南博 「Bird in Berlin」(1997)

 リリカルで優しく、凛としたピアノ・カルテット。だが一筋縄でいかない。

 実質は2ndだが、日本製作では初のリーダー作。盟友を集め伸び伸びとセッションした。南博のピアノはタッチが硬質だがロマンティック、そしてフリー要素は少ないって思いこみがあった。だが本盤では違う。さらにもっとアグレッシブなハードバップ寄り、時にはフリーっぽい音使いまで、幅広い音楽性を詰め込んだ。

 本盤を製作したころは、ライブでまさにいろんな演奏スタイルを聴かせていたのかもしれない。時を経るにつれ、自らの音楽や美学を煮詰めていったのかも。
 だが少なくとも本盤では、自由に様々な方向性の音楽を楽しんでいる。共通するのは瑞々しい音色と、しなやかなグルーヴ。そしてくっきりしたタッチ。南のピアノはメロディの輪郭がふくよかに感じる。だが芯は太い。

 ほんとうの意味でピアノのタッチの違いを言えるほど、ぼくの耳は良くない。ただの印象論だ。
 何度か聴いたライブ、そして色々と聴いた彼が参加してるCDを聴いて思うのは、南のピアノはストイックで強い意志を感じる。聴いててリラックスはする。だが隙を見せられない。どこか凛と気を張ってなきゃ、って気持ちにさせる。どんな柔らかいメロディ、いかなるテンポの曲であっても。
 寛ぎながらも、常に紳士で真摯。そんなイメージ。ライブだとMCは楽しいのだが。

 本盤はライナーに南のコメントが引用されてるが、カギはツノ犬のドラム。奔放で自由にリズムを刻み、そのうえで水谷浩章ががっつりとリズムを支える。そのうえでピアノがしっかり構築し、のびのびと竹野が吹く。そんなスタイルが根底にあるらしい。
 のちにしなやかなビート感の芳垣安洋、融通無碍な外山明と南は共演を重ねる。それらのエッセンスを一つにまとめたのが、ツノ犬ドラムと言えるかも。
 
 本盤はリーダー作だがバンドではない。けれどもセッションでもない。あくまで気心知れたグルーヴが、たっぷり味わえる。

 南がキャリアを重ねてどう変化してるか、同じ曲で別の盤と聴き比べる楽しみもあり。 "Now's The Time Work Shop"(1990)のオムニバスでも、(9)の録音があるのだ。本盤の約7年前にあたる。
 こちらは南博 Neo Jazzan Band名義で、サイドメンは竹野昌邦(ts) 水谷浩章(b) 原大力(d)。
 
 しかも本盤とはドラムが違うだけ、竹野と水谷はどちらでも演奏してる。彼らとは若手の頃から共演してたのか。
 なお"Now's The Time Work Shop"は、同じ企画名で、新宿ピットイン(朝の部かな?)に毎月入れ替わりで出演してた、当時の若手バンドを集めたアルバムだそう。

 本盤とのテイクを比較すると、"Now's The Time~"のほうが、いくぶんテンポが速く溌剌としてる。本盤のほうがグッと渋い。緩やかに展開するイメージ。さらにこちらはツノ犬のドラムがリズム・キープよりもっと、しなやかなドラミング。だからなおさら、本盤の流れるようなイメージが強調された。

 楽曲はコール・ポーターのスタンダード(5)を除いて、すべて南のオリジナル。どれも4~7分くらいの短い尺で、次々と曲が流れていった。

 (1)は硬質なアップテンポ。フュージョン的な洗練さもあるが、むしろハードバップな熱さを感じた。野太くテナーが鳴り、賑やかなライド・シンバルとベースが怒涛で押し進む。ピアノは強く鍵盤を叩いた。サックスの裏で流れるフレージングと、アクセントをずらしながらのフレーズで支える。これがリズム隊とノリがずれて躍動感を強調した。
 ソロになると一転、饒舌にピアノは駆けていく。

 (2)みたいな色が、ぼくは南のイメージ。ふっくらと音が広がり、凛と響く。歯切れよくランダムに刻むドラムを、ウッドベースが粘っこくまとわりつく。そのままベースのソロへ。ピアノはグルーヴィな旋律を断片的に刻んでばらまいた。

