Incapacitants 「No Progress」(1994)

 過去のオムニバスであるゆえに、統一したノイズへの美学が実感できる。

 アルケミーから発売の本盤は、過去作の編集盤。副題が (Dedicated To Takuya "Synapse" Sakaguchi)で、G-Modernに掲載の坂口卓也が書いた文章に呼応して発表とある。
 
 美川は自虐的に「進歩無し」と銘打ったが、こういうのは首尾一貫してるという。インキャパシタンツはもともと構成よりも直感的に自らが好むノイズをばらまくって印象あるけれど、まさに本盤はその典型。しかも何年もかかって響きがブレていない。

 切り裂くような細かく金属質な響き、ビート感が希薄で空間を埋め尽くす広がり。さらに軋みが緩やかに変化し、決して一定のノイズではない。じわじわと蠢く。そして叫びの獰猛さと、フィードバックのつんざき。そんな要素でできている。
 さらに叫びやフィードバックの暴力性を音像へ埋め込むのもポイントだと思う。出音はあくまでのっぺりと密度を高め、透過度を下げた。濃霧を押し開くような、瞬発力でなく剛腕の力を感じる。

 収録曲はを見てみよう。(1)は美川の自主レーベル、第三弾。ここに詳しい記述ある。
http://s.webry.info/sp/onyak.at.webry.info/200906/article_1.html
 オリジナルの"Project Pallo '85"はカセット3本組、その3本目のB面がこれだ。
http://www.japanimprov.com/indies/pariah/pallo.html
 美川の単独録音で、84~85年の録音。うなりを上げるノイズの奥で叫び声や鈍重な金属質の笛みたいな音もミックスされている。物語性は無く、ただただ23分にわたってノイズが貫かれる。けれども単調でなく場面ごとに少しづつ構成要素が変わり、響きも移り変わるのが特徴か。

 (2)はK.K.NullのレーベルNux Organizationがカセットで発表したコンピ"Hard Drugs"に提供した86年の音源。
https://www.discogs.com/ja/ja/release/1191734
 詰まった音色は録音テープのコンディションによるものか。意外とインキャパは複数の構成要素でノイズを構築するが、本盤は野太い布のごとく一気呵成に全体が歪んでいく。音色そのものは複数の響きに聴こえるため、元のテープをミックス段階でまとめて弄ったのかな。
 前曲よりもいくぶん凄みを増し、骨太なサウンドだ。前のめりのパワーは感じるが、やはりビート感は希薄。

 (3)は91年にドイツのFreudwerkとスプリット7インチに提供した音源。
https://www.discogs.com/ja/ja/release/715428
 軋む音は同様ながら、なんだか奥まった印象あり。轟音だと印象は変わるけれど、それなりの音量ではくるくると内省的な雰囲気すらも。とはいえ別に静かなわけではない。
 ハム・ノイズと非常にきめ細かいノイズが混在し、錐揉む高速回転で唸る。夾雑物を排し、えらくピュアな印象あり。やはりビート感は無いのだが、回転し続ける連続性で微妙にループする雰囲気が漂った。本盤でも特に純粋なノイズ。

 (4)は未発表曲で録音時期は不明。貫くノイズがまず轟き、高音が威勢よく暴れた。
 ちなみにインキャパは非常に高音を多用するが、歯の浮くような生理的嫌悪が全くない。不思議なことに。ともすれば高音のうねりは鳥肌立つのだが、なぜかインキャパの場合は平気だ。轟音で耳鳴りはしても、不思議とノイズそのものは体へ素直にしみこむ。
 この楽曲は5分程度と短い。炸裂しきれない躊躇いと、冒頭から一辺倒に突き進む暴れっぷり、どちらにも取れる。

 (5)は本盤発売にあたっての新曲。(1)とタメを張る24分弱の長尺で迫った。冒頭から音圧激しく噴出し、そのまま多層的なノイズが空気をザクザクと削り、ならしていく。
 この曲は小堺との二人で録音か。クレジットからは読み取れない。シンセのようにしゅわしゅわ沸き立つ音、せわしなく漏れる音など複数のノイズが片端からミックスされた。
 さらに低音が淡々と鳴り響き、音像をがっつり支えている。強固な構築性と細密な要素が両立したノイズである。

 一番古い音源は84年で本盤が94年と10年にわたるノイズだが、何も知らずに聴いたら本盤の中で10年の歳月が詰まってると気づくまい。
 機材の違い、録音環境の違いでノイズにの響きは異なるが、その音の変化すらもあまり意味を持たない。真の意味でノイズに惹かれ、騒音に惚れた美学が詰まっている。
 非日常ストーリーの創作も日常からの発散も意味を持たない。とにかく音にのめりこんだ、一つの極北がここにある。10年感の変わらぬ価値観が清々しい。

Track listing:
1. Long Awaited 23:46
2. Fallen Banker 9:34
3. Inverted Yield Curve 11:17
4. Libra Was Dead. Since Then, He Has Gone To Morgan Stanley. 5:10
5. BIS Conspiracy 23:58


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