The Time 「The Time」(1981)

 プリンスの初な本格プロデュースで混沌も感じさせる一枚。B級ファンクを追求した。

 A面とB面、間違えたんじゃないの?A面1曲目が異様にやっつけ仕事っぽい。本盤発売は"Dirty Mind"(1980)の後、"Controversy"(1981)の数ヶ月前にリリースされた。
 つまりプリンスが飛ぶ鳥を落とす勢いの、ぐっと前。文字通り、初めてプリンスがプロデュースしたアルバムが本盤となる。

 クレジットはともかく、実際の演奏や作曲もほぼすべてがプリンスと言われる。地元バンドへチャンスを与えたのが、本盤発売のきっかけらしい。名ボーカリストのアレクサンダー・オニールが加わるはずがギャラで揉め、代役でモーリス・デイがキャスティングされた。この時点でバンド自体が、急造だった。それがプリンスをして、すべて自分でこなすもう一つの理由づけだったのかも。
 いやもちろん、実際は「自分の曲をもっとリリースしたい」って創作欲がなすワザと思うが。

 (1)は8小節くらいの群唱フレーズが淡々と繰り返されたあと、インストが延々と続く構造。フロア対応でLP流しっぱなしを想定か。だがB面1曲目のほうが良い曲と思う。
 そもそもこの楽曲はタイム初のLPで看板を想定の曲なはず。シンプルなドラムはむしろ野暮ったく、ベースのファンキーさでリズムを補強した。
 インストの場面では鍵盤からエレキギターへソロが回される。それがもろに、プリンス印。タイムのアルバムじゃないのか?
 エレキギターのソロは途中でパンしたりと、録りっぱなしでなくミックスに工夫した様子も伺える。けれどもここには、タイムの魅力が無い。プリンスの色だ。
 ライブでこの曲をやったところで、本曲みたいな色をタイムは出せたのか?

 逆に、当時のプリンスが弾きまくった場面を楽しめるという、屈折した聴き方も今はできる。
 なお鍵盤も妙に奏者の違いを強調してて面白い。最初ほうの鍵盤はアルペジオを危うく弾くようで、少したどたどしい。ところがギター・ソロ後の鍵盤は、堂々たる指使い。ベンドを使い倒し、朗々とフュージョンっぽく奏でた。テクニック強調ではないが、ホーンをシンセで置き換え風のフレージング。

 (2)はソウルフルなスロー。それこそアレキサンダー・オニールを想定みたいに、歌声しだいでいかにも映える曲。Bメロあたりからどんどん喉が潰れた歌い方になる。これはプリンスの強靭な声帯なら映える。だがこれを完コピした本盤では、妙な安っぽさが先に立つ。これはモーリス・デイの歌?なんだか野暮ったい。
 シンセ中心でピアノが華やかにリズムをノリよく決めたこの曲、楽曲が進むにつれてどんどん盛り上がる。良い曲だと思う。それだけに、これはプリンスがすべてのボーカルを収めたバージョンも聴いてみたい。
 終盤のファルセットはプリンスと思う。ゴスペル風に声が足されていき猛烈に炸裂し、最後は静かに締めた。

 (3)もキャッチーなエレクトロ・ファンク。いかにも"Dirty Mind"のアウトテイクっぽい、シンプルなリズムにえげつなく畳みかけるシンセが楽しい。
 だが何故か、この曲は歌が下手くそ。ピッチがずれて、うわずった。
 妙に明るく甘酸っぱいムードの楽曲だから、下手な歌でみずみずしさを演出?まさかねえ。
 Prince Vaultによると、この曲のみプリンスでなく当時のプリンス・バンドでギター弾いてたDez Dickersonの作品という。
 
 本盤の傑作が(4)。これをA面1曲目にすればいいのに。本曲もデズとプリンスの共作らしい。本盤はアレンジからしてプリンス印が充満した。鍵盤やリズムだけでなく、なによりコーラス。ファルセットで"Cool♪"と跳ねるとことか。
 特に1:24から出る「C-O-O-'nd L-♪」は完璧だ。このフレージング、そしてその後の和音展開。これは斬新で、今でも鮮烈に響く。このあたりの歌声は、プリンスの多重録音。
 本盤のハーモニーはタイムへ任せてもいるが、肝心かなめのところはプリンスががっちり抑えてる。とにかくタイミングとピッチが吸い付くように当たってるのが素晴らしい。
 この曲の終盤で、女性ハーモニーによる「C-O-O-'nd L-♪」が出るけれど、そっちはばらついてしまう。それはそれで味だが、いかにプリンスが声すらも明瞭かつ完璧にコントロールしてたかがわかる。

 10分越えの長尺な楽曲だが、全く弛緩しない。本音を言うとエディットして3分半くらいにまとめたら、べらぼうな名曲で歴史に残ったと思う。最初にこの曲を聴いたときは、長いなあと思った。けれど繰り返し聴いてるうちに、強力さにやられた。
 それこそ(1)と雲泥の差。(1)はアドリブ・ソロを前面に出すアプローチだが、(4)はJB流を素直になぞり、シンプルなフレーズで押しまくるファンクネスを、とことん追求してる。

 (6)はプリンスのストック曲で79年の作品らしい。これもメロウなソウル。ささやき声が似合うメロディ・ラインだがモーリスはそこまで技をつかえてない。でもデモテープの節回しをカバーするかのように、粘っこい歌い方とビブラートを多用して頑張った。

 平たく透明に光るプリンスのハーモニーもきれいだ。ファルセットでオブリも入れてくる。
 アレンジはさほど凝らず、4リズムを基調。ベースやエレキギター、ピアノがそれぞれ爪弾くようにフレーズを重ね合わせ、奥行きある伴奏を提示した。ジャジーで気持ちいい。クリーンで甘く、しかし歌声はひねり倒し。そんな構成が楽しい。これもまた、プリンス印が全開だな。タイムのアルバムだって忘れてそうなクオリティ。
 変な話、ボーカル以外は隙が無いと言いたくなってしまう。
 
 アルバム最後の(6)も8分の長尺。ミドル・テンポのファンクでリズム・ボックスに生のドラムとベースを加え、メカニカルさと生演奏のダイナミズムを足したプリンス流のアプローチが楽しめる。ハーモニーでは「ゥオウオウゥ」ってカウンターのフレーズも、プリンスの声が残った。

 この曲は(4)と同じく"Controversy"のアプローチっぽい。本盤でも洗練を感じさせる曲だ。ヘッドフォンで聴くと、パーカッションやベースが短いフィルを飛ばしあい、立体的なイメージもあり。
 楽曲的にはシンプル。歌と演奏のバランスが今一つ冗長で、編集ですっきりまとめることもできたと思う。
 
 全般的に言えることだが、どうにも隙があるアルバムだ。B級、もしくは自分の格下な色を残した上で、プリンスが自分の色を出したかったのか。
 当時のディスコなりの流行は知らないが、フロアでかけっぱなしを想定としても、なんだかタルい。

 でも、否定的には聴きたくない。むしろ面白いと思う。
 (4)を筆頭にプリンスの色はどっぷり香ってる。再評価をしたいアルバム。確かにプリンスが他界したからこそ、こんな感想に変わってることは否めないが。
 スピーカーに向かって真剣に聴くなら、ちょっと冗長だ。けれどBGM,もしくは移動中に聴いてると、ふとした瞬間に鮮やかなアイディアの閃きを感じられるはず。

Track listing:
1. Get It Up (9:05)
2. Girl (5:34)
3. After Hi School (4:20)
4. Cool (10:06)
5. Oh, Baby (4:57)
6. The Stick (8:23)

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