Mayte 「Child Of The Sun」(1995)

 やはりプリンスはミューズに忠実だ。愛妻をテーマの女性ボーカル作品集なおもむきもあり。

 マイテと結婚したプリンスが彼女を称えるかのように発表した一枚。もっとパーソナルにしっとりと彼女と二人三脚で作品作りをする道もあったが、プリンスは王道路線、ポップ志向を選択した。アメリカではワーナーに発売拒否され、欧州のみの流通。
 実際のところ売れ行きはいまいちだったか、マイテ名義のアルバムは本盤で終わってしまった。竹内まりやと山下達郎のように、交互に違うコンセプトで出し続けるって道もあったと思うのだが。

 なお中身は他の女性へ提供した楽曲も、平然と収録して近年の作品集っぽい要素もうっすら。あえてマイテをトップに置く意味で過去も収斂させた選曲なのか、それとも単にアルバムの完成度、すなわちミューズへの忠誠を優先させたか。ぼくは後者、すなわちマイテとの蜜月より楽曲の出来を優先させたように感じる。

 全12曲、作曲時期は79年までさかのぼれるようだ。すなわちマイテへ似合った楽曲集かもしれないが、マイテに対して書いた曲だけではない。多作でならすプリンスだ、せめてすべて書き下ろしにしたら・・・と。不可能じゃないと思う。
 マイテの歌は特筆するほど上手さはない。それなりにこなしてるが、やはりプリンスの粘っこさが無く、どの曲もあっさりと聴き流してしまう。だからこそ、彼女に合った曲を書くとかさ。
 久しぶりに聴き返したが、どうにも五目味。あまりいい意味ではなく。悪いアルバム、とは言わないよ。念のため。とにかく個々の楽曲で見ていこう。
 
 (1)は力押しのエレクトロ・ファンク。"Diamonds And Pearls"(1991)冒頭曲あたりの剛腕さで幕開けした。いきなり派手なキャッチーさ狙いと思うが、いかんせんマイテの歌声は細い。
 ただしサビの"Childen Of The Sun"って歌い上げるエキゾティックなフレージングとコブシ回しは大好きだ。あまり本盤で自分流に歌えてないと思うが、この箇所だけは強烈な個性がある。
 楽曲は大サビでのしなやかな広がりから、旋律ナシの語りに落ちてパッと盛り上がる。歌唱力の無さが惜しい。素敵な展開なのに。
 93年頃、マイテに向けて書き下ろしと思われる。

 (2)も同時期。書き下ろしかな。打ち込みビートの滑らかな雰囲気が美しい。冒頭からのねっとりしたメロディにゾクッと来る。なお(1)も(2)もプロデュースや鍵盤、ドラム打ち込みにKirk Johnsonのクレジットあり。
 だからさ、愛妻へのアルバムなんだから、取り巻きに任せず自分で全部やってあげるとかさ・・・。プリンスの発想が、いまいちわからない。なんらかの完成度は狙ってるはずなのだが。だって変な話、誰一人本盤の製作は望んでいない。下手したらマイテ自身も。
 いや、もしかしたらマイテが「私のソロが欲しい」ってねだり、仕方なくプリンスがありものでお茶を濁したの?楽曲は良いからね、だって。

 (3)が倉庫から蔵出し。79年、The Rebels名義のバックバンド組んだ時代の録音が残ってるらしい。"Dirty Mind"の頃だ。日の目を見たのはミシャ・パリスへ91年に曲提供にて。手違いで12"にプリンスの自演バージョンも発売されたという。これかな?
 ミシャのバージョンも並べておく。こっちはPVあり。早回しでテンポとキーを上げてるみたい。
 

 正直、ミシャのバージョンはメロディがきれいに映えてない。空虚な響きだ。だからマイテのバージョンで、きっちり聴けるのは嬉しい。
 ただしプロデュースや楽曲プログラミングはRicky Petersonで、ドラムはStatik、ギターはBilly Franzeとプリンスの色をクレジットしない。実際、録音に絡んでないのかも。なぜだ。

 (4)も89年までさかのぼれる。当時のタイトルは"Listen 2 The Rhythm"。その後"The Gold Experience"(1995)用にマイテのボーカルで録音したがボツって、本盤で公式発表に至った。
 マイテのために書いた楽曲と言えなくもないが、やっぱり蔵出しかな。
 シンプルなリズムとざわざわっとしたコーラスが特徴なファンク。スペイン語でラテン風味を華やかに付け加えた。エンディング間際のホーン隊ブレイクが、さらなる盛り上がりを予感させる。でも、あっという間にコーダで強引に終わらせた。

 (5)も94年の曲。元はジェベッタ・スティールのために録音され、音源流出もあり。これもマイテでリメイクの格好だ。ミドルテンポでうっすらとゴスペル風味で進む。

 歌唱力あるジェベッタはシンプルなリズムでも歌で説得力持たせられるが、マイテにはちと荷が重い。ハードなギターを前面に出し硬質ビートで固め、硬めな歌声をいい感じで着地させた。これはプリンスのアレンジ・センスの勝利。その分、そっけない楽曲になったかも。

