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不破大輔 「28」(2001)

 ロマンチックさと実験精神を滲ませた、貴重なソロ名義の作品。

 不破大輔は渋さ知らズのダンドリストな一方で、並行してバンド活動にこだわってきた。自分がリーダーだったり、参加してたり。この2001年だとフェダインが前年に解散。渋さチビズやドンバ、低音環境で活動してた・・・かな?時代背景があいまいだ。
 とにかく唐突にソロ作がリリースされた印象ある。

 不破のベース・ソロなどほんとうの意味でソロ・ライブも、頻度はまれだが珍しくはない。だがアルバムでソロは、編集盤の"地底レコード WORKS"を除き、このあと一枚もない。この前だって"劇音"が思いつくくらい。"不破大輔商店"のすべてのタイトルを知らないが、他にもあるのかな?
 つまりそれくらい、アルバムとして自己名義で不破が発表するのは珍しい。

 ライブならFuwa Worksなど、自分の名前を冠するセッションもある。だが不破はなんとなく、バンド活動にこだわってるように見える。セッション、でもいい。ミュージシャン同士の化学反応から生まれる音楽を求めてるような。
 さらに前衛、にもこだわる。聴きにくいほどの尖りは向かわず、豪快なまでのグルーヴを自らのベースから生み出しながら、即興と新たな何かを常に追う。
 その一方で、いったんのレパートリーを非常に大切にするのも、ギグを繰り返すジャズメンらしいところだ。

 さて、本盤。"28"とは「ふわ」。ツイッターなどで不破が使う別名から、だろう。
 ソロ名義で自分の名を冠した非常に貴重なアルバム。・・・その割に、本盤のクレジット見ると驚くほど自らのエゴを出してない。
 不破はバンドでも強権発動でワンマンな印象を与えない。鷹揚に緩やかに、しかし芯はしっかりと支える。いかにもベーシスト、と言えるかもしれない。
 本盤のクレジットでは、プロデューサーが地底レコードの吉田光利。ディレクターが佐々木彩子。Project Supervisorに片山広明。仲間に任せて、ソロ作の気負いがさっぱり見当たらない。

 だけど音楽は別。もちろん不破の骨太でがっつりしたサウンドが詰まった。祝祭的な渋さ知らズ、コンボ編成のダイナミックなグルーヴ、どちらの要素も微妙に外してフリージャズを熱っぽくシンプルにまとめた印象。
 最初に本盤を聴いたとき、この当時にライブで聴けてた音楽とも、全く違った風景で戸惑いつつも興味深かった記憶あり。
 
 録音メンバーも新鮮。手っ取り早く言うと、Fiktionを軸に渋さがらみのメンバーを面白いアプローチで投入した。
 静かで、熱いアルバムだ。ロマンティックで照れ屋、だが肝っ玉の太いアルバム。なおかつ、Fiktionで先輩世代の胸を借りる無邪気さもある。
 いっぽうでメンバーのサウンドに頼らず、独特な浮遊感とグルーヴ大会に雪崩れない。ぐいぐい流れを引っ張ってい行く。冷静さを見せた。

 本当にこのアルバムはユニークだ。本盤のサウンドは、とても個人的で透き通っている。豪快さをぐっとこらえ、なおかつ暖かく仕上げた。Fiktionのメンバーをも呑みこんだ、不破の底知れぬ懐深さが表現されている。

 Fiktionとは99年にさかのぼるアルバム。先輩世代に当たる三人、豊住芳三郎/片山広明/石渡明廣とのセッションを冠し、Studio Weeの第一弾で発売された。
 音源は98年のライブ。不勉強ながら、あまりこのメンツでライブを重ねた印象は無い。


 本盤の軸は、この3人を全面的に招いた。彼らとのサウンドに手ごたえあるのは当然、不破としてもさらに新しい要素を加えたアンサンブルを作りたかったのではないか。

 一曲目からして、地味だ。がっつりグルーヴ大会でも、ベースのアップテンポでもない。雅楽風の高らかな笛やハーモニカ、ランダムなビートと、およそキャッチーな盛り上がりと逆。
 途中でブライトな石渡のエレキギターが飛び込み、細切れなスティックさばきのドラムとベースが噛みつき、テナーが軋む。祭囃子みたいな素朴な祝祭感から、すんなりフリージャズに雪崩れる勢いは見事だ。
 
 ちなみに笛は泉邦宏か。ハーモニカは誰だろう。室舘彩かな。本盤の4曲にはこの二人と、吉田隆一、高岡大祐が加わる。いずれも渋さ(ドンバや低音環境でもあるが)がらみの人脈。フリージャズながら、分厚いホーン隊で小編成の熱いグルーヴを潜り抜けた。
 曲でいうと(1)(2)(5)(7)がこの編成にあたる。

 この編成は大勢で賑やかな演奏だが、録音は分離良く弾んだ。
 インプロは派手なリフは無いが、じっくり聴いてると暴れっぷりと、強力に制御された構成が美しい。あえてフリーに安住せず、ミンガスの"Goodbye Pork Pie Hat"も取り上げる。つまり「曲」を演奏しつつ、別の縛りにも柔軟に対応できるとこを見せた。

 そう、本盤は不破は自らのオリジナル曲にもこだわらない。(3)はローランド・カーク、(4)は片山の曲。片山が当時のライブで(3)をレパートリーにしてた印象あるが、本盤では不破の選曲かな?

