Elvis Costello 「Momofuku」(2008)

 初期衝動の製作をカップラーメンに例えたカントリー・ロックな盤。実は手が込んでいる。

 実際はインポスターズとのバンド名義で、凄く唐突なリリースだった。
 08年1月16日と、同年2月7日から14日までの実質一週間強で録音され、同年の4月には本盤がリリースに至った。製造や流通リードタイムも考えたら、ほんとに作ってすぐに製造工場へマスターテープが送られた感じ。
 宣伝として発売をコステロがメディアへ告げたのは3月14日。
 いかにコステロがユニバーサルで自由にリリースする権限が与えられてたかわかる。本盤は"The Delivery Man"(2004)に次ぐ、ユニバーサルのカントリー系サブレーベル、Lost Highwayから発表された。

 ロックはビートルズを境にビジネスがでかくなった。ガレージで盛り上がってたガキの音楽がいつしか巨大産業となり、予算とリクープの境界線も上がっていく。それだけプレッシャーも高まり、プロモーションや制作スケジュールもコントロールされてる。
 産業ロックって言葉を引き合いに出すまでもなく、ビジネスなら当然だ。作り手のほうも慎重にならざるを得ないはず。ベテランにもかかわらず、こうして無造作に作って出す、しかもメジャー・レーベルから。コステロのフットワークの軽さは痛快だ。

 本盤録音のきっかけは、LAのロックバンドRilo Kileyのボーカルで、オルタナ・カントリーSSWなJenny Lewisの2ndソロ"Acid Tongue"(2008)に収録曲、"Carpetbaggers"。このゲストにコステロが呼ばれたことという。楽曲はこれ。

 ちなみに本盤、Wikiによれば08年1月の録音だが発売は9月。ワーナー傘下のラフ・トレードからリリースされた。別に不思議じゃないリリース・ペースだが、あとから録音したコステロのほうが先にリリース、しかも同じメジャーから。この差は皮肉なものだ。

 ジェニーの録音へ参加したとき、新曲2曲をコステロは準備してたという。本盤収録らしいが、どの曲だろう。ライブで事前に披露は(10)と(11)だが。
 とにかくコステロはジェニーの録音メンバーにインポスターズのDavey Faragherがいたこともあって、試しに自作も録音してみたらしい。それが1/16のことか。"Carpetbaggers"を提供したジェニーの男友達なSSWのJohnathan Riceも、コステロのセッションに参加した。

 他に本盤へ参加はアトラクションズからの盟友、ピート・トーマスとスティーブ・ナイーブ。ジェニーはコーラスで参加し、ジョナサンはギターやコーラスで加わってる。
 地元な南カリフォルニアのミュージシャン、"Farmer" Dave Scherもペダル・スティールやオルガン演奏でゲスト参加。あと、2曲で同じくカリフォルニアのSSW、Jonathan Wilsonがギターを弾いてる。4曲でTennessee Thomasがドラムを叩いた。
 さらにロス・ロボスのDavid Hidalgoも招かれ数曲で演奏してる。

 でもせいぜい、それだけ。シンプルなメンバー構成であっという間に録音された。
 楽曲はいつ作ったのか。1/16から2月の録音までにパパッとコステロが書き下ろしたのかも。

 曲調はメロウなポップスが多い。荒っぽいボーカルやカントリータッチの埃っぽいアレンジに施されてるが、丁寧で美しいメロディが詰まってる。
 全12曲で47分。無理やり詰めればLP一枚に収まるが、カッティング・レベルの低下を嫌ったか2枚組でLPは発売された。2枚組の大げささは、このスピーディなリリースには似合わない気がするけど、仕方ないか。曲を削りもしなかったし。 

 シングル・カットなどの売り方はされず、あっさり本盤はカタログに収まった。ジェニーとコステロの共演曲であり、本盤製作のきっかけとなった"Carpetbaggers"がシングル切られたとき、B面で(12)が収録されたくらい。
 このシングルではJenny Lewis and Her Sound名義だが、テイクは"Momofuku"と同じらしい。契約の都合か。
 ただし楽曲は埋もれてない。まず発売直後の5月からポリスとの双頭ツアーが行われる。コステロはインポスターズを率いて北米33公演をこなした。というか元々このツアーの予定があり、ちょうどいい新譜発表のタイミングとしてスピード・リリースにつながったのかも。
 いずれにせよコステロは曲は埋まらせず。その後も折に触れ、ライブで本盤収録曲を取り上げている。