 (6)はコモドアーズのカバーで5th"Commodores"(1977)からのシングル。
 マイテの選曲かと思いきや、02年以降もライブでプリンスは幾度もこの曲を取り上げた。したがってプリンスの趣味?単にマイテと袂を分かった後も楽曲が気にいったってこと?
 アレンジはNPGのノリとホーン隊を駆使したシンプルでキャッチーなファンクに仕上げた。
 実際、マイテのボーカルよりも終盤のプリンスが声加工したグルーヴ大会のほうが印象に残る。マイテはオマケか。
 コモドアーズのバージョンは、どうせなら動画を貼っておこう。見たことなかったし。

 "She's mighty-mighty"って歌詞が、「彼女はマイテ、マイテ」ってソラミミするから選曲してたり、して。同時期のヒット曲Wild Cherry"Play That Funky Music"といい、こういうネバッとしたファンクがプリンスは好みか。

 きれいなメロディの(7)は89年までさかのぼる。エリサ・フィオリロ"I am"(1990)の提供曲を、マイテがカバーした。エリサのバージョンはちょっとキーが低い。アレンジの質感は似てる。プリンスのトラックへ歌をかぶせただけかも。エリサのほうが少しコブシを回せてる。

 マイテは素直。癖がない。その分、楽曲の美しさが際立つ・・・と言っておこう。ただしこのバージョンのほうがコーラス・アレンジも細かくなっており、クオリティは抜群だ。最後にマイテはシャウトするが、それでも甘いかな。
 とはいえプロデュースは(1)(2)と同様にカークがつとめた。メインのプロデュースはDavid Zとクレジットあり。これも仲間に製作を任せてる。毒の無いキャッチーさはむしろ、プリンスが関与してないせいと言える。

 (8)がマイテらしいラテン風味と明るいムードで聴かせるのだが・・・これも元は、93年と時期は近しいが黒人女優Holly Robinson Peeteが歌ったテイクがあるらしい。プリンスの女性遍歴は凄いのう。ただしリリースは無し。あくまでプライベートな録音か。
 マイテのテイクはベースがどっしりと支えるうえで打ち込みと生のリズムが混載する、凄くかっこいい仕上がり。本盤で一曲選ぶなら、マイテの魅力も含めてこの曲を押す。
 楽曲なら(3)(7)など美しい聴きどころあるけれど。

 (9)は91年の作曲で、いちおうマイテ向けかな。プリンスのボーカルが前面に立ち、デュオ形式。自分用に書いて、マイテをフィーチャリングしたから本盤に載せたって解釈ができなくもない。
 プリンスが全面に立ってるゆえに、凄みやスリルは格別だ。ただし淡々と攻めるメロディなため、地味に渋いマニア好みの曲。伴奏は細かいフレーズを足すことで、アラブにも寄るエキゾティックな風味を足した。中盤は打ち込みタブラで中東色を強調した。
 女性の吐息のサンプリング、プリンスが別の曲に使ってた気も。
 
 (10)も同時期の曲でマイテへ書き下ろしか。しかし録音とプロデュースは(1)などと同じくカーク。なぜだ。プリンスじゃなくカークとマイテが蜜月しても仕方あるまい。
 これもキャッチーなメロディが魅力的な佳曲。誰かに提供してもおかしくはない。ハープ音色をギターっぽく配置して後ろに白玉を流し、シンセ中心にあっさりとまとめた。
 込み入った声が飛び交うハーモニーアレンジは、プリンス譲り。ってか、ボーカルだけプリンスがプロダクションかもしれない。
 
 (11)は(3)のスペイン語バージョン。なぜアルバムに入れる?ヨーロッパ市場狙いならあざとい。前述のようにミシャへの提供曲で、トラックは同じ。マイテの歌は少しばかり自然さが増してる気もする。マイテの魅力強調って点なら、似合ってるかもな。

 そして最後の(12)はもちろん、プリンスの楽曲で男女の立場を変えた歌。バッキングはプリンスそのものだから悪くはもちろん無い。当時、ワーナーと揉めて低迷しながらもあっさりヒットを飛ばすパンチ力ある曲だ。
 ミックスも歌を前に出し気味なため、どうもカラオケに歌乗せただけって違和感が漂ってしまう。比較相手はプリンス本人だ、仕方あるまい。
 ぼくはこの曲、ポップすぎてあまり正直好みではない。今のとこはね。だから「ふーん」と聴き流してしまう。

 ということで、まとめると12曲中マイテへほんとに書き下ろしたと思えるのは(1)(2)(9)(10)。(9)はちょっと怪しい。しかも残り3曲はカークのプロダクション。
 うーん、なんか煮え切らない。プリンスは何を考え、本盤を作ったのか。やはりマイテのおねだりで適当に作った、義理の盤かなあ?

Track listing:
1. Children Of The Sun 4:30
2. In Your Gracious Name 5:06
3. If I Love U 2night 4:19
4. The Rhythm Of Your Heart 3:17
5. Ain't No Place Like U 4:45
6. House Of Brick (Brick House) 3:20
7. Love's No Fun 3:58
8. Baby Don't Care 5:26
9. However Much U Want 4:33
10. Mo' Better 4:56
11. If I Love U 2night (Spanish) 4:18
12. The Most Beautiful Boy In The World 4:31

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