John Coltrane 「Africa/Brass」(1961)

 アフリカという潜在的なルーツと、ビッグバンド・ジャズの混合を狙ったアルバム。コルトレーンの歴史では異質な一枚っぽい。

 ある一人のジャズメンをデビュー作から追いかけるって楽しみ方がある。だんだん進化していく、もしくは円熟してくさまを楽しむって寸法だ。別にジャズじゃ無くたってこういう楽しみ方はできる。けれどもジャズは意外にリーダー作をいっぱい出すパターンがあるし、なによりツマミ聴きをし過ぎてた。わかった気になりがちな音楽を、改めて時間軸って観点で聴くことが、異なる価値観や良さを感じて興味深い。

 このブログでは試しにロリンズでやってみた。途中で時系列にはならなくなったし、サイドメンで参加した盤で聴いてないのもある。ブートで聴いてないのもある。漏れ放題。それでも、面白い。今までサキコロほか数枚しか聴いてなかったのに、まとめて聴いたらロリンズの豪放さとメロディアスっぷりをまざまざと実感した。

 他にやってみよう、と思い物色したが。悩ましいのは「時系列」へこだわりすぎると、聴きたい盤まで到達するのが義務になって面白くないって弊害がある。
 例えば今回取り上げる、コルトレーン。聴いてない盤が一杯ある。けれども、デビュー作から追っかけると、ほんとに聴きたい盤にたどり着くのがかなり先になりそう。
 てなわけで冒頭の前置きは何だったんだって感じだが、ランダムに聴き重ねることにした。

 本盤はコルトレーンの歴史だと、インパルス!へ移籍第一弾となる。録音順でいうと代表作と言われる、ソプラノ・サックスを操った"My Favorite Things"や、シーツ・オブ・サウンドのまとめって印象な「夜は千の目を持つ」"Coltrane's Sound"の次だ。
 これらのアルバムを60年10月21日、24日、26日と立て続けに録音した。"Coltrane Plays The Blues"も同じタイミングだ。

 そのあと録音ではマイルスの"Someday My Prince Will Come"に翌年3月に参加、本盤は同年5月とちょっと間を開けて録音に臨んだ。ツアーに出てたか、ギグを重ねてたかは不明。少なくとも同年4月のマイルスLAライブにはコルトレーンがいない。
 ともあれ音楽アプローチを大きく変え、コンボ編成から解き放たれた大作な本盤を作り上げた。

 スイング・ジャズのフォーマルさと、向かい合うルーツとしてアフリカを設定し、まとめて落し前をつける心構えか。フリーへ行く前に、いったんは豪華な音世界を試してみたかったか。
 単にレーベル移籍で予算があり、派手な音楽を作ってみたかったか。どんな理由だろう。少なくともこの大編成は、恒久的に維持が金銭的にかなり困難だ。たっぷり楽しんで録音したのではないか。

 本盤の音源は2回、セッションされた。まず5/23、次いで6/7。いったん試して約二週間後に仕切り直しって格好だろう。
 初回の二日後、5/25には"Ore!"を本盤のリズム・セクションで吹き込んでる。何とも濃密な毎日だ。

 録音メンバーは後述したが、微妙に両日で違う。
 いやに金管が多いのが特徴で、ホルンが4~5人にユーホ、ベースがいるのにチューバまで配置の編成がトリッキーだ。トロンボーンがいる日は半々。ペットも少ない。最初は当時のコルトレーン・バンド仲間のフレディ・ハバードと、ゲストでBooker Littleの二人だった。ところが後半ではフレディが外れ1人のトランペットになっている。
 ブラス・バンドの編成へ詳しくはないが、中域を厚くする割に高音と低域が中途半端なイメージある。

 サックスを目立たせるためか。にしても、バリサクにエリック・ドルフィーの吹くアルトを配置と、サックス側も音域はほぼフルレンジ。
 テナーやソプラノ・サックス奏者を目立たせるにしては、これまたサックスも厚みあって埋もれそう。コルトレーンの我を張るより、全体的なアンサンブル志向が強そうだ。
 とはいえソロ回しでビッグバンド・スタイルでもないが。

 アレンジのコンセプトはコルトレーンのアイディアか、アレンジャー側の好みか、どういうセンスだろう。じっくり録音の様子が知りたい。
 Wikiによると最初はギル・エバンスにアレンジを頼みたかったらしい。マイルスの二番煎じって気もしてきた。アルバムをじっくり聴くと、恐ろしくブラスの必然性が薄い。場面によってはコンボ編成に聴こえる。
 
