地下音楽への招待

 音楽を聴くってなんだ。色々あり今はライブに行けぬ状況のため、録音された音楽のみを今は聴いている。


 「地下音楽への招待」剛田武:著(2015/ロフトブックス)を非常に興味深く読んだ。伝説の吉祥寺マイナーを中心に70年代後半から80年代前半で演奏された音楽についての回想本だ。
 非常にトリッキーな構成と展開を見せ、終盤で山崎春美が語り初めると、急に世界が混沌へ向かう。ドキュメンタリーでありながら、幻想小説みたいな読み方をした。
 
 そもそも吉祥寺マイナーは非常に観客が少なかったという。それを追体験した本は、現場を目撃した人が限られる以上、真実か否かは判断できない。する必要もない。実際に音楽へ触れるのは、現場体験と録音物はクッキリ違う。

 本書の不満は灰野敬二が非常に重要な位置を占めながら、本人のインタビューなどが皆無なところ。アプローチしたのか、それで拒否されたかは知らない。だが饒舌に語る山崎と非常に対照的だ。
 いわば本書は回想であり現在とは分断した立場で書かれている。あの人は今、でも当時を踏まえて現在はこうなっている、でもない。当時にこんなことがあった、の視点だ。
 年譜や語り口調で現在との結合を図ってはいるが、根本的に当時の時代感と今を切り離した。
 だからこそ現在も現役で活動する灰野が関与しなかったのは、なんとなく納得できる。まだ自分は過去じゃない、振り返る暇はない、との価値観で。

 ちなみに吉祥寺マイナーのオーナーでピナコテカの設立者、佐藤隆史もインタビューでは本書に登場しない。明確に拒否されたそうだ。残念、そのせいで本書はドキュメンタリーとしては外から見た一面的の要素が強まり、個人史な視点寄りだ。本としては面白ければ、別にどっちでもいい。本書以外、同種テーマで書かれるチャンスがないわけでもあるまいし。

 だが本著者のブログ"A Challenge To Fate"で、氏の云う「アングラ」と両立で頻出するアイドル音楽との結合も、本書では無い。これが無念。
http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01
 テーマ性が異なる、ではない。少なくとも自分史に置いて興味ある音楽と、本書で語られる音楽との一貫性はあったほうが、深みが出たと思う。アイドル音楽とは非常に音楽で語られづらい。歌手そのものが存在価値の一義的な立ち位置なためだ。
 その音楽を著者がどう受け止め、一方で灰野らをどうとらえているか。あとがきなりで読めるかと思ってただけに、読了して残念だった。
 でも単に、この著者はビジネスとしてアイドル音楽に過去は関与してたのかもしれないな。
 
 ちなみに過去音源を収めたCDつき。非常に興味深いが、まだ聴いてない。単に、追い付いてないだけだが。
 清水一登が一曲で参加しててびっくり。77年の演奏とある。この当時から、音楽活動を始めてたのか。

 本書には、ジャズメンの話題がとても少ない。パンク前のパフォーマンスとでも無理やりカテゴライズするようなジャンルのミュージシャンが主役だ。灰野の名前が頻出され、あとは園田佐登志、竹田賢一、白石民夫、工藤冬里らの名前が並ぶ。鳥井賀句はパンクの音楽評論家って思い込んでたので、本書で語られるのが意外だった。

 プログレ雑誌と思ってた「マーキー」が本書の文脈に絡むことや、フールズ・メイトがあんがいこの分野に近しかったことも新鮮な驚きだった。ぼくのイメージは知識として北村昌士の時代は知ってるが、YBO2は次のバンドブーム世代かと思ってた。なおフールズメイトってポジパンのイメージだ。
 明大前にあった"Modern Music"が話題に出る割に、G-Modernについては語られずが残念。
 
 ぼくは70年代後半から80年代前半の空気感が、とても嫌いだった。山崎は本書で当時の空気感、共通認識について強調する。ぼくは当時、小学生から中学生だから当然、大人たちの空気感は知らない。けれども当時の同調圧力、観念的な70年代を振り捨てるような軽佻浮薄を良しとする"ノリ"の萌芽が、心底嫌いだった。
 だから山崎のインタビューを読んで、時代感の共感を押し付けるスタンスに、どうしても馴染めない。これ読んでて、若者世代は70年代の共同幻想な空気を引きずってたんだな、とは思ったが。

 だが好悪と事実は別。当時の空気感を知ることは別。吉祥寺マイナーがどんな風景だったか、知りたかったので本書はとても面白く読んだ。いろんな要素がつながり合い、頭の整理にもなった。

 で、冒頭に戻る。ぼくは今、ライブヘ行かず録音物だけで音楽を聴いている。本書の価値観は「ライブに来い」だ。現場に触れて、あわよくばシーンを買い支えろ、の発想も透ける。
 その価値観は尊いし、真実とも思う。一過性の、聴くとともに宙へ消えてしまう音楽に触れるのは重要なことだ。あわよくば誰かが記録してないと、それらの情報は全く後につながらない。
 
 一方で今、ぼくは繰り返し聴くことを前提の音楽ばかり聴いている。その感想はここで毎日自動投稿がセットされてる。こうしてる一方で、現場では事件が起きてるんだよなあ。
 でも今、自分は音楽を聴いているつもりだ。音楽を聴くって、なんだ。

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