Oscar Peterson 「Plays the Cole Porter Songbook」(1959)

 小粋でスピーディ、メリハリと緩急を効かせた一枚。
 

 ジャズピアノの名手、オスカー・ピーターソンがエド・シグペン、レイ・ブラウンとの黄金トリオでマラソン・セッションをした一枚。膨大なリリースを残したピーターソンだが、ディスコグラフィを見る限りここまで一気に吹きこんだのはこの機会のみのようす。
 具体的には59年7月14日から8月9日。シカゴのユニバーサル・レコーディングスタジオで、114曲を吹きこんだ。LP9枚分。
 毎日何時間もスタジオに籠ったのか、断片的にどかどか録音したのか、委細は分からない。プロデューサーにノーマン・グランツと記載あるのみ。

 アメリカのスタンダードなポピュラー作曲家9人のソングブックって企画。別に自身の録音記録に挑戦とか大それた意図はなく、「まとめて録っちまえ」程度の心意気と思われる。なぜって、ピーターソンならできるはずだから。
 だが本セッションで興味深いのは、どれもきっちりアレンジされてること。手なりでジャムってハイ終わりって安直な録音ではない。それが凄い。アレンジは誰だろう。グランツのヘッド・アレンジかな?この録音を詳しく追ったドキュメンタリーを読んでみたいものだが、既に記録は残っていないかな?

 ジャズ界隈でこのマラソン・セッションは有名な話だが、特に伝説じたてで語られてもいない。そもそもマニア向けでないのか、このセッションを集めた廉価ボックスで販売、みたいな企画盤すら見つからない。良い演奏なうえに、面白い題材と思うがなあ。

 このボックスはソングブック集が5枚分はいってる、手ごろな10枚組の廉価盤。

 

 (1)はこじんまりしたスケール感で演奏される。サビ部分の炸裂も穏やかだ。もっと派手に鍵盤押さえて賑やかに鳴らすこともできたが、ぐっと抑えたアプローチ。小粋さを生かしたか。
 弾むシンバル・ワークに、音数を減らしたベース。それが一分半過ぎから加速し、雪崩れるとこがカッコいい。

 一転して情熱的に強く鳴るのが(2)。突っ込み気味でブラシで叩くドラムに、高速ランニングのベースが煽った。テーマの終わりでピアノとベースがユニゾンで譜割を刻み、高速のピアノ・ソロへ突入した。
 突っ込み気味でスティックへ持ち替えたドラムが4ビートを刻み、ベースはまくしたてる音数の多さ。
 涼やかなアドリブを目まぐるしく披露するピアノは、ワン・コーラスごとにテーマへ戻り、再びソロへと行き来した。前曲と一転して厚みある和音が重厚だ。

 やたらモタるドラムにベースが前のめりで絡んで、粘っこいノリを作る(3)。歯切れよく突っかかり気味にピアノはフレーズを紡いだ。次第にドラムもオンビートに乗り、小粋さを増す。
 フレーズの終わりにピアノにブレイク任せるアレンジで、きゅっとサウンドが締まった。
 直後にピアノはさらに音数増やして華やかに盛り上がっていく。ブルージーだが上品な仕上がり。エンディングはあっけないが、がらがらと音を鳴らして賑やかにまとめた。

 裏拍をひときわ強調したリズムに、スリリングなピアノの(4)。ビートはブレイクを多用しピアノを引き立てた。
 饒舌なアドリブがぐいぐい続く。エンディングですらりとテンポが半分に落ちて、ぐっと穏やかに締めた。

 (5)の滑らかな響きはマレット使いかな。カチッという硬い音をアクセントにドラムがリズムを組み立てた。ベースはかなり下がった音使いで縁の下の力持ちを強調する。
 こういうふうに全曲、リズム・アプローチが異なるのが凄い。もちろんピアノも表情を変える。いろんな演奏スタイルが出てくるな。録音というより奏者のほうで音量を調節してるっぽい。