 ぐっとリリカルさを増したのが(3)。これも南の真骨頂。ソプラノ・サックスがか細く鳴り、ピアノはどこまでも美しい。ブラシでドラムは風を起こし、ベースもグッと音数を減らして、甘く優しく響いた。

 華やかな明るさを持った(4)は、どんどん音が弾んでいく。これもフュージョンっぽい硬質な涼しい風景がスピーディに進む。細かく刻むドラムと、跳躍激しいランニングのベース。
 ここでのピアノに、フリーっぽい味わいを感じた。けっしてメロディはアウトせず、一連の流れは貫かれているけれど。どこかフレーズ使いに無機質さあり。唸りながら南はピアノを弾いてるみたい。
 ドラムは次第にタム回しも足し、どんどんダイナミックに鳴る。スケール大きな世界をアンサンブル全体で作った。切り込むテナー・サックスがカッコいい。

 スタンダードの(5)はキュートに甘くスイングした。ころころと滑らかにピアノ・ソロがはずみ、飛んだ。はたきこむウッドベースの響きも頼もしい。ここではピアノとベースが対話形式で盛り立てる。
 ピアノの響きは透明に鳴り、エッジをそっとモヤけさせ包み込んだ。小品っぽく、最後は怒涛のエンディングに雪崩れてく。

 (6)もブラシのドラム。ピアノが主役で、じっくりメロディを解きほぐした。ピアノ・ソロが幻想的に広がる中、すぱっと空気を切り裂くベースのりりしいアドリブ。この対比が美しい。
 緩やかに付点で弾むピアノ、アクセントの位置をずらし弦が唸るベース。ドラムは途中で細かいおかずを入れるが、基本はブラシで一歩下がる。あくまでピアノとベースの対話を盛り立てた。
 ピアノが吸い付くように地に這い、ベースは伸びやかに音を膨らませる。

 (7)はアップテンポでタイトなキメ。ソプラノ・サックスが軽快に響き、ドラムは賑やかに叩き続けた。ベースがアクセントの位置をドラムと重ならないようにして、複合的なグルーヴを出す。
 ソプラノのソロではピアノが音を出さないアプローチも。南のソロではあるが、むやみに目立たない。もちろん直後のピアノ・ソロではパンチあるフレーズを噴出させるが。
 この曲なんかは80年代の洗練されたニューヨーク・ジャズを連想した。
 
 野太いメロディな(8)はサックスのテーマで、すっとドラムが引いてメロディの鮮やかさを引き立てた。こちらもフュージョン色の強い洗練っぷり。ただ、楽曲は構築されてるが、ピアノもベースもメリハリつけた演奏。むしろ凄みや余裕を見せつけた。
 楽曲はスマートだが、ぐっと骨太に仕上がってる。ソプラノ・サックスの怜悧な響きがたっぷりとごつごつしたリズムの上を滑らかにすべっていった。
 最終曲の(9)は前述のとおり。大人のダンディズムを漂わす、落ち着いた風格が香る。

 決して五目味のアルバム、ではない。一気通貫した南博の美学はもちろんある。ただ、後年のアルバムに比べたら、バラエティに富んで聴こえたんだ。いろんな方向性に食指を伸ばすかのように。 

Track listing:
1. Solid Conclusion
2. The Space In The Night
3. Winter
4. Ash Line
5. Everything I Love
6. Arested Thoughts
7. The Back Yard Party
8. Stillness (For Iceland)
9. Bird In Berlin

Personnel;
南博(p)水谷浩章(b)竹野昌邦(sax)ツノ犬(ds)

 最後に南博のリーダー作をまとめてみよう。85-88年にフィズというジャズ・ロックのグループで2枚のアルバムあるそうだが、これは委細が不明。

[Discography]
1992 Message for Parlienna
1997 Bird in Berlin【本盤】
1999 Three times one(トリオ名義)

2000 Songs(トリオ名義)
2002 GO THERE!(GO THERE!名義)
2002 Celestial Inside(GO THERE!名義)
2004 Touches & Velvets

2006 Elegy
2008 Like Someone In Love(トリオ名義)
2009 花と水(菊地成孔とデュオ)
2010 The Girl Next Door(トリオ名義)
2010 From me to me(GO THERE!名義)

2011 Body & Soul(トリオ名義)
2012 live at ARISTOHALL(トリオ名義):配信のみ
2013 Behind the inside(THE MODERN TRIO名義)
2015 Fox Wedding(THE MODERN TRIO名義)

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