 (1)は甘酸っぱいロック。ざっくりギターがストロークを繰り返すが、軽く弾むベースとキックのコンビネーションは柔らかい。さらにコーラスも数人立てて温かく包んだ。
 コステロ自身とジョナサンのギターにペダル・スティールと楽器数が多くて、アルバム冒頭にふさわしいキャッチーなアレンジだ。ただしメロディが淡々と流れてしまい、意表を突く構成になってはいない。

 コステロのカウントでラフに始まる(2)は一発録りっぽいザラついたノリを持つ。ナイーブのオルガンがダビングっぽく聴こえはするが、同録でも不思議じゃない。暴れるコステロ自身のギターは"メガトン級台風ギター"と派手にクレジットされた。
 ただし最後に自分でハーモニーをダビングするなど、コステロは丁寧に楽曲を飾ってる。
 オルガンを筆頭に、アンサンブルのフレーズは刻々と変わる。刻んで繰り返してハイ終わり、みたいなお仕事と逆ベクトルの生々しい演奏が嬉しい。

 モコモコっとした荒々しい(3)はボーカルだけ、ドライに響いた。サビでの切ない広がりがきれいだ。これも(1)と同様にダビングが一杯。ジェニーらのハーモニーも厚く響いた。
 コステロはギターだけでなく、ピアノもダビングしてアンサンブルに彩を増やしてる。全体の音像は籠って団子の迫力を志向だが。

 (4)はカントリーというよりジャズっぽい。Jenny Lewis, Johnathan Rice, "Farmer" Dave Scher, Davey Faragherの4人を"ボーカル・スーパーグループ"と銘打ち、この曲でも厚みあるハーモニーをかぶせた。
 コステロのギターを軸にシンプルなアンサンブル。ナイーブはピアノとエレピをダビングした。場末の裏ぶれてるが、クオリティ高い世界を描いたかのよう。切々とコステロは歌いかけた。
 サビでハーモニーが鮮やかに跳ね上がるポップス。きれいにアレンジもできるはずだが、ここではごく簡素な世界に仕立てた。

 ということでコステロは本盤でシンプルだが単純には仕上げない。微妙にいろいろと手を加えるしたたかさで、少ない手数の複雑な世界観を描いた。
 (5)は"Pills and Soup"を連想する静かな凄みが滲む。ここではダブル・ドラム。ピートの他にLAで活躍のオルタナ・バンド、The LikeのTennessee Thomasを起用した。タンバリンみたいなパーカッションが、彼女の演奏かもしれない。

 あっさりバンドっぽく見せかけて、こういう小技が本盤ではあちこちに見られる。(5)は(3)に通じるサウンドづくりだ。
 やはり籠った音だが、コステロはギターを二本の他にオルガンまでダビング。ファルセット気味な"ボーカル・スーパーグループ"が英国風味の煙った空気を演出した。

 (6)はピアノ・トリオなバラード。ギターはロス・ロボスのヒダルゴに任せた。緩やかなメロディ、喉を震わせひっくり返したり軽くシャウトしたり歌い方にコステロは技巧を凝らす。
 ヒダルゴの節を抜いた響きのエレキギターが、奇妙にのどかな空気を楽曲へ与えるけれど、コステロを含む男三人のハーモニーがふくらみを持たすけれど。ぴりっとした緊張を持った楽曲だ。

 再びロックな(7)へ。ナイーブが鍵盤を数回ダビングして厚みを出した。これも荒っぽく聴こえるが、ハーモニーも綺麗に載せて(1)に通じるポップな仕上がりを目指してる。
 レスポールの他にダビングでDanelectro Baritone guitarsってギターをコステロは弾いてる。これは音域を広げたギターの一種らしい。本曲もTennessee Thomasのダブル・ドラム。イヤフォンだと少しわかるかも。これも(3)や(5)のように嵐のごとく籠った荒々しさを表現した。

