーマスを概観できるかなと買ったのだが、まさにぴったり。
 時代ごとで、微妙にサウンドのアプローチが違う。たぶんアルバムを聴き進めたら、さらに楽しめるだろう。30枚ほどあるが。

 ミュージシャンの生きざまとして、どんな人生の流れで楽曲を作ったか。それが最近の興味。瞬間を切り取らず、流れで聴きたい。
 そんな嗜好に、本盤はぴったりだった。変節せず媚びず、美学を貫いたモーマスの確固たる音楽人生が、本盤で味わえる。
 最後の1曲以外は、ほぼ編年体で曲が並べられた。恐ろしく共通性がある。進歩や成熟をほとんど感じさせず、逆に老いも無い。最初っから爛れてる。

 それこそ30枚ものアルバムを片端から聴くのは難しい。本盤も3枚組とボリュームはある。けれどもCD一枚で語り切れない、溢れんばかりの才能を味わうのに本盤は最適だ。
 遡ってオリジナル・アルバムを聴きたくなる点においても、正しくベスト盤の役割を果たしてる。

 モーマスはメロディ・メイカーとか演奏テクニックで語りづらい。それよりも独創的な発想やアレンジに優れてる。正気のアウトサイダー・ミュージックとでもいおうか。
 多数派から零れ落ちる個性を、シンプルなアレンジで見事に表現した。もっとこの盤、じっくり聴こう。

<収録アルバム>
1-1 ~2  :1986:Circus Maximus
1-3 ~5  :1987:The Poison Boyfriend
1-6 ~9  :1988:Tender Pervert
1-10~12 :1989:Don't Stop The Night
1-13    :1990:Monsters Of Love - Singles 1985-90

1-14~15 :1991:Hippopotamomus
1-16~2-3:1992:Voyager
2-4 ~7  :1993:Timelord
2-8     :1992:The Ultraconformist
2-9 ~11  :1995:The Philosophy Of Momus
2-12~13 :1996:20 Vodka Jellies
2-14~15 :1997:Ping Pong
2-16~17 :1998:The Little Red Songbook
3-1 ~2   :1999:Stars Forever

3-3 ~4 :2001:Folktronic
3-5 ~7 :2003:Oskar Tennis Champion
3-8   :2005:Otto Spooky
3-9 ~10 :2006:Ocky Milk
3-23   :2008:Joemus
3-11   :2008:Widow Twanky
3-12   :2010:Hypnoprism
3-13   :2012:Thunderclown
3-14~15:2012:Bibliotek
3-16~17:2013:Bambi
3-18~19:2015:Turpsycore
3-20~22:2015:Glyptothek

Track listing:
1-1 "Lucky Like St. Sebastian"
1-2 "Paper Wraps Rock"
1-3 "Murderers, the Hope of Women"
1-4 "Flame Into Being"
1-5 "Closer to You"
1-6 "A Complete History of Sexual Jealousy (Parts 17-24)"
1-7 "The Homosexual"
1-8 "Bishonen"
1-9 "I Was a Maoist Intellectual"
1-10 "How Do You Find My Sister?"
1-11 "The Hairstyle of the Devil"
1-12 "Shaftesbury Avenue"
1-13 "Morality Is Vanity"
1-14 "Bluestocking"
1-15 "Ventriloquists and Dolls"
1-16 "Summer Holiday 1999"
2-1 "Cibachrome Blue"
2-2 "Voyager"
2-3 "Spacewalk"
2-4 "Platinum"
2-5 "Enlightenment"
2-6 "Rhetoric"
2-7 "Last Of The Window Cleaners"
2-8 "The Cheque's In The Post"
2-9 "The Cabinet Of Kuniyoshi Kaneko"
2-10 "Microworlds"
2-11 "The Sadness Of Things"
2-12 "London 1888"
2-13 "The End Of History"
2-14 "I Want You, But I Don't Need You"
2-15 "The Age Of Information"
2-16 "Born To Be Adored"
2-17 "Old Friend, New Flame"
3-1 "Tinnitus"
3-2 "Stefano Zarelli"
3-3 "Going For A Walk With A Line"
3-4 "Pygmalism"
3-5 "Scottish Lips"
3-6 "Beowulf (I Am Deformed)"
3-7 "The Laird Of Inversnecky"
3-8 "Life Of The Fields"
3-9 "Frilly Military"
3-10 "Nervous Heartbeat"
3-11 "Widow Twanky"
3-12 "Hypnoprism"
3-13 "Love Wakes The Devil"
3-14 "Erase"
3-15 "Bibliotek"
3-16 "Bambi"
3-17 "The Ephebophobe"
3-18 "System Of Usher"
3-19 "The Hiker"
3-20 "The Manticore"
3-21 "The Art Creep"
3-22 "Masks Of Bebko"
3-23 "The Vaudevillian"


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