"Around the world in a day"シングルの別ミックス曲

 "Around the world in a day"の感想エントリが散漫で長文なのを避けるべく、こちらで12"で発表された別ミックス曲をまとめてみる。

 "Purple Rain"の終盤からイギリスを発端に12"シングルの流行が、音楽業界に現れた。次々とシングルB面にアルバム未収録曲を発表してたプリンスにとっては渡りに船。本盤からのシングル・カットはすべて、別ミックスが発表に至った。さらに未発表曲もつけて。

 ということは7",12"とすべて買わねば全部の音源は変えない。だが、これはきつい。本盤発表な1985年の4月、ぼくは高校一年になったばかり。そんなにあれこれとアイテムを買う小遣いは無い。ましてやこのころ、僕は本格的に音楽を聴き始めた。いろんなジャンル、過去の音楽に興味が出てきた。FMラジオのエアチェックが中心だったし、中古盤を買うことも覚えた。だがとてもカネが回らない。高校時代はアルバイトしなかったし。

 当時は輸入盤へ行くと、極端に言うと行くたびに新しいプリンスの12"や関連盤が面出しされてる印象あった。場所は吉祥寺のDisc INN、あの2階へ上がる店。レジ横に面出しスペースがあったっけ。
 あの店って7"はあったかな。限られた予算で買うのはLPばかり。シングルは買おうと思わなかったから、エサ箱をあさらなかった。せめて大学生のころだったら、片っ端から買いまくってたのにな。惜しいことをした。だからこの辺の音源はずっと後になってから聴いた。

 "Around the world in a day"からは4枚のシングルが切られた。発売順に並べてみよう。

Raspberry Beret
 New Mixと名付けられた6分半の曲。オリジナルから3分ほど延長した。冒頭のカウントはそのままに、いきなり違う世界へ連れてかれる。プリンスの咳などお茶目なノイズも入って。

 ひとしきり新鮮なフレーズが広がったあと、ストリングスが現れてオリジナルの曲世界へ滑らかに戻された。そのあとは極端な変化はなく、聴きなれた世界へ安住できる。
 とはいえこの曲も"Pop Life"と同じようにプリンスの多彩な歌唱力で聴かせる。さらにメロディ構造も細かく変化し、特に3番でのいきなり崩れていくさまは刺激的だ。

 本テイクはその前段階で、いきなり違う場面が現れる。ストリングスの響きはそのままにキーを変えたような不穏な響きへ。この曲こそ、これがオリジナルで編集して発表したような面持ち。New Mixって言葉を信じるならば、あとから作ったテイクなのだが・・・。
 ストリングスが違うフレーズを弾いてエレキギターのカッティングに向かう場面のスリリングなこと。なぜか再びプリンスの咳き込む声も登場する。よっぽど気に入ったのか。
 パーカッションからハーモニカまで、終盤に向けとりとめないほど混沌な楽器の応酬で幕を下ろしてしまう。

Paisley Park
 リミックスには長尺のセッションを生かして編集で省略の部分を聴ける楽しみと、テープや卓操作で違うバランスを味わう意外性の二つがある。
 この曲は長尺を味わう方向性だ。12"シングルに収められたバージョンは7分弱、およそ2:15"ほど伸ばした格好。
 冒頭こそ女性コーラスが一声鳴くも、あとはエレキギターのソロがたっぷり長く提示された。実際に歌が始まってからは、オリジナルLP盤と同じ印象だ。
 終盤のギターソロも長い。波打つSEをバックにサイケなジミヘンっぽいギターをゆっくり聴けた。

 これってPVあったんだ。知らなかった。殿下の死後、無法地帯になったYoutubeで新たに知ったことがいくつもある。切ない。なぜリアルタイムで、知ることができなかったのか。



Pop life

 終盤の後で急にフェイドアウト、ボクシングのSEが入って歌が蘇る。この変な構成の漂いが、枠にとらわれず奔放に非日常と日常を行き来する音楽世界を作った。
 メロディ構成はむしろ単調、プリンスの歌のうまさで聴かせる。シンプルなフレージングをタイミングやシャウトの変化で面白く曲を作った。
 ぶっちゃけカラオケで歌ってみるといい。天才的なニュアンスを変える歌い方を、身をもって痛感するはずだ。
 
 これは延長バージョンと"Fresh Dance Mix"の二種類ある。前者は9分、約5分伸ばした。冒頭は違いが明確じゃない。一番が終わってひよひよ鳴るシンセ。あそこがちょっと長い印象。
 削られた長尺を味わえる。中盤でオリジナルにないプリンスの歌がドバドバ現れ、ランニング気味に弾むエレキベースや、ちゃらちゃらと跳ねる鍵盤のフレーズも現れた。中盤の盛り上がりをそのまま味わうかっこう。