 (8)の冒頭はテープ逆回転など凝った造り。けれど楽曲が始まったらシンプルなアレンジだ。ナイーブがメロディカをダビングした。英国人同士で、ひねって切なくよじったミドル・テンポのピアノ・ポップを聴かせる。
 和音をシンプルに叩くピアノもナイーブ。コステロはギターをアドリブなどで軋ませた。とはいえこれはダビングか。本曲もハーモニーを多重録音したりと丁寧にアレンジを整えた。
 こうして聴き進めると本盤って、「一発録音でハイ終わり」って感じがほとんどしない。どれもこれも手をしっかり加えてる。

 (9)はヒダルゴがビオラと彼のギター"ヒダルーガ"をフィーチュアした、カントリー風のスロー。コステロはバリトン・ギターのみを弾く。ベーシックをササッと録って、少し飾って終わりと仕上げた。
 ハーモニカみたいに鳴る、ナイーブのダビングしたメロディカが切なくて良い。エンディングのディレイが響く余韻も悲しみを漂わせた。

 (10)も(1)と同様に、どっぷりとダビングを重ねた大編成のアンサンブル。数本のギターが織りなす厚みと、ハーモニーや鍵盤で補強された頼もしく野太い響きが膨らんだ。
 テンポをあまり上げず、丁寧に紡がれるメロディは凄くポップだ。けれども和音進行なのか、さほど極端に平歌とサビで風景が変わらない。ひとつながりの雄大であっけらかんとしたアメリカの風景を、外部の人間が夢を持たせて表現したかのよう。
 アメリカのカントリーは、もっと屈託がない。イギリス人ならではの表現とは言えないか。
 コステロWikiによれば、初めてライブで披露は前年9月29日のライブという。録音にあたり準備の新曲のうち、一曲がこれか。

 (11)は初期コステロすら連想する、ちょっと引っかかるメロディが広がる茶色なメロディ。ギターやコーラスのダビングはあるけれど、あまり飾り立てずあっさりと仕上げた。
 コステロWikiには、ライブの初披露は前年10月4日。事前の新曲、もう一曲がこれか。
 ナイーブが鍵盤をダビングしてカウンターのメロディを入れた。ベーシック・トラックはシンプルなギター中心のアンサンブルだ。終盤で転調するような和音展開のリフが効果的だ。

 アルバム最後の(12)はフェイドインで始まる。それまでのセッションの冒頭を切ったかのように。改めてコステロがカウントを打ち、曲が始まる。一発録りっぽい耳ざわりだ。
 たぶん実際に、セッションを生かしたと思われる。ダブル・ドラムにジョナサンやDave Scherのオルガンなどメンバーは多い。逆にナイーブはクレジット無し。
 1/16の録音がこれか。だからこそコステロは本曲に手ごたえを感じ、本盤の録音に踏み切ったのかも。
 そして、そんな経緯ゆえにジェニーのシングルB面にこの曲を選ぶ必然性あったのかもな。
 
 拍頭を基調に、ときおり裏でファンキーに鳴るオルガンがこの曲の、良いアクセント。力押しで楽曲はぶいぶい進んでいく。ベーシックを録った後に、メロディをはめ込んだかのよう。

Track listing: 
1. No Hiding Place 4:00
2. American Gangster Time 3:47
3. Turpentine 5:42
4. Harry Worth 4:29
5. Drum & Bone 2:36
6. Flutter & Wow 4:24
7. Stella Hurt 4:46
8. Mr. Feathers 2:47
9. My Three Sons 3:06
10. Song With Rose 3:04
11. Pardon Me Madam, My Name Is Eve 3:53
12. Go Away 4:55

Personnel;
Elvis Costello:Vo,G,etc.
Davey Faragher:B,,etc.
Pete Thomas:Ds
Steve Nieve:Key
Johnathan Rice:G,cho
Jenny Lewis:Cho
"Farmer" Dave Scher;Steel guitar,etc.
Jonathan Wilson:G,etc.
Tennessee Thomas:Ds,etc.
David Hidalgo:G,etc.

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