TZ 8344:John Zorn "The Mockingbird"(2016)

 Gnostic Trioの6thで、譜面要素を強めた感あり。

 グノシック・トリオはギター、ハープ、ビブラフォンによるジョン・ゾーンが人選した疑似バンドの一つ。本盤でも指揮でゾーンのクレジットがあり、演奏中にハンドキューでソロパートのきっかけや長さを合図してる。
 音を出さず、即興的にアンサンブルを構築するアプローチ。つまりゾーンが第一の聴衆であり、制御人であるわけだ。

 本作はテーマ部分がかなり長い印象あり。もともとグノシック・トリオは端正なムードを崩さないため、ほとんどの部分が譜面に聴こえるけれど。本盤はさらに構築度が高い。
 アドリブが主眼でなく、ご褒美のよう。変拍子も含む整った譜面をきちんとこなし、さあソロではじけなさい、と。奏者の即興的なフレーズを聴かせるためのきっかけにテーマがあるのでなく、テーマを組み立てたあと余技のようにアドリブへ向かう。

 全てを譜面にせずアドリブを入れるところが、ゾーンのバランス感覚かもしれない。逆に全てが譜面ならば、このメンバーを呼ぶ必然性もない。クラシック畑で譜面を美麗に解釈する奏者はいくらでもいるだろう。即興も行けるからこそ、のメンバー選定のはず。

 全8曲、5分前後にまとめられ、やたらな長尺にはいかない。
 TZADIKの宣伝文によれば(1)はハーパー・リーの小説「アラバマ物語」(1961)に触発され作曲したそう。「米国公民権運動」に密接な関連を持ち、アメリカの高校では教材に用いられてるそうだ。相変わらずゾーンは、いろんなところからアイディアを産み、音楽へ仕立ててる。
 "Mockingbird"そのものも、「アラバマ物語」の原題"To Kill a Mockingbird"に通じるタイトルと読むことも可能だ。ちなみに(4)は玄関ポーチに置かれたブランコ式の椅子のことだそう。いかにもアメリカの広々した一軒家の前に置かれていそう。

  

 そうキーワードを並べるたら本盤の楽曲群は黒人差別が明確にあった時代に、アメリカ南部での牧歌的な生活と、内包する緊張に視点を当てたと言え・・・わからないや。
 あまり決めつけたくない。オカルティックなギリシャ神話の神秘性を描いたと言われても納得する、繊細で整ったメロディが本盤は詰まってる。

 ただしフリゼールはきっちりとピッキングして、メロディをくっきり描いた。エフェクターを駆使したふうわりした音色ではない。もちろん独特のサスティン効かせた優美さも持つギターだが。
 
 テーマのメロディは細かいフレーズがつながり流れていく。変拍子を多用した印象。
 サウンドは全般的に、ぴりっと張りつめた雰囲気を持つ。ふんわりと甘く柔らかく行ける編成だが、いたずらに軽さに流れない。前半は一発録音っぽいが、後半楽曲ではリフをループもしくは先に録り、アドリブをダビングしたようにも聴こえる。

 音楽のみ、妙なコンセプチュアルさはない。たぶん、何らかのテーマ性はゾーンの中に存在した上での、本盤とは思うが。
 ゾーンの意思を推測しつつ、一方で本盤の涼やかなスリルを無造作にも楽しみたい。むしろ先入観を除くため、コンセプトへあまり意識を飛ばさないほうがいいかも。そして本盤をしゃぶりつくしたあと、おもむろにコンセプトを知ってアルバムを楽しみ直したい。

 なぜなら本盤の透徹なミニマルさと、おもむろに現れるアドリブのスリルが格別だからだ。

Track listing:
1. Scout 4:14
2. Riverrun 4:37
3. Child's Play 5:07
4. Porch Swing 4:55
5. Innocence 7:14
6. Pegasus 4:18
7. A Mystery 7:04
8. The Mockingbird 5:46

Personnel:
Carol Emanuel: Harp
Bill Frisell: Guitar
Kenny Wollesen: Vibraphone, Chimes

 このグノシックトリオとは全く関係ないのだが、フリゼールとウールセンのデュオ・ライブの動画があった。興味深いのでせっかくだから貼っておく。

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