 この曲は弾む生演奏の妙味とストリングスがかぶる、煙った奇妙な味わいが魅力だ。バンドのグルーヴよりつぎつぎに音がかぶさるスリルのほうが先に立つ。
 バンドじゃなくプリンスの多重録音で作った曲と思ってたが、も元の尺はけっこう長そうだ。"Purple rain"と同じように延々とテープを流して曲をまとめ、最後にばっさり整える手法だったのか。
 でもテープ・ループでベーシック・トラックをリピートさせて、あとからフレーズを足すことで本ミックスを作った可能性もある。どっちだろう。聴きながら想像を膨らませ、わくわくしてる。

 面白いのは最後にボクシングのSEが無いところ。フェイドアウトから復活はあるが、バンドがライブで終わるような感じで、静かに終わった。

 後者は1分半ほど尺が長くなってる。逆にこっちは最初からボクシングのSE部分が現れた。ダブ風に同じフレーズが繰り返され、卓でいじり倒した面持ちだ。イントロのテープ操作で遊び倒すが、歌が始まると一通りきちんと聴かせる。
 まだむちゃくちゃなミックスに慣れてなかったリスナーへの優しさか。誠実さというかファンサービスを感じた。ちょっと途中でフレーズ・ディレイを混ぜたりと、聴き手をオリジナル・テイクの世界へ安住はさせないが。

 終盤でオリジナルには無い、クラシカルな女性ハーモニーが足される。そのあとはオリジナルと違う節回しでプリンスが歌いだす。ピアノを強調したポップな仕上がり。
 さらにフィルター操作であちこちの周波数を削り、もこもこした風景で締めた。やはり終盤でのボクシングSEはカット。
 とにかくアイディアたっぷりだ、プリンスは。

America
 細かいフレーズを組み合わせてファンキーに盛り上げる。ロックな味わいだが、JBスタイルを盛り込んだ曲なのかな、と今回聴いてて思った。

 3:45"のテイクを21:39"と超長尺にした。この大きな変貌っぷりと、実際は長い作品だったのかって当時から話題になった。ただし今回聴き直したら、あとから楽器をかぶせて編集で長くしたテイクかな、とも思い始めた。サビとソロの間が入れ代わり立ち代わり、妙に行儀良いため。

 リアルタイムではメディア上で"Purple Rain"のアウトテイク流出が話題になってなかった記憶だ。ブート屋へマメに行ってたわけでもなく、"Purple Rain"収録曲の長尺版を僕が聴いたのは21世紀に入ってからだと思う。
 そしてこの盤の長尺テイクの存在を知って、なおかつ当時は長尺セッションと考えてたので「ああ、前もやってたんだ」と得心した。その一方で、あの斬新なアイディアはさらなる豊富な材料から刈り込む潔さと大胆さゆえなんだ、と驚きもしたが。

 このテイクの冒頭はずっとオリジナルのままかな。フェイドアウトの先を聴かせる、みたいなコンセプト。一通り曲を演奏して、リズムの上でワウ・カッティングと短いフレーズの掛け合いでギターがたっぷり暴れる。
 乾いたリズム・トラックのループの上で執拗にギターの対話が繰り返されたあと、プリンスの一声で風景が変わりサビへ戻る。
 これもバンド・セッションっぽいがテープ・ループにも聴こえる。リズムがあまりにタイトだから。どっちだろう。

 短いサビのあと、ボコーダーっぽいシンセが漂うブロックに向かう。プリンスを全肯定するならスリリングに楽しめるが、ちょっと長すぎる気がしないでもない。だんだん鍵盤のフレーズは長くなり、しまいにキーボード・ソロに変化した。

 またサビを挟み、今度はシャウトやコーラスの断片。テープ操作か。さらに高速ギター・ソロが滑り込む。"Na~Na Na♪"と、岡村ちゃんが"(E)na"で使ったハーモニー・フレーズは、この後に登場する。

 そしてドラムとフルート風に震えるシンセをフィーチュアしたブロックへ。リボン・コントロールのようにひよひよ揺れるシンセがきらめいた。退屈になりそうなとこで、カッティング・ギターを入れてドラムのドタバタしたソロを入れるあたり、興味をそらさない展開だ。ティンバレスっぽい響きで、シーラ・Eのソロかもしれない。
 
 最後はシンセがソロというより新たなリフっぽく盛り上がる。鉄琴が入ったり別のシンセでカウンター入れたりと、単純なテープ・ループに留めぬアレンジの工夫もここへ至っても味わえるしくみだ。
 エンディングはそのままフェイドアウト。ある意味、凄くあっさり。

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