 ピアノはテーマに装飾音符を足してくっきりと、しかし華やかに盛り上げた。ソロに行く前の三連がキュートだ。
 この曲はアドリブのきっかけでテーマがあるのでなく、曲を通してる感じ。メロディを時に変奏し、完全アドリブを足しながらも小節感はそのまま曲を弾いてる気分だ。
 サビではリズム・パターンを変え、フレーズ終わりで、ピアノ独奏を混ぜグッと溜める。この辺は即興でなくきっちりとアレンジならではと思う。
 どんどんと録音でなく、明確に曲の流れを打ち合わせ後に録ったのではないか。

 (6)の伴奏はベースのみ。ピアノが流麗だがロマンティックにじっくり奏でるフレーズを、音数少ない低音がジックリ膨らませた。
 ダイナミズムは少なめ。テンポはベースが提示するけれど、ピアノは時にかまわず緩やかにフレーズを垂れさせた。しみじみと、しかし強い意志ある演奏。

 (7)は再びスイングするピアノ・トリオに。しばしばピアノ独奏を挟む、めりはりつけたアレンジを採用した。リズムは加減速をポイントで施して、ピアノが時に絡み、時にかまわずアドリブを組み立てた。
 この曲はアンサンブルが奔放であり、がっちり絡むとの相反するパターンが絶妙だ。そんな大それた実験的な演奏じゃない。ごくオーソドックスなアプローチ。でも、他の曲に比べたらアンサンブルを自由にしてるなって聴こえた。

 裏拍を粘らせるが、ストレートに拍頭を刻むドラム。もっとジャストに拍頭をベースが叩き、リズムに幅を出す。ピアノは音数を増やさず、数音弾いては伸ばす。白玉を上手く使った。フレーズの位置を揺らし、ちょっとたどたどしい雰囲気でムードを盛り上げる。静かで、穏やかな演奏。

 (8)も前曲に似て静かだが、ベースのみの伴奏でしっとりさが強調された。ベースは小節の前半のみで音を出すパターンから、じわっとランニングに変化する。ときおりピアノの合間でごく短いアドリブ・フレーズを挿入も良い。
 2分過ぎにシンバルが一打。ようやくさりげなくドラムも加わった。
 ピアノは一貫して落ち着いてる。アドリブとテーマを行き来しながら寛いだテンションを変えない。最後はリタルダンドして溜めた。

 くっきりしたブルージーな(9)。超高音部分の鍵盤を軽く叩いて打楽器的なピアノをちょっとだけ聴かせた。
 ピアノは饒舌さを抑え、冒頭部分はメリハリをきっちりつける。アドリブでは左手の音数を極端に下げるフレーズでひとしきり。次にグリサンドも混ぜる派手なプレイにと、アプローチをずらしていく。一曲の中で表情がくるくると変えた。

 (10)はセンチメンタルな暗い影をまとった印象で幕開け。ピアノのアタックはそっと、大人しく響かせた。残響ペダル踏んで余韻をたっぷり。
 リズム隊はベースがいくぶんランニングで存在感を出し、ドラムはシンバルに特化して静かなもの。ピアノすら伴奏に下がり、ベースが淡々と低音で歩む姿を描いたかのよう。
 もちろんピアノはメロディを紡ぎ続ける。和音を生かし、優美に。これも良いアレンジだ。

 (11)はザラついたフレーズが数音、一転して整った雰囲気に変わる。明るく鮮やかで上品な雰囲気に、ピアノが駆けた。即興に走り抜けず、テーマをきっちりと意識して。
 ころころと言葉数多く弾むピアノ。上下に跳躍するランニング・ベースに歯切れ良いドラム。ハイハットを小気味よく刻んだ。

 どれも2~3分と短くまとめた。なのにどれも色鮮やかな小宇宙を作る。ちょっとした小技のアレンジをしっかり仕込み、曲と演奏の魅力を引き立てた。

Track listing:
1. In the Still of the Night - 2:49
2. It's All Right With Me - 2:51
3. Love for Sale - 3:26
4. Just One of Those Things - 2:21
5. I've Got You Under My Skin - 2:47
6. Ev'ry Time We Say Goodbye - 2:17
7. Night and Day - 2:30
8. You'd Be So Easy to Love - 2:34
9. Why Can't You Behave? - 2:58
10. I Love Paris - 2:09
11. I Concentrate on You - 3:08
12. It's De-Lovely - 2:28

Personnel:
Ray Brown - double bass
Oscar Peterson - piano
Ed Thigpen - drums

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