Sheila E. 「In The Glamorous Life」(1984)

 シーラ E.の1stをプリンスが、ラテンへ敬意を匂わせて全面バックアップした。

 "Purple Rain"の製作終盤から"Around The World In A Day"セッションの初期にかけ録音された。作曲も演奏も、ほぼプリンスの手によるらしい。
 ただ、聴いてるとパーカッションのあれこれはシーラ・Eじゃないかな。このころのプリンスは簡素なシンセと打ち込みビートを軸にしたファンクから抜け出し、分厚くダビングしながらヌケのいいサウンドを作り上げた。ヘッドフォンで聴くと、細かい音色を丁寧に重ねるアレンジと感じた。本盤でもあれこれのパーカッションが聴ける。

 さらに本盤で聴けるパーカッション。プリンスのドラムはいわゆるしなやかなビートとは違う。むしろ武骨で杭を打つように刻むパターンが主流。ここから10年くらいたつと、どんどんドラムが柔らかく鳴っていくのだが。
 ギターのカッティングで聴ける絶妙のリズム感と裏腹に、当時のプリンスのドラムは8分音符で考えられており、16分や32分のニュアンスは希薄。
 けれども本盤はもうひとり、ラテン・パーカッションを滑らかに叩きのめす人がいる。これが、シーラ・Eの演奏ではないか。

 アルバムの出来は、タイムと同様で妙にそっけない。収録数は少なく、それぞれも短い。トータル33分で片面3曲づつ。別に廉価盤狙いじゃあるまいし。
 しかも後のCDでは、ボートラでタイトル曲のクラブ・ミックスが加わるため、合計15分も"The Glamorous Life"が続く困った構成になっている。
 タイムは安手なファンク狙いか、無用に演奏部分が長い冗長さもあった。本盤は冗長に感じさせる一方で、分数はむちゃくちゃ長いわけでもない。

 このやっつけ具合が、当時膨大な未発表曲を重ねたプリンスの創作力と合致せず、しっくりこない。当時の本盤は、いやいやビジネスとしてお茶を濁す立場でなく、プリンスがむしろ積極的に自分で作っていたはず。しかも見知らぬ中ではない、シーラ・Eのデビュー盤だ。もっと可愛がってもいいだろうに。
 プリンスのプロデュースは、どうもそっけない。

 シングルはここから3枚切られた。(6),(4),(1)がA面。それぞれのB面は(6)のエディット、(3),"Too Sexy"。シングル発表で収録曲をしゃぶりつくすタイムとは、ちょっと違う。
 "Too Sexy"は未発表曲だがプリンスの関与が無いらしく、委細は不明。Youtubeで聴ける。

 
 アルバム・タイトル曲のPVはこちら。日本ではこの曲、石川秀美"もっと接近しましょ"が同時期にリリースされ、僕みたいなリアルタイムせいだと非常に印象深い曲だ。作曲は黒住憲五、編曲は入江純。
 
 あからさまなマッシュアップまで、今はYoutubeにあった・・・。とはいえこれは、シーラ・Eにもプリンスにも、なんも関係ない話だ。

 
 本盤の楽曲はメロウさを軸にしたダンサブルなもの。ただしプリンスの得意とする粘っこくクールなグルーヴでなく、ラテン的な風味を感じる。これはシーラ・Eあての色合いを積極的に意識したものと思う。
 この点では、本盤にプリンスの愛情と敬意がある。決して自分ではやらないパーカッションのアプローチ。シーラ・Eの見せ場とは別次元で、リズムをエキゾティックに飾ってる。

 (1)は"Purple Rain"時代の深い残響を切ったスネアを響かせ、さらにベルなどパーカッションがダビングされてる。シンセが幾層に重なり、打ち込みベースにエレキ・ベースも足された。きらびやかなアレンジがカッコいい。
 元はアポロニア6用に作ったが、シーラ・Eへ提供先が変わったという。ポップなメロディが印象的で華やかな曲。特にサビでのセクシーな歌声が曲へ美しい彩を増している。

 (2)はプリンス流のファンクながら、シェイカーやウッドブロックを足すとこが独特。ぼくがここで書いてるラテン風味っていうのは、こういうところ。
 最初はトラックを一通り聴いたあとにシーラ・Eがダビングかとも推測したが、この辺のリズム感は武骨なのでプリンスが演奏かも。
 逆にティンバレスはスピーディさから、シーラ・Eではと思う。

