Steve Beresford, David Toop, John Zorn, Tonie Marshall 「Deadly Weapons」(1986)

 架空の映画サントラなコンセプト。当時は前衛なアプローチだった、のだろう。もう30年前、売り出し中のゾーンが参加した。今、特にジョン・ゾーン目線で聴くと、現在のラウンジ路線の萌芽ともとれる。

 ゾーンはこのとき、本格的な活動を始めたばかり。本盤の時期に録音したのが"Cobra"だ。ファイルカードやゲーム音楽の方法論で、即興をいかに面白く制御するかを実験してたころ。
 この盤は一過性のプロジェクトと思われる。ゾーンはおそらく主導権を持っておらず、「ノイズマシン」もしくは異物付与役として参加した。キイキイとサックスを軋ませ、高速で吹き鳴らすゾーン。初期のパブリック・イメージにて。
 ゾーンは猛烈なテクニックを持っていながら、非音楽な異物の立ち位置を取ることで前衛をもとめてたように思えてならない。

 価値観の破壊と解体に価値を見出すかのように。だがゾーンが根本的には"構築"主義だった。制御と合体や収斂を意識的に行っていた。
 
 本盤はとっ散らかったサウンドがばらまかれるが、決して聴きづらくはない。むしろコラージュと、普通の楽曲が入り乱れた。映画音楽とは音楽が裏方へ回り、一貫性よりも映画の完成に準じて奔放さも当然となる。
 その混沌と断片の集積を良しとするコンセプトこそ、本盤の音楽スタイルに似合うと判断しアルバム化したのかもしれない。

 そしてここで、ゾーンは修飾物でしかない。主役たり得ない。一番目立ってもノイズでしかなく、きれいに吹いてもアンサンブルの一員である。根本で主役もしくはリーダー役を見事に務めるゾーンは、本盤で強烈な物足りなさを感じたのではなかろうか。
 後年に量産した映画音楽や、ラウンジ的な疑似バンドの膨大なコンセプトの発端に、本盤が位置してるのでは。そんな妄想が、本盤を聴いてたら浮かんできた。

 存在感ある音を出しながら、匿名性を持つ。本盤にはそんな世界観が一杯だ。リーダーも主役も見出しにくい。淡々と曲が流れていき、妙な不穏さを持つ空気感が通底してアルバムの一貫性を作った。
 したがってゾーン目線では、本盤が今一つ退屈だ。派手にサックスが鳴る冒頭では「ああ、吹いてるな」と思う。作曲クレジットある楽曲では「あ、積極関与したんだ」と思う。
 だが、それだけ。ゾーンの個性や色は驚くほど見当たらない。素材として埋め込まれた。

 フラットにミュージシャンの名前を並べており、だれが主導権かわかりづらいが・・・スティーブ・べレスフォードが仕切り役だろうか。彼はデレク・ベイリーのカンパニーに参加の前衛音楽家で、1977~86はインプロのバンドAlterationsを稼働させていた。
 デヴィッド・トゥープはそのアルタネイションズのメンバー。べレスフォードよりちょっと年上で、ラウンジ・リザーズのメンバーでもあり、ロンドン芸術大学を構成するカレッジの一つLCCで教授も務めていた。
 トニー・マーシャルは女優であり映画監督。71年に銀幕デビューし本盤発売時にはかなりの作品に出演、僕は門外漢だが知名度あったのではないか。そんな世代から数歳下、売り出し中のジョン・ゾーンが組み合わさったのが本ユニットとなる。

 収録曲はトゥープの単独曲が4曲、べレスフォードが1曲。あとは共作名義で即興的に作ったと思われる。
 1923年のシャンソン(2)、63年のBilly Stewartの曲(8)がカバーされた。ただしひねったアレンジ。(2)は足音のSEとわずかなシンセの白玉を背後に流し、アカペラで呟くように歌われた。歌も急速に音量が下がりBGMのよう。あくまで素材的、まさにサントラっぽいアプローチだ。

 (8)のほうもシンフォニックなシンセの白玉に、メカニカルなビートのリズム・ボックスとテクノ寄りのアレンジを採用した。メロディはアンビエント風味で乗っかり、オリジナルの旋律を断片で繰り返すのみ。確かにカバー曲だが、あくまで素材として解釈された。

 オリジナル曲も見てみよう。
 (1)はサックスのムーディなジャズから女性の語り、混沌なフリージャズからインダストリアル・テクノなど場面が刻々と変わる。まさにべレスフォードの曲だが、まさにゾーンのファイルカードに通じるシャープな転換だ。楽曲はべレスフォードのテープ・コラージュとトゥープと手分けし多重録音ではないか。
 この曲が8分越えと最も長く、あとは数分の短い作品が並ぶ。
 
 (3)や(4)は4人の共作名義だが、いわゆるセッションとは違う。コラージュっぽいクールな雰囲気が漂う。(4)のほうが生演奏寄りかな。クラリネットを吹いてるのはゾーンだろうか。

 (5)からのトゥープ作品は、まさに作曲。(5)はリズム・ボックスのビートにサックスやギターの断片がかぶさる。即興やアドリブの妙味は無く、楽曲として完成した。
 (6)もリズム・ボックスを軸に尺八みたいな音がかぶる電子音楽的な小品。(7)もビートはそのままに前曲のムードをなぞった。トニーの語りがあるためか、彼女と共作名義になってる。

 (9)は(8)からそのままつながる、電子音楽。リズムとひよひよ言う電子音だけで構築されたSEみたいな作品。
 (10)はゾーンとトゥープの共作でちょっとは期待するが、あくまでゾーンは奏者としてのみ。基調はトゥープ側の構築されたシンセ音楽だ。
 後年のゾーンがジャズの生演奏を次々と映画音楽へ投入したのも、このときのアンチテーゼではないかと勘繰りたくなるくらい、ゾーンの役割は少ない。
 ここで鍵盤弾いて現代音楽風の作曲がゾーンなのかもしれないな。

 最終曲の(10)もサックスの軋みを中心に置いた電子音楽。ゾーンを前面に立てた。フランスの作家ナターシャ・ミッシェルの短編集から朗読が入ってる。風切り音が鞭のよう。今一つ盛り上がらず。映画音楽で楽しみなエンド・クレジットに流れる楽曲が見当たらない。この曲が、それかも知らんが。

 ということで、ゾーンの演奏では期待外れ。疑似映画音楽作品のコンセプトから見たら、意外と面白い電子音楽風の作品が聴ける。

Track listing:
1. Shockproof  (Beresford) 8:13
2. Du Gris    (Benech, Dumont)  3:17
3. King Cobra  (SB, DT, TM, JZ)  4:46
4. Tallulah    (SB, DT, TM, JZ)  3:20
5. Dumb Boxer  (Toop) 2:15
6. Lady Whirlwind (Toop) 0:47
7. Shadow Boxer   (Toop, Marshall)  3:03
8. Sitting in the Park (B. Stewart)  1:42
9. Snow Blood     (Toop) 2:27
10. Chen Pe'i Pe'i   (Zorn, Toop)  3:08
11. Jayne Mansfield [Inclu un extrait des "Impostures et Separations" de Natacha Michel]   (Beresford, Toop) 5:02

Personnel;
Steve Beresford: keyboards, tapes, trumpet, guitar, percussions
David Toop: guitar, pedal steel guitar, flutes, percussions
John Zorn: alto, keyboards
Tonie Marshall: vocals.


関連記事

コメント

非公開コメント