 ここでのブラスはエキゾティックな空間を作る装置でしかないような。イントロで派手に咆哮するのは暗闇と湿地に満ちたジャングルと獣の表現か。アンサンブルの芯はオスティナートなピアノ、そして鋭く刻むドラム。ベースはうねりながらグルーヴする。
 そう、あくまでコンボ編成が軸でホーン隊は色付けにとどまった印象だ。少なくとも、本盤では。

 本セッションは両日、指揮とオーケストレーションにドルフィー、アレンジャーでマッコイ・タイナーがクレジットされた。二日目にコルトレーン自身もアレンジャーで明記あり。
 いわゆるアカデミックなアレンジかはわからない。とはいえ変に凝ったり奇妙でもない。整いながら、不思議なパワーある。そんな音像だ。おどろおどろしい響きはむしろ飄然たる太い風となって流れた。

 アレンジャーにマッコイが記載も頷ける。あくまでもピアノが主だもの。
 ドルフィーのホーン・アレンジや指揮ってクレジットへ強烈に惹かれるが、特に派手な技があるわけじゃ無い。せいぜい音の入りを指示したくらい。
 なおドラムはエルビン・ジョーンズを継続して起用した。ベースはReggie Workman。のちに"Ballads"でも参加はするが、ジミー・ギャリスンがコルトレーンのバンドに加わる前の、ワンポイントな付き合いとなった。
 ちなみに前年のセッションでベースのSteve Davisは、本盤へ参加せず。この当時に付き合いは終わったか。

 ブラスとアンサンブルの対決では(1)が最も聴きごたえあり。(1)と(3)が二日目の録音のようだ。
 (2)は初日の録音。入り具合は不穏なスリルあるけれど、ソプラノ・サックスが現れテーマをわずかに崩す程度で即興に入ると、途端にホーン隊がBGMになってしまう。
 どんどんフェイドアウトして、ピアノのアドリブが続くあたりではコンボ編成と変わらない響きだし。

 ちなみにコルトレーンのサックスはここだと力が入りすぎ。思い溢れる様子でサックスを軋ませ、時にノイジーな響きも取り入れる。けれどそれは音色の多彩な表現でなく、たまたまコントロールを逸して鳴らしたようにも聴こえてしまう。
 むしろ本盤はドラムであり、ピアノが冴えている。
 コンセプトへ熱中し、視野狭窄なほどのめりこむコルトレーンに対し、冷静に音楽と向かい合いコントロールする。その一方で、熱気を失わぬ緊張感を残した。

 (3)の疾走が演奏としてはイキが良い。中盤では大勢のホーン隊が消え去り、企画倒れでいつものアンサンブルにとどまってしまっているが。
 せめてここで、どんどんとフリーキーなホーン隊が茶々を入れ続けるトリッキーなアレンジをしてほしかったのに。ドルフィーはコンボを生かし、いたずらにちょっかいは出してない。

 二日間のセッションで録音は全8曲。まず3曲が当時にリリースされた。それが、本盤。
 のちに"The Africa/Brass Sessions, Volume 2"(1974)で別テイク含む3曲が蔵出しされ、さらに編集盤"Trane's Modes"(1979)で2曲が世に出た。
 この再発CDでは、すべての音源がまとめて聴ける。

 逆にまとめてリイシューされたためか、"Africa/Brass"はオリジナル盤として再発CDが色々あるが、"The Africa/Brass 2"や"Trane's Modes"はカタログに残ってないようだ。ぱっと検索したが、Amazonで出てこない。

Track listing:
1. Africa 16:26
2. Greensleeves 9:57
3. Blues Minor 7:20

 
Personnel:
May 23, 1961
Freddie Hubbard, Booker Little (trumpet) Jimmy Buffington, Donald Corrado, Bob Northern, Robert Swisshelm, Julius Watkins (French horn) Charles Greenlee, Julian Priester (euphonium) Bill Barber (tuba) Garvin Bushell (piccolo, reeds) John Coltrane (soprano, tenor sax) Eric Dolphy (alto sax, flute, bass clarinet) Pat Patrick (baritone sax) McCoy Tyner (piano) Reggie Workman (bass) Elvin Jones (drums) McCoy Tyner (arranger) Eric Dolphy (orchestrator, conductor)

June 7, 1961
Booker Little (trumpet) Britt Woodman (trombone) Donald Corrado, Bob Northern, Robert Swisshelm, Julius Watkins (French horn) Carl Bowman (euphonium) Bill Barber (tuba) Eric Dolphy (alto sax, flute, bass clarinet) John Coltrane (tenor sax) Pat Patrick (baritone sax) McCoy Tyner (piano) Reggie Workman (bass) Art Davis (bass -2) Elvin Jones (drums) John Coltrane, McCoy Tyner (arranger) Eric Dolphy (orchestrator, conductor)


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