 インストで、ボコーダー変調のプリンスのハーモニーを味付けに、ブラス風味のシンセを主なトラックへエレキギターのソロがたっぷり乗った。このへんはプリンスの我が強く出ており、シーラ・Eの必然性が低い。しかも曲が進むにつれ、違う音色のエレキギターやベースが前に出てくる。かっこいいがプリンス印、だよなあ。
 
 (3)はバラード。逆にここはシーラ・Eの手柄が目立つ。プリンス風の粘っこいメロディを、自らの世界に引き込んでお水っぽく歌い上げた。彼女の歌は、こういうところで個性が際立っててうまいと思う。
 ウッド・ブロックが素朴に鳴る。カスタネットかな。プリンスっぽいリズム感で、もしかしたらフレーズをテープ・ループかも。それくらい延々とリズムがブレない。
 ちなみにPrince Vaultではこの曲のみ「シーラ・Eの自作曲」と記載あり。そうなのか。メロディ・ラインなんてプリンスっぽいと思うのに。ともあれこれは、キュートな曲。波打つシンセやリズムの感じは、"1999"に近い。

 (4)も"Purple Rain"時期らしいエレクトロ・ドラムの音色。ブラスをシンセで代用し、エレキギターのカッティングがスマートに刻む。妙にピッチが揺らいで気持ち悪く聴こえるのはなんでだろう。これも元はアポロニア6向けだったらしい。
 ピアノや鍵盤を使い分け、弦まで入れてリズムも細かく足されて込み入った譜割になっている。
 うわずるシーラ・Eの歌声はコーラス隊をえんえん繰り返してるようだが、ダビングを重ねプリンス独特の浮遊感を上手く構築した。

 ある意味異色なのが続く(5)。ここまでラテン寄りの弾むファンキーさを前面に出してきたのに、唐突な拍頭をべったりと譜面がなぞる、讃美歌風のメロディが出てきた。せめてゴスペル風に弾ませないのは、シーラ・E向けだからか。
 バイオリンやアコーディオンにゲスト奏者を招き、荘厳に決めた。
 歌詞で最後に出てくる"The Lipstick Off Your Collar"ってフレーズは、コニー・フランシス58年のヒット曲"Lipstick On Your Collar"を連想してしまう。現地だと、どんなふうにこのフレーズは聴こえるんだろう。決まり文句か。

 この曲は1:57からの大サビが完璧だ。むせび泣くようなボーカル・ラインを、しゃくりあげるシーラ・Eの多重ハーモニーがバッチリ受け止めた。
 ある意味のっぺりとリズム感無く進むこの楽曲だが、大サビが出た瞬間にすべてを情感たっぷりに吹き飛ばす。平歌の平板な感じが苦手なのだが、サビ構成を考えると素晴らしい楽曲だ。

 最後、タイトル曲の(6)。サックスはエリック・リーズでなく、Larry Williams。跳ね飛ぶティンバレス、バックビートをぐいぐい決めるノリ、薄く低音を補強するプリンスのハーモニー。
 鍵盤で厚みだしつつ、サックスが華やかに鳴って盛り上げる。キャッチーな、キャッチーに過ぎるメロディだ。
 アレンジもヘッドフォンで聴くと、細かく楽器が足されてる。でもこの曲、やはりシンプルなドラム・ビートをティンバレスやカウベルっぽい音で飾り立てるリズム構造の楽しさが肝だ。
 ここでのシーラ・Eは歌声を上品にまとめてる。多重ボーカルで鮮やかさを演出した。このへんのボーカル・アレンジもプリンスの手腕か。見事。

Track listing:
1. The Belle Of St. Mark (5:08)
2. Shortberry Strawcake (4:44)
3. Noon Rendezvous (3:50)
4. Oliver's House (6:20)
5. Next Time Wipe The Lipstick Off Your Collar(3:50)
6. The Glamorous Life (8:58)
7. The Glamorous Life (Club Edit) (6:33)

Personnel:
Sheila E. - vocals, percussion
Prince - all instruments, except where noted (uncredited)
Jill Jones - background vocals on 1,4 (as J.J.)
David Coleman - cello on 4,6,7
Novi Novog - violin on 5
Nick DeCaro - accordion on 5
Larry Williams - saxophone on The 6,7

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