 (3)と(9)がFiktionの編成。
 (4)と(8)は女性コーラスを足した。まず(4)。これがまた奇妙で刺激的なアレンジを採用した。吉岡みどりと佐々木がスキャットを足す。だが吉岡は執拗に同じリフレインを繰り返した。演奏に合わせ自在に変化せず、敢えて淡々とオスティナートを重ねることで、妙に呪術的なほどの凄みと美しさを楽曲へ与えた。
 不破の指示だとしたら、実に斬新だ。70年代のスピリチュアル・ジャズを連想しつつも、ぐっとクールな風景を作り上げた。本盤でも屈指の素晴らしさを持つ。

 (6)はFiktionに関根真理が加わった編成。そう、本盤は意外といろんな女性の色が濃い。
 関根の小刻みでくっきりしたエッジのジャンベが熱っぽく響き、心なしか豊住も金物を叩く比率が増えたような。インプロから曲へ向かう。とはいえ曲と言ってもテナーが軽快に吹きまくる程度。いきなりフェイドアウトで終わってしまうのが悔しい。フルセットで聴きたい。
 そう、本盤はどの曲も短い。9曲も詰め込むため、あっさりと終わってる。コンパクトな良さもあるから不満言うのも芸がない。微妙なとこだ。

 そして(8)。象徴的な曲でもある。石川啄木の詩へ不破がメロディを付けた(8)は、このあとに渋さで定番レパートリーになった。
 アレンジは石渡と不破のみ。リズムを抜いて、ブライトなエレキギターとウッドベースのみの武骨で細やかなサウンドを作った。

 ここで歌うのが吉岡ってのも興味深い。渋さでは関根が歌うイメージあるし、本盤の参加メンバーなら佐々木や室舘が歌ったって違和感は別にない。むしろ自然だ。
 だからこそ不破は外し技で、吉岡をキャスティングしたのかも。
 切ないメロディが、高らかに舞い上がる名曲だ。ほんとうにしみじみする。豪華さを排し、ストイックにそぎ落としたアレンジで盛り上がる、これも大傑作なテイク。

 最後の(9)もスタンダードで、ルイス・ボンファの"黒いオルフェ"。スタンダードもてらいなく取り上げた。演奏はがっつり熱い。Fiktionのみで、ハードに大暴れする。
 ここまでどこか知的で冷静さを持ったサウンドを、すべて吹き飛ばすように。
 炸裂するイントロから、ひねりまくった後にエレキギターがテーマを浮かび上がらせ、変貌し溶かした。テナーが奔放に吼え、するっとテーマを拾い上げる。
 ドラムとベースも自由だ。うーん、かっこいい。

 貪欲な音楽への熱情をさまざまなアプローチで表現した。安易な得意技に頼らず、新しいアプローチで斬新さも狙う。まさに実験的なソロアルバム。なおかつ、聴きやすく沁みる。廃盤なのが惜しい一枚だ。
 のちに"不破ワークス"で(4)(7)(8)(9)は再発されたが。

  

Track listing:
1. Picking
2. 001206074
3. Lady's Blues
4. Night
5. 001206071
6. 001206072~Taratattarattara
7. Goodbye Pork Pie Hat
8. Hikouki
9. Orfeu Negro (Manha De Carnaval)

Personnel;
Alto Saxophone - 泉邦宏 (tracks: 1,2,5,7)
Baritone Saxophone - 吉田隆一 (tracks: 1,2,5,7)
Bass - 不破大輔
Djembe - 関根真理 (tracks: 6)
Drums - 豊住芳三郎 (tracks: 1-7,9)
Guitar - 石渡明廣
Musical Director - 佐々木彩子
Producer - 吉田光利
Project Supervisor - 片山広明
Tenor Saxophone - 片山広明 (tracks: 1-7,9)
Tuba, Hoomei - 高岡大祐 (tracks: 1,2,5,7)
Vocals, Voice - 吉岡みどり (tracks: 4,8)
Voice - 室舘彩 (tracks: 1,2,4,5), 佐々木彩子 (tracks: 4)

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