Prince And The Revolution 「Around The World In A Day」(1985)

 グイッと世界を広げ、匿名性を意識したかのような一枚。

 "Purple Rain"で特大のヒットを飛ばし、今まで以上の予算と自由を手に入れたであろうプリンス。"1999"頃からスターであり好きにレコーディングできる環境があったようには見える。流出しているアウトテイクの量から推測して。
 だが"Purple Rain"はそれ以上のヒットであり、トップクラスへ名実ともにランクインした。

 その続編でリリースが本盤。今ほど"Part.2"の連発な時代ではなかったが、当然求められるのは前回同様の二番煎じ。だがもちろんプリンスはその轍を踏まなかった。溢れる創作意欲をそのままに、黒人音楽から離れロックへぐっと近づき、なおかつパーソナルな世界観を意識した。まさに彼の愛聴したジョニ・ミッチェルあたりに近づくように。

 本盤はバンド名義。だが実際のクレジットはほとんどがプリンスの多重録音だ。二重にややこしいのは、プリンスのクレジットは信用できないこと。なおかつビジネス的な名前貸しまで意識したら何もわからない。とりあえずここでは、クレジットが正しいとしてみよう。
 
 録音は"Purple Rain"のツアー中から始まったと言われる。クレジットではついにつかんだ自国の城なPaisley Park、それまでの愛用なプロスタジオのSunset Sound、そしてMobile AudioやCapitol Studiosと4ヶ所が記載された。ツアーの合間にちょこちょこ録音ということか。
 楽曲の肝は、前作の"ビートに抱かれて"。"Purple Rain"のサウンドでは異質な、ベース無しでドライな音像、かつ薄いサウンド。その楽想を敷衍したのが本盤、と感じる。

 "1999"あたりからトレードマークになった、プリンス流のタンバリン叩くみたいなスネア・サウンドは本盤でも何曲かで聴ける。しかしそれは一要素。もっとエキゾティックでナイーブな世界観を本盤では提示した。
 売れ線はどの程度意識したんだろう。何やっても売れるはずの続編な本作、とりあえずバラエティに富ませることを配慮かもしれない。
 そして本盤でのドライな質感をさらにそぎ落として、エレガントさをプリンスは追求する。それが"Parade"であり、美学を追求から個人趣味に突入が"Sign "O" The Times"に結実する各種プロジェクトではないか。

 プリンスは本盤でのみ、匿名性を意識したように思える。紫で染めた"Purple Rain"時期。モノラルでシンプル、腹を出してきた"Parade"。さらにスタイリッシュさを追求し、オレンジ色と眼鏡やきっちり来たスーツでキメた"Sign "O" The Times"。
 だが本盤ではジャケットのイラストをビジュアル・イメージにした。少なくともレコード・ジャケットを眺めるのが基本だった、日本においては。

 12"シングル全盛期で、本盤からシングル4枚。7"と12"で各種の膨大なアイテムが出たこの時代だが、どのシングルもカラフルなLPのジャケット・デザインの一部を切り取ったもの。
 "Around The World In A Day"の小宇宙をLPジャケット・デザインにこめ、きっちりとイメージ戦略を固定した。"Purple Rain"の一発屋で終わらぬよう、過去のイメージをいったんリセットするために、敢えて露出を控えたのではと邪推したくなる。

 ともあれ本盤からプリンスの創作的な快進撃は、猛烈に加速する。シングルのB面はアルバム未収録曲、シングル曲も別ミックスを多発した。それぞれの感想は、ここここ、別項にまとめる。

 ぼくは"新譜"でプリンスを聴いたのが本盤。"Purple Rain"は"ビートに抱かれて"がヒットしてから知ったから。
 中学生のガキだったから「新機軸」とか「前作と違う」とかヤヤコシイことは当時に考えない。すべてが新しく新鮮で、ヒットチャートを追いかけてたころだから。
 ただ、この盤は「凄いな」と思った。何が何だか、最初は分からなかった。一曲づつ聴いて、だんだん親しみを増した。そしてすっかり聴いた気になって、何十年も聴かなかった。

 プリンスが逝去してから聴き直し、さまざまなアイディアの奔流が詰まってたことに、改めて気が付いた。本当に、本盤は凄い。

 (1)はアラブのエキゾティックなイメージで始まる。初手から"Purple Rain"の色を完全に塗りつぶしてきた。シンセ・ドラムはプリンス印だが。けれどLPの看板である1曲めに、自作でなくDavid Colemanの楽曲(プリンスも作曲にクレジットあり)を持ってくる判断に舌を巻く。自らの才能へ自信を持ち、何があろうと揺るがないプリンスの主張と、新機軸を求める貪欲さの象徴だ。
 David Colemanは本盤でチェロにウード、パーカッションにコーラスと大活躍。でも本盤でもそのあとの盤でも、それほどプリンスに近づいた活動はしてない。あっさりとプリンスはこの曲で異物感をすくって終わった。
 ここではダビングを重ねながらも、すっきりと痩せたイメージが漂う。派手なシンセでシンプルに目立たせるアプローチを、プリンスはやめた。

 テーマ曲を目指したか、新たな城の名を曲名にした(2)。これもドラムは継続したサウンド。ふわふわ漂うサイケなシンセ、エレキギターなどを各種ダビングしてパーソナルな世界を構築した。
 アレンジ構造は"ビートに抱かれて"でなく、その直前の一連の"Purple Rain"プロジェクト楽曲に近しい。けれどエキゾティックな異世界感は、既に新しいステップへ進んでいた。

 異色で本盤発売の数年後に大好きになったのが(3)。ここ3曲までアップテンポで全く押さない。
 やたら長いインストで欧州の落ち着いたエレガントな田園風景を連想する世界観。クレジットには「すべてがプリンス」と一行だけクレジットもカッコよかった。
 ファルセットと地声を自在に変え、自らの色をさりげないが強固に主張した一曲。誰とも違う、誰にもまねできない孤高な風景を魅せた名曲だ。
 サビの盛り上がりを女性コーラス入れず自分で塗りつぶした選択が潔く素晴らしい。

 シングルで代表曲になった(4)。まだまだプリンスはBPMを上げない。ただしポップさは明確に出してきた。これはストリングスが飛び交うサイケな曲。"ビートに抱かれて"の乾いた香りを美しく飾ったかのよう。
 これは3番の突飛で奔放なメロディが凄まじい。口ずさむと痛感する。全く読めないメロディ展開、なのにポップに歌いこなす。アイディア、構成力、そして歌唱力。抜群の名曲だ。
 ひとしきり3番で翻弄されたあと、伸び伸びとしてるが煙ったストリングスが響くミックスが大好き。

 A面最後はシンプルなファンク。これも(3)同様に「完全自作」を謳った。(3)もそうだったが弾き語りではなく、多重録音のアンサンブルが前提の楽曲。たしかにエレキギターのカッティング一発な伴奏でも成立すると思う。
 でもこの楽曲は飛び交うリズム・パターンと多重ハーモニーの不穏な響きあってこそのサウンドだ。
 ここで聴ける手拍子、サンプリングかなあ。一人の音とは思えない。何度も手拍子もダビングしたのかな、孤独だけどかっこいいなあって、自意識過剰に悩む思春期の悩みに重ね合わせ、当時は聴いていた。

 B面トップがようやくアップテンポのロックンロールな(6)。これはタンバリンでBrad Marshのみがクレジット。バンド演奏、だろうかね。12"で20分越えの長尺テイクがリリースされたし。
 そこで当時から、ふと悩む。ならばなぜ、(3)や(5)はたった一人で録音したんだろう、と。バンドで固めればいいじゃないか、と。プリンスの楽曲優先な気まぐれかもしれない。一方で、バンド名義といえすべて自分の多重録音かもしれないな、と疑りもした。

 だって、続く(7)ではドラムにシーラ・Eとわざわざクレジットされてるから。シーラ・Eはレボリューションじゃないの、と不思議に思った。単にレボリューションズのドラマー、Bobby Z.ではないって意味かもしれんが。
 そしてこの(7)も不思議な曲だ。シンプルなメロディは、プリンスの歌唱ニュアンスでこそ光る。カバーを聴いてプリンスを意識し、マネもしくは離れようとヒネッた癖ある歌い方するが、誰一人プリンスのように軽やかでヘンテコなニュアンスには至れない・・・と思う。どうもプリンス至上主義で書くから、贔屓目がいっぱい入るけど。

 逆に(8)は昔から苦手だった。サイケで不思議な世界を描く本盤の中で、妙にこの曲だけ"Purple Rain"を引きずって聴こえた。むしろ二番煎じじゃないの、と思ってしまってた。
 テンポ感やドラムのイメージ、語りからむせび泣くような歌声に入るイメージまで全部含めて。いや、"Purple Rain"は語りから入らないけども。
 とはいえプリンスはこの曲をシングルにせず、アルバムに埋もれさせた。そして作曲は父との共作クレジット。実際の作曲はほとんどが父親かもしれない。屈折してるとはいえ、彼流の親孝行だったのかも。

 最終曲の(9)。これもアップテンポなロック・・・のはずだったが。前曲と似たようなテンポ感でなおかつ8分越えの大作。(8)の楽想を新たに(9)でばっさりと塗り替え、切り捨てようとしてるかのよう。まさに父親から完全脱却し、自分の才を明確に示すかのように。歌詞にも冒頭から"Prince"と歌いこまれてる。
 この曲は歌い方も凄い。喉をがっしり潰しながら猛烈にシャウトし、続いて低音を低く漂わす。自在な声帯だ。
 ドラマティックな展開は、元の録音はさらに長尺だったのか。後半の芝居めいた部分も含めて、プリンス流のスピリチュアルな思い入れを込めた曲か。

 なまじ何度も聴いただけに、へんな固定観念やわかった気になって本盤に接してしまう。けれどもヘッドフォンで耳を澄まして聴くと、細かい音作りや構成に新鮮な箇所を、聴くたびに感じる。まだまだぼくは、本盤を聴き込めていない。

Track listing:
1. Around The World In A Day 3:25
2. Paisley Park 4:41
3. Condition Of The Heart 6:46
4. Raspberry Beret 3:31
5. Tamborine 2:46
6. America 3:40
7. Pop Life 3:42
8. The Ladder 5:26
9. Temptation